第十二話 店舗事業~次なる一歩
食品フェスタも盛況に終わり、出展商品の拡販プロジェクトも始まる。
フェスタを無事終えたことで、亮の仕事も評価された。
通常業務の裏で起こっていた悪事の洗浄については知る人はいない。
そして、密かに亮を後押しする常務の梨緒の希望もあり、次の配属先が決定した。
亮にとっても会社の中心部に迫るための階段を上がっているともいえる。
人事部の資料を手にフロアーに入る。
「ここが店舗事業部」
店舗事業部は、直営飲食店の管理全般を行っている。
フロアーは、いくつかに仕切られ、新店舗準備室、商品開発チーム、人材管理課、事業推進室など、業務内容によって分かれている。
亮は、事業推進室に案内された。
「先日話した、石清水亮さんです」
室長は女性管理職の田辺靖代だった。
「よろしくお願いします」
女子社員に好感度の高い亮だ。
ここでも、小泉和香、辻谷恵美、藤沢千奈美が、微笑みを浮かべている。
男性社員は、池田拓海と皆藤正の若手二人だった。
現在、推進室では先月開店したばかりの新店舗の知名度アップを狙った戦略を進めている。
誰でも気軽に入れる和食店・四季彩花と和菓子と日本茶を中心にしたカフェ・鼓庵の二店がオープンしたばかりだった。
ネット広告など、いくつかの宣伝方法を準備している。その途中で配属されたのが亮だった。
亮は、まず四季彩花を下見に行く。
同行したのは、千奈美と和香だった。
昼食の時間だったが、席は空いていた。。
店長の水沢みどりが、海鮮、ヘルシー、野菜中心メニューなどの料理を持ってきた。
「まだ、お客さんも少なめで」
みどりは、大手チェーン店からの転職組だった。
「さっそく、いただきます」
盛り付けも悪くはない。ヘルシーだけでなく、味もしっかりしている。
「やはり、女性客を意識しているんですか?」
亮が千奈美と和香に訪ねた。
「今回オープンした店舗は、和食と和風カフェといことで女性をターゲットにしていることは確かです」
「ただ、あまり顧客層を絞らずに、幅広いメニューで多くの人を呼び込みたいと」
次に、鼓庵に来た一行。
抹茶とぜんざいや白玉あんみつなど、一般的なメニューとなっていた。
食べてみる亮。
「お店の雰囲気もいいし、デザートとして美味しいけど、定番だけではない、もう少し工夫が……ここでしか味わえないスイーツとか」
「それも議題にはあがっていたので、具体的な対策を考えましょうか?」
「人の通りも多いし、テイクアウトもできるようにしたら、さらに人気がでるかも」
亮の意見に頷く和香と千奈美だった。二人とも男を見る目になっている。
「ただいま」
「おかえり」
と、正は書類を作成している。
恵美と拓海は、応接室でグルメライター・雨海東子と打ち合わせをしている。
亮も紹介され、名刺を交換した。
料理評論家などを招いて、率直な意見を聞きながら、メニューから内装、店員教育などに活用発展させていく予定だった。
その日も会議を終え、課題や解決方法について積極的な議論を重ね終了した。
夜、自宅に梨緒と亮がいた。
母で社長の美和子は、仕事でホテル泊りだった。
今夜は、梨緒の手作り料理を二人で食べ、食器洗いは亮がしている。
大型のテレビ画面を見ている梨緒。
ニュースで料理評論家・楠田誠二が味覚障害で入院の話題を取り上げていた。
「料理評論家が味覚障害なんて、翼をもがれた鳥のようで、かわいそう」
梨緒が、後片付け中の亮に言った。
「なにが原因なんだろうね?」
「わからないけど、ストレスとか別の病気も関係しているとか?」
「事業推進室でそういう人たちとの仕事も多くなりそうなんで」
「他にもこの前、グルメ雑誌編集長の失踪とかもあったばかり……気をつけてね。なにかの事件に巻き込まれると困るから」
「やっぱり事件なのかな?」
