第二十四話 日向坂リリカ
国際空港、到着ロビー。
リュックを背負い、ロビーを颯爽と歩く一人の女。
一見迷彩服に見えるが、特注品のオリジナル戦闘服を着ている。
海外協力隊でも自衛隊員でもない。
日向坂リリカ。美人で細身の体の奥には、想像を超えるパワーを秘めている。
彼女も、かつては地下格闘技場にいた。
剛腕の男の手足をへし折り戦闘不能にするほどの戦いのプロ。
格闘というより戦闘マニア。
闘技場を離れ、トラや白熊との戦いを求め海外に出た。
その後、アフリカの紛争地帯に移動した。
難民キャンプで子供たちの世話していた時もあった。が、戦闘も激しくなり、傭兵としての活動にも身を投じる。
ある日、キャンプで子供たちと食事をしている時だった。
「リリカーー」
子供たちの母親が駆け込んできた。
「どうしたの?」
「子供が、ライオンに!!」
リリカは、飛び出し草原を走った。
幼い兄弟が木の上に逃げている。ライオンに取り囲まれていた。
リリカは、ライオンに向かっていた。
人間一人、ライオンも恐れなかった。
ライオンは一斉にリリカに牙を向けるが、ほんの数秒でライオンは吹き飛ばされた。
「リリカーー」
リリカは、兄弟を抱きしめた。
その腕を買われ、傭兵としての仕事を頼まれることもあった。
日本が恋しくなったのか、ただの気まぐれなのか、理由は定かではないが、今回東南アジアを経由して帰国したのだった。
亮は、部屋で梨緒と話した。梨緒は甘い会話を期待していたが、亮は社員と常務の関係を求めた。
「店舗企画部に?」
「新しいポイントシステムに興味があって」
「うれしい」
「ん?」
「亮が、奥寺商事の社員として成長していく手助けができるなんて」
梨緒は甘い声で言った。
「僕、姉さんのためにもがんばるよ」
二人は見つめ合った。
夕日が都会のビルをオレンジ色に染めていた。
経済産業省からでてきた男がいた。政務官の中園雅彦だった。
夜になると、闇カジノが賑わう。
表の顔はバーだ。
そのバーの密室で、大きな力が暗躍する。
円卓のテーブルには、コンサルタント会社・ベルサイト、投資会社・バンドールカンパニーの幹部、そして中園だった。
会社の乗っ取りなどは当たり前、海外で武器の売買もしている組織が目を付けたのが、ポイントの交換制度の一本化だった。
が、それだけではなく、裏で大きな裏ビジネスを画策しているようだった。
出入口では、荒くれ者を集めたシャルム兵団の兵隊がスーツ姿で警備している。
店舗企画部では、新しいポイントシステムの導入を進めている。
亮もこのプロジェクトに加わった。常務の梨緒が味方になっているので、無理がきくのも事実だ。 亮はそんな梨緒をうまく利用している。梨緒もまた、亮を弟と知りながらも思いを寄せている。
企画部では、奥寺商事のポイントシステムを構築した後、他のポイントとの連携を考えている。
検討段階からプロジェクト開始までのスピードが速い。
係長の池上の手腕によるものだった。政府関係者とのパイプもあり、情報の入手からシステム構成までスムーズに動いている。
「係長、やり手ですね」
亮は、隣の席の峰岸和葉に言った。
「少し前からなんですよ。係長仕事に夢中になって……特に今回は」
「今回の企画って、かなり大きなプロジェクトに?」
「奥寺商事だけだったらそうでもありませんけど、どうやら経済産業省も関係する大きなビジネスになりそうとか」
「政治もからんでいるのかな?」
「係長主導で進んでいるので、詳しいことは……」
亮は、ミストボックスにいた。
メイコが差し出したのは、政務官の中園の写真だった。
「黒幕か?」
「他にも裏社会を仕切る表企業もからんで、大きな企みになっていそうよ」
「ただのビジネスじゃ済まないようだな」
「こちらももう少し調査する、そちらでも」
「わかった」
中園の休日。亮は探りを入れるため、スポーツクラブに来ていた。
「ボルタリングが趣味とはね」
亮は離れた場所で見張っている。
その時、背後に気配を感じる。
ん!?
瞬間、顔めがけて足蹴りが飛んできた。
腕でガードする亮。
女と目が合った。
日向坂リリカだった。
「リリカ!! なんで???」
「久しぶり、格闘センスは鈍っていないね」
「おまえもな」
リリカは笑った。
「いつ日本に? トラを仕留めに行ったんじゃ?」
「トラも白熊も私の敵じゃなかった」
だろうね……という顔をする亮。
「で? なにやってんの?」
「もちろんトレーニング、日本に来たら平和すぎて戦闘を忘れてしまうでしょ」
「さすが戦闘マシン」
亮は、友理奈と屋上にいた。
「どう? 新しいポイント制の導入」
友理奈はいつもの通り、コーヒーを飲みながら喋る。
「システムは、係長の新規取引先でのIT企業が関わっている」
「店舗を利用するとポイントが貯まる仕組み?」
「それだけならどこにでもあるポイント還元の仕組みを導入しただけなんだが」
「裏になにか?」
「中央情報局からの情報はないのかよ」
「最近、お金の使い方がね」
「まさか、池上係長の?」
「家族サービスと言ったら聞こえはいいんだけれど、高級中華とかフランス料理を家族でお楽しみのようで」
「金遣いが変わるというのは、裏がある証拠でもあるよな」
「この前、怪しげな男たちと割烹料理店に入るの見た」
「いよいよ動き出すのか」
ふと遠くのビルを見つめる亮。
向こうのビルから双眼鏡でこちらを覗く女、リリカだった。
「あいつ……」
リリカは亮を見て、ウインクした。
その夜、ミストボックスに来た亮。
メイコと話す。
調査も進み、裏ビジネスの核心に迫りつつあった。
ポイントシステムを統合し、全国的に統一したルールと運営を一本化し、ポイント売買などで大きな収益を得る。
多くの企業がからむため通常なら難しいが、経済産業省がリードして企業へのアプローチを進めるという筋書き。
が、本当の狙いは違っていた。
「マネーロンダリング?」
「そう、このポイントシステムの流れを利用して、表に出せない巨大な裏資金を洗浄しようとする企み」
「いったんポイントにして、その売買で現金に戻すとか?」
「実際はITを利用してかなり巧妙に行うでしょうけど」
「それゆえに、大きな組織や裏企業が手を組んだということか」
「潰せる?」
「奥寺商事の社員もからんでいるんだ。ほうってはおけないだろう」
「武装組織、シャルム兵団が背後にいるから気をつけて」
ミストボックスを出てきた亮に後ろから手で目隠しをする女。
普通なら背後を取られる亮ではないが、その女の正体を知っているので安心している。
「綺麗な女子ばかりに囲まれちゃって」
「リリカ、なんで俺を……」
「なんか、面白い仕事ないかなと思って」
「戦わせてやろうか?」
「そうこないとね」
嬉しそうなリリカ。
「相手は?」
「結構手ごわい武装組織」
「私、特攻隊長に立候補」
亮は、やれやれという顔をした。




