第三話 姉と謎の女
営業3課、電話を受け、用件をメモする女子社員。
得意先に赴く男性社員。
相変わらず女子の人気が高い亮。
並んでパソコンを見ながら顔を近づける女子に、ややうんざりしている。
奥田商事の自社ビルには屋上があった。施錠され社員は通常入れない。
遠くの景色がよく見える。
友理奈はここにいた。
作業服でポニーテール、メイクもほどほどで、清掃員と一目でわかった。
カップコーヒーを飲んで、カップを地面に落とす。
「清掃員がそんなことしていいのかな?」
男の声に振り返る友理奈。
(この場所には、誰も来ないはずなのに……)
亮が立っている。
誰? ……と思ったが、さほど驚く様子もない友理奈。
「後で、清掃しておく、ここ私の担当だから」
ま た、景色に顔を向けた。
近寄る亮。
(なに この男?)
「社員は入れないはずだけど」
「カギが開いていたから」
亮は少し距離を話して立った。
友理奈は、カギを持っていた。
「私だけの息抜きの場所なのに」
友理奈の横顔を見る亮。
「なに?」
「同じ匂いがする」
「匂い?」
「俺と同じ」
「なんの話? 初対面で仲良くなる話術?」
「出会いは、突然訪れるってこと」
「出て行って、業務開始、邪魔しないで」
これ以上、二人の会話はなかった。
亮は、仕事に戻った。
亮は、清水と大手食材店の営業に来ていた。
亮の得意先回りは順調で、評判もよかった。新規の受注も増えつつある。
仕入れ担当・山本和也と井口京子と話す亮と清水。
「新規の発注、ありがとうございます」
亮は白い歯を見せる。
「積極的な売り込みに負けました」
「今後ともよろしく」
京子の嬉しそうな顔に、亮は礼をした。
奥寺商事。
社員の多くが昼食を終わらせ、午後の仕事にとりかかっている。
倉庫で掃除用具を整理している友理奈と双葉洋子がいた。
「イケメンの新人、仕事できそうじゃない」
話好きの洋子が亮の話を始めた。奥寺商事の中央情報局メンバーの一人だ。
「そうですか」
友理奈は知らん顔をしている。
「見た目だけで、中身は半熟卵って社員も多いからね」
「興味ありませんけど」
「男に興味ないの? 同性が好みとか?」
「ち、違います。あの男には興味がないだけです」
「あの男って、なにか知っているの?」
「全然」
「だったら教えてあげようか?」
「え?」
洋子は友理奈に顔を近づけた。
「私しか知らない、彼の秘密」
「秘密……」
こうして一日が過ぎていった。
奥寺商事の前。
昼休憩の時間。
社員食堂に飽きた社員は、時々外へ食事にでかける。
専務の金本が社用車で出発した。
その様子を見ている亮。
真奈美が近寄ってきた。
「ランチ、ご一緒しません?」
「あの人……」
「金本専務ですよ。社長が変わって専務派も色々と動きが……」
(あれが専務か……)
「なに食べます?」
呑気に亮の腕に触れる真奈美だった。
夜のバー。
五十嵐と清水が酒を飲んでいる。
「他部署の女子も的場を目当てに3課にきていますよ」
「石清水亮……ますますほっておけなくなった」
と、亮の排除を画策するのだった。
奥寺家リビング。
大きな液晶テレビがあり、映画も臨場感たっぷりに楽しめる。
食後、テレビを見て寛ぐ亮と梨緒。
「どう? 姉さんの料理の腕」
「僕の口には合ってる」
「そう、よかった」
一瞬、退屈そうな顔をする亮。梨緒はどうしようかと考えた。
「ゲームしようか? テレビゲーム」
梨緒が言い出した。
その頃、都会の街並みには、夜の風景があった。
中年男性と腕を組んで歩く友理奈の姿があった。
高級レストランに二人で入る。
高価なアクセサリーを身に着けた紳士淑女が料理と会話を楽しんでいる。
友理奈もまたその雰囲気に溶け込み、中年男性と楽しそうに食事をした。
奥寺家リビングでは、ゲーム音が聞こえる。
格闘ゲームに夢中の亮と梨緒。
梨緒が負け、
「また私の負け……強いのね」
と、がっかり。
「姉さんが弱すぎるだけ」
「姉さんだって、ウフフ」
姉さんと呼ばれ、目じりが下がる梨緒だった。
「ねえ、亮……私が勝ったらほっぺにキスして」
「な、なんの要求?」
「憧がれていたんだ」
梨緒は思い出していた。
中学生の時、公園にいた時だった。
男の子がころんで泣いてしまう。その時女の子が駆け寄って抱きおこした。
姉と弟に思えた。
弟の服の汚れを手ではらう姉。
弟が泣き止むと、姉は頬に軽くキスをしたのだった。
そんな様子を、梨緒はうらやましく見ていた。
そのシーンをこの場で再現したい。
「やろうよ」
梨緒は、亮を納得させた。
そして……
梨緒が勝利する。
「やったぁー」
梨緒は大げさに喜ぶ。
「急に強くなった」
頬を向ける梨緒。
亮は、ためらうが、
「はやく」
と、催促される。
「仕方ないな」
亮は、梨緒の頬にキスをした。
梨緒は満面の笑みだったが。
(無邪気なもんだ。なにも知らないって、幸せなことかも)
亮は内心、この姉をどう利用するかを考えていた。
奥寺商事の屋上。
透き通った風が静かに流れていく。
休憩中の友理奈、遠くの景色を見ていた。
「暇そうだな」
亮だった。この場所が気に入ったらしい。
「ここは男子禁制」
「聞いてない」
「今日から、私が決めたの」
「そんな権限があるんだ」
「この屋上の主だから」
「俺もここ、居心地がよさそうだ」
「働かなくていいの?」
「ん?」
「上にのぼりたいんでしょ?」
亮は友理奈の横顔を見た。なにを考えているのかわからない。
「あなたは、この会社の主を狙っているとか?」
(この女……俺のことを???)