梨緒は不安そうな顔でニュースを見ている。
亮もニュースに注目した。
事業推進室では、宣伝部の相良広大と広告代理店・クリエイティブディレクターの今宮義之が参加し、ミーティングとなった。
推進室メンバーは、ネット広告に力を入れたいと考えている。
亮も参加していたが、途中でオリジナルメニューの準備のため、千奈美と和香を連れて退席した。
向かった場所は、料理研究家の片桐紗代のオフィス。
紹介してくれたのは評論家の雨海東子で、一緒に新メニューの考案を手伝ってくれることになった。
和食にパスタ、和菓子にドライフルーツをアレンジするなど、斬新なレシピを提案してくれる。
四季彩花と鼓庵で、新メニューを調理することになった。
四季彩花では、湯葉とパスタのアレンジ、そこに京野菜などを添えてみた。
鼓庵では、見た目も豪華な和風パフェに洋風のフルーツで味に変化を付けた。
いくつかの試作をし、データを取った後、この日は終了した。
「送ります」
行き先が同じということで、千奈美と和香は紗代を、亮は東子を連れてタクシーで帰ることになった。
「お時間ある?」
東子が言った。
「おすすめのバーがあるの」
タクシーは方向を変えた。
静かなバーだった。
紳士淑女の囁きが耳元をかすめる。
「なぜ、評論家に?」
カクテルを前に、亮と東子の会話が始まる。
「最初はお店を持ちたかったの、小さな洋食店でもいいからって……知り合った男性に共同経営の話を持ち掛けられて……」
東子は記憶を再生した。その顔は悲しそうで……。
「若すぎたのかな、資金を持ち逃げ……もう一度がんばろうって、資金を集めたけど、今度は詐欺にあって、それも男……諦めるしかなかった」
東子の唇は、カクテルで潤いを増していた。
「評論家なら元手もいらないかなって」
亮は東子の憂いある横顔を、目を細めて見た。
「ねえ、どうして、男は、女を利用するの?」
亮は自分を振り返り、ただ黙っていた。
「女はお金になるって、夜を仕切る男の言葉を聞いたことがあるけど」
「そんな男ばかりじゃないと思うけど、普通に関係をもてる男だって」
「普通か……だめなのよね。優しいとか誠実というだけの普通の男には魅力を感じない。女って、わがままなのよ」
「上を目指す男が好み?」
「だから誘ったの、あなたを」
「なんで? 僕なんか」
「なんとなくね。女の勘」
「僕は普通の男ですから……優しくもないし、誠実でもありませんけど」
亮は小さく笑った。
東子は亮の胸元に手を添え、
「このスーツの下になにが隠れているのか。知りたいわね」
艶やかな表情を魅せる東子だった。
そこに客が入る。
「姉さん?」
声をかけてきたのは、東子の妹でフードライターの南部佳代。
広告代理店・アドフラムの営業・島崎昌夫が一緒だった。
「たまには連絡よこしなさいよ」
「姉さんこそ」
「評論家の雨海東子さん?」
島崎が声をかけてきた。
「お店との仲介をなさっている広告代理店の島崎さん」
佳代が紹介する。
「よろしく」
「そちらは?」
「今一緒に仕事をしている奥田商事の石清水さん」
亮は軽く会釈した。
「二人が姉妹だったなんて」
島崎は、東子と佳代を交互に見た。
「これからお仕事の話なの、また今度」
と、佳代は島崎と離れた席に座った。
「姉妹で名字が違うのは、ペンネームだからとか?」
「いいえ、両親が離婚した時に、父と母、別々の家で育ったから」
「久しぶり? 会うのは?」
「そうね、時々連絡は取り合うけど……それより、大丈夫かしら?」
「ん?」
「最近、代理店の仲介で仕事をした評論家やライターのトラブルがいくつかあって」
「病気や失踪の話は、この前ニュースで」
「詳しいことはわからないけど、私、代理店の仲介はお断りしているの」
離れた席で、佳代と島崎は楽しそうに会話をしていた。




