第十六話 食材探し
会社では、新店舗の食材選びが課題となる。
店のコンセプトの合った、こだわりの食材とメニューの開発が急がれた。
関係先の料理研究家にも協力を依頼した。
亮は屋上で友理奈に仕事の話をした。
異次元の距離間ともいえる二人の関係は、時に近づき、時に離れる不思議な関係になりつつあった。
「恋愛の話じゃないんだ」
「食の話はつまらないか?」
「いいえ、頼ってもらえるのは……」
(うれしい)
「なんだ?」
「なんでもない」
「天然、自然、野生といかいった食材をどうやって集めるか」
「一つ心当たりが」
友理奈は、亮を見つめた。
「ん?」
そこは、田舎町だった。
「空気がきれいですね」
「ホント、気持ちがいい」
辻谷恵美、藤沢千奈美も同行していた。
田畑の小道を歩く亮、鶏の鳴き声が聞こえ、小屋の前で番犬がこちらを見ている。
「こんにちは」
「電話でお話しました奥寺商事のものです」
「ようこそ、こんな田舎まで」
農業と養鶏業を営む田向治、秀代の夫婦が応対した。
友理奈からの情報で、亮が推進部に紹介した農家だった。
実際に訪れたのは始めてだった。
裏の大きな庭に放し飼いの鶏が元気に飛び跳ねている。中にはケンカしている鶏もいて、自然の飼育環境が存在した。
治は、草の間から卵をとってきた。
「ここの鶏は、こうして卵を産むんです」
ツヤのある新鮮な卵に見えた。
そこへ梨緒がやってくる。
「常務!!」
恵美、千奈美も驚いている。
「こんにちは、私もこのプロジェクトを任されているから」
と、笑みを浮かべて、一緒に見学を始めた。
「鶏も元気そうね」
と、楽しそうな梨緒。亮が歩み寄る。
「いいのか? 一緒に仕事なんて」
「こういう時じゃないと、一緒になれないでしょ」
二人は気づかれないように小声で話した。
梨緒にとって、これほど嬉しく楽しい時間はない。
梨緒は、亮と距離をとりながら、チラチラと大好きな弟の仕事を観察した。
「みなさんお食事でも」
秀代が玄関から声をかけてきた。
一同は畳の部屋で食事となった。
炊き立てのごはん、米も田向が有機農法で作ったものだった。
そこに、とれたての生卵をかけて食べる。
「おいしい」
みんな、卵の味の濃さに驚いている。
「ごはんとの相性も抜群」
亮は、田向を協力農家として、食材提供の契約を求めた。
亮と友理奈は、会社の屋上でカップコーヒーを飲んでいた。
「食材提供の契約、無事終わった」
「よかったね」
「田舎の農家と知り合いとはな」
「大学の友達の実家が近くだっただけ、前に一度遊びに行ったことがあった」
「友達いるんだ」
「あなたと一緒にしないで」
亮は黙っていた。
「そのコーヒー おごりだから」
珍しく亮も機嫌よく言った。
「謝礼にしては 安いのね」
「今度、カフェオレにするか 20円アップ」
「いらない」
(私が欲しいのは……)
そよ風が、友理奈の頬を流れていった。