「おまえ……清掃員は社内の情報に詳しいって」
友理奈は質問に答えず、
「欲しいのは、会社? それとも美人の常務?」
謎めいた言い方をした。
「なにを、どこまで知ってる?」
距離を詰めてきた。
亮の本性が表面にでた瞬間だった。
友理奈の首を絞めようとする亮。
友理奈は恐れていなかった。
「知っていることを話せ」
「殺していいよ」
渇いた声で言った。
亮を澄んだ目で見つめる友理奈。
「あなたに人が殺せる?」
亮は、友理奈から離れた。
「まあいいさ。なにかの役に立つ時も……」
と、背中を向け歩き出した。
友理奈は寂しそうに、遠くに視線を移した。
ミストボックスのオフィス。
この場所は、謎の空間。
予約制で秘密厳守のため、すれ違う人はいない。
メイコと向き合う亮。
「調べておいたわよ」
と、テーブルに置いた資料に友理奈の顔写真。
「真壁友理奈、大学生。学費を稼ぐために昼は清掃員、夜はデートクラブの仕事」
亮は密かに友理奈について調査を依頼していた。
「それだけ?」
なにか特別な事情を抱えていると読んだのだが、外れたか?
「なにか波乱に満ちた過去でも抱えていてほしかった?」
メイコは、なにかを隠している様子をみせない。プロのエージェントだから当然だが。
「そんな普通の女には……」
亮はやはり、疑っている。
資料をじっくり見る。
「ストーカーに?」
「そうそう、今、客だった男からストーカーに近いことされて困っているそうよ」
気になる点は、そのくらいだった。
亮は、友理奈の調査資料を持ち帰った。
都会の街、夜景に彩を加えるヘッドライトの波。
タクシーから降りる友理奈、車内から中年の客が手を振り、タクシーは走り去る。
駅に向かおうとした時だった。
「レミちゃん」
と、友理奈の夜名を呼ぶ声。
田淵が立っていた。腹が出て、センスの悪いファションを着飾っている。
ストーカーの男だった。他の客とトラブルになり、接触禁止になったが、しつこくつきまとっていた。
「田淵さん、いい加減にしてください」
「なんでだよ。俺はレミちゃんのことを」
すでに息が荒い。
「いや」
と、逃げる友理奈。
「待て」
田淵は追いかけた。。
人気のない場所に追い込まれる友理奈。
スマホを取り出した瞬間、田淵に腕をつかまれる。
「誰か助けて!!」
「もう離さない」
口をふさがれる友理奈。
「こんなに君のことを……」
ハァハァと息が荒い。
顔を近づけてくる。太った体から汗が臭う。
友理奈は首を横に振った。
「やめときな」
サングラスをかけた男が立っている。
裏社会を仕切る男という雰囲気。
「なんだあんた」
田淵は友理奈から離れた。
「その女、俺のものになったばかりの女だ」
「レミちゃんの客? だったら俺のほうが付き合いは長い」
「俺は客じゃねえ、そいつは俺の女だ」
「嘘だ、レミちゃんは誰のものにもならない」
研吾「若」
岩倉研吾が現れる。カジュアルな服装で遊び人ぽい。
「若?」
田淵は、サングラスの向こう側を見た。鋭い目が光る。
「なんだおまえ、このかたはな、闇社会最大勢力、霧獣会<ミストビースト>の幹部だ」
「闇……最大勢力……そちら方面のかたで」
と、よくわからないが、危ない相手だと思い怯える田淵。
「若い連中、四~五人呼び出すか」
「すみません。もうレミちゃんは諦めます」
田淵は、逃げていく。慌てて転ぶが、すぐに起き上がり消えていった。
友理奈は、男の顔を見ようとするが、サングラスを手で押さえ、俯く男。
「今から俺の女だ」
「いやです」
「帰さねえぞ」
(逃げなくちゃ)
友理奈は、必死で周囲を見回すが逃げ道はない。
男は、一歩踏み出す。
「大声を出します」
友理奈の必死の顔を見て沈黙する男。
突然、笑いだした。
(なに???)
男は、サングラスを外した。
「なんで?」
からかうように笑っている亮。
「大きな組織の幹部だったの?」
「こんなイケメンのワルがいるか?」
と、研吾が亮の隣に立った。
研吾も笑っている。
「少年院には入ったけど」
亮はサングラスを胸のポケットに仕舞った。
「ミストビーストって?」
「偽りの巨大組織……そんなのが、バックにあったら都合がいいだろ」
「そうだったの」
友理奈は、ホッとしたような顔をした。
「亮とは少年院で知り合ったんだ」
研吾が言った。
「なんでここに?」
「偶然じゃだめか」
「飲みにいくところだったんだ。一緒に?」
「断れないよな。偶然とはいえ助けてもらったんだから」
友理奈は迷っている。この二人、信じていいものか?
でも、助けてもらったのは事実。
「レイプ殺人の被害者になっていたかも?」
亮のセリフに友理奈は納得するしかない。
「わかった。割り勘なら」
友理奈は不愛想に承諾した。
微笑む亮と研吾だった。




