第二十七話 新企画の行方
亮は店舗企画部の所属継続を希望した。
まだ、この部署では新しい出会いがありそうだ。
「まだ石清水さんと仕事が続けられるなんて」
「ありがとう」
和葉がコーヒーを入れてくれた。
女子社員からの人気は変わらず、他の部署にもファンがいる。
「今日から新しい社員の人が」
「うん」
こうして、この日は始まった。
係長の池上祐一との関係も悪くない。
「息子とは時々キャッチボール」
「いいですね。休日の楽しみがあって」
そんな話から始まり、新人を紹介された。
門倉春馬。大手の三崚物産を退職して奥寺商事に転職してきた。
父は官僚。
「彼には、新しいコーヒーショップのチェーン展開を担当してもらう」
亮にも、そのプロジェクトに参加してほしいとの要請だった。
「コーヒー大好きなんで、楽しみです」
明るい好青年といったイメージだった。
「よろしく、このプロジェクト、一緒に成功させましょう」
二人は握手を交わした。
仕事が終わり、社員が退社する時間。
梨緒と亮は、こっそり会っていた。
亮が前社長の隠し子という秘密は、社員に知られてはいけない。
もちろん、姉と弟ということも。
「社員にバッタリなんてことがないといいけど」
二人は眼鏡をかけ、変装していた。
「どこにつれていくんだよ」
「面白いお店見つけたの。亮と行ってみたいと思って」
店の前に来た。
「ここって!!」
「知ってるの?」
「いいや」
亮はごまかした。
そこは、句会堂天明の経営する忍者パークだった。
外国人向けに忍者の遊びができ、カフェで食事もできる。
以前黒木に案内され、天明と再会した店だった。
天明は武闘派も倒す忍者の末裔だが、ここでは愛想のいい店長の顔を見せている。
「いらっしゃいませ」
亮と梨緒を見た天明。
「あれ?」
という顔をした。
亮は小さく首を振った。
他人のふりをしてくれのサイン。
「食事を」
梨緒が言うと天明はうなずいた。
「よし乃、お客様をご案内」
「は~い」
よし乃が歩み寄る。
女忍者くノ一の姿、ここで働く店員はほぼ全員、忍者の家系でもある。
「こちらへどうぞ」
梨緒はメニューを広げた。
写真付きで創作料理・デザートの数々。
「亮、どれにする?」
梨緒は恋人人気分になっている。
こんな場所に二人でいられることが嬉しくてしょうがない。
オーダーすると、やはりくノ一の姿で、雅とかたせが品物を運んできた。
「雅です」
「かたせです」
名前を告げると、大皿をテーブルにのせた。
忍者スペシャル、草履型パンケーキ、俵のちまき、チョコレートの忍者グッズなど、鉄の爪と刀がフォークとナイフの代わりになっている。
「面白~い」
梨緒は大はしゃぎだ。
食べてみると、味も最高!!
「うん、形にこだわりすぎて味は……と思ったけど美味しい」
ハエが飛んでいる。そのハエを素手でつかみ取るよし乃、手の動きは音速。
その一瞬を亮は見逃がさなかった。
店からでてきた亮と梨緒。
梨緒は満足そうな顔をしている。
「腕組んで帰ろうか?」
「だから、どこに会社の人がいるかわからないから」
亮は距離を離した。
「つまんないの」
梨緒は頬を膨らませた。
店舗企画部では、コーヒーショップの企画会議が行われている。
いずれはチェーン展開を視野に入れているが、まずは1号店を成功させてから。
人材募集の準備も進められ、必要な資材・食材は物産にいた春馬が担当する。
視察として、有村コーヒーというショップを訪れた亮、春馬、和葉。
「ここのコーヒーは以前僕が仕入れを担当していたんです」
「美味しい、ほどよく酸味もあって、まろやか」
和葉が感想を言った。
店長があいさつに来た。
「門倉さんにはお世話になりました」
「いえ、こちらこそ」
「こういう美味しいコーヒーを提供したいですね」
亮もコーヒーの味に満足している。
「お父様も時々来られるんですよ」
「父が……」
春馬の顔色が曇った。
「お父さん?」
和葉が春馬を見る。
「官僚なんです。僕とはあまり意見が合わなくて」
「では、ごゆっくり」
店長は戻っていった。
その時、別の客が入る。
「あれ、門倉?」
「先輩?」
「久しぶりだな」
春馬は、物産で一緒に仕事をしていた亜麻野を紹介した。
今は、独立して会社を経営しているという。
「コーヒーショップを……それなら俺も手伝えることが、また連絡する」
そう言って亜麻野が向かった席には、宗教色を感じさせる服を着た男たちが座っていた。
亮の目が光る。
亮は友理奈と会社の屋上にいた。いつもと同じ、コーヒーを飲んでいる二人。
「美人のお姉さんとのデートはどう?」
「ん?」
「グラマーでセクシーな、くノ一もいるとか」
「忍者のこと知っているらしいな」
「もちろん」
「一つ訊いておくけど」
「なに?」
「この会社の中央情報局は、どこまで秘密を?」
友理奈は意味深に笑っている。
「秘密を共有するって、ワクワクするね」
「大丈夫なんだろうな」
「安心して、社員に知られることはないと思う。今のところは」
「じっくり、この会社の支配を目論んでいるからな」
「復讐心は消えないのね」
「当たり前だ。そのために俺は、なりすましで、ここにいる」
「とりあえず、今はコーヒー関連のプロジェクト推進?」
「ああ、うまいコーヒーが飲める店を作る」
「私も、あなたが企画に参加したお店のコーヒー、楽しみなんだ」
じっと見つめる友理奈。
「コーヒーは、向こう向いて飲めよ」
亮は遠く景色を見つめた。




