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霧恋エスカレーション  作者: 美飾時矢
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第一話 野心の始まり

 葬儀会場では、奥寺正樹(おくでらまさき)の社葬が行われていた。

 奥寺正樹は、中堅商社・奥寺商事の社長で、心臓病で亡くなった。

 まだ、50代の若さだった。


 取引先や自社社員などが弔問に訪れている。


 正樹の妻・奥寺美和子と娘の梨緒(りお)が並んで挨拶をしている。


 離れた場所から梨緒を見つめる男がいた。

 石清水亮(いわしみずりょう)

 すれ違う女子が振り向くほどの美形男子、色白の肌で、黒のミディアムヘアー。

 ただ、瞳の輝きは異常なほどで、野心を秘めた光をたずさえていた。


 都会の夜景が時を刻む。

 仕事を終え行き交う人々などの姿が絶えない。


 高層ビル、各階で照明が明るく光る。

 上昇するエレベーター。


 上階フロアーでエレベーターが止まる。

 扉が開き、降りる亮。


 オフィスが並ぶフロアー。


 経営コンサルタント会社【MSB】の前。

 立ち止まる亮。


 (ここが、闇の団体・ミストボックス……)

 受付には、呼び出し用の電話があった。

 受話器に手を伸ばす量。



 オフィス内。


 IT企業のような室内、壁で仕切られ奥になにがあるかわからない。

 まさに謎の団体だった。


 壁に囲まれた応接室。

 代理人という桑名メイコと向かい合って座る亮。

 二人だけの空間だった。


「表向きは、経営コンサルト会社だけど、真の姿はミストボックス」

亮が狭い空間を見回していった。

「ミストボックスにどのような依頼を?」

 相手を見透かすような視線を送るメイコだった。

「別人になりすましたい」

「どなたに化けたいの?」

「先日亡くなった会社社長の息子に」

「隠し子だと言って家族に?」

「ええ、うまく紛れ込めたら」

「遺産が目当て?」

「それだけじゃない。会社の経営権もこの手に」


「この団体の目的は支援活動」

 メイコは冷静に語りかける。

「善意の団体とでも?」

「DVに悩む妻と子供を夫から引き離すためとか、加害者で罪を償った人が過去を知られず更生するためとか」

「それで、過去を偽装し別人として生きる手助けをしている?」

「そこまでわかったのなら」

「野心や野望には手を貸さないと?」


 メイコは、ふぅと息をした。

「代表が承諾しないかも? 死ぬことなく生まれ変わる道を提供することが代表の狙いだから」

「生まれ変わりたい……俺だって、色々と事情を抱えているんだ」

 亮は真剣だった。

「今、私に断る権利はない。だから、詳しく調査して協議する……依頼を受けるかはその後で」


 話し合いの結果は、後日ということになった。


 亮のアパート。築50年以上といったところか? とにかく古い。

 生活感のないワンルームのベッドに座り、亮は、スマホを気にしていた。


 スマホの壁紙、海の見える丘だった。そこに白い壁のレストラン。

 過去に両親が経営していたレストランだった。


 はっ!! とする。

 ミストボックスからメールが届いた。



 奥寺商事本社ロビー。

 様々な案件で訪れる取引先、得意先が行き交う。


 書類袋を抱えて歩くスーツ姿の亮がいた。


 イケメンに振り返る女子社員。

「誰かしら?」

「取引先にあんなイケメンいた?」

 と、声が聞こえる。



 受付まで来た亮。

 受付女子の前に立った。

 美顔にうっとりする受付女子。


 亮は社長室に通された。

 誰にも聞かれたくない話が始まる。

 亮の前に座ったのが、美和子と梨緒だった。


 秘書がお茶を置いて出ていく。

 社長は秘書室に、しばらく、誰も取り次がないように指示をしていた。


「取締役会で社長に就任しました奥寺美和子です」

「常務になりました娘の梨緒です」

「突然お伺いしまして、驚かれたかと」


「驚くもなにも、亡くなった主人に息子がいたなんて」

「僕も亡くなった母からそのことを聞かされて、どうしていいか」

「本当なんですか?」

「そちらの資料にある通り、過去に僕の母と奥寺さんとの関係が」


 テーブルには資料が並べられている。

 若き日の正樹と女性の写真ほか、調査資料が作成されていた。


「お父さんが、他の女性と」

 梨緒は戸惑っている様子だった。

「信じられない。浮気なんて」

 美和子の顔は、怒りを表現していた。


「僕が奥寺正樹さんの子供ということは事実で」


「頭が痛い」

 美和子は額に手を当てた。

「お母さん」

 梨緒は、美和子の肩を支えた。


「今日のところはこれで、少し時間を……弁護士と相談します」

 と、美和子が言った。

「わかりました。次回はこちらも弁護士を連れてきますので」


 受付に入館証を返却し、本社をでていく亮。

 その姿に、受付女子は見惚れていた。

「取締役の関係者かな?」

「後ろ姿も素敵」


 社長室に残った美和子と梨緒。突然の嵐にあったようで……。


 疲れた様子でソファーに倒れ込む美和子だった。


「大丈夫? 」

「私、夢でもみたのかしら? ねえ梨緒、今のは夢よね?」

「ならいいけど」

「このことが専務の耳に入ったら」


 そこへ、社長秘書の沢田美穂が入る。

「社長、お呼びですか?」

「弁護士の宇野先生に至急連絡をとってちょうだい」

「かしこまりました」

 美和子は弁護士の力を借りることにした。そうでなければ乗り切れない問題なのだ。



 ミストボックスのオフィス。

 会議室には、メイコ、亮。

 メイコの傍らに弁護士の舟木敦もいた。


「向こうも弁護士を同席させて専門的に対応してくるでしょうから」

 舟木が対策について語りだす。

「ボロをだすようなことはないと思うけど」

「法律の話になりましたら私が」

「本当の弁護士?」

 と、亮は舟木を見た。

「団体のメンバーに対し詮索はしない条件のはず」

 メイコが厳しい口調でくぎを刺す。

「そうだな。俺は奥寺家の息子になることが最優先」


 どうしたら、社長の隠し子としてなりすませるか?

 会話は続いた。


 互いの準備が整うのに数日かかった。

 会談の予定が決まり……


 奥寺商事の応接室で話し合いが始まった。


 美和子、梨緒、宇野、亮、舟木が集まっている。


「それで、どうしたいの?」

 美和子から始まる。

「僕は財産が欲しいとか思っていません」

「だったらどうして、息子だなんて」

「お父さんがどんな人だったか知りたくて、お父さんが大きくしたこの会社にも興味があったので」


「こちらとしましては、今の段階では財産分与などは考えていません」

 舟木が意向を伝える。

「権利が発生しても放棄すると?」

 宇野が専門的に質問してきた。


「僕の気持ちは、一度も会えなかったお父さんを知りたい。それだけなんです」


「確かに、実の父親だったら、思いが深くて当然だと思う」

 梨緒が言った。

「梨緒」

 美和子は、たしなめるように梨緒を見た。

「だって、私の弟かもしれないのよ」


 亮は、梨緒を見つめた。


(思った通りの展開だ)

 亮は、計画の成功を期待した。


「この会社で……お父さんの思い出の残るこの会社で働けないでしょうか?」

「勝手なこと言わないで」

 美和子は険しい顔で言う。


「正樹さんの子供なら、この会社にとっても無関係な人ではないはずです」

 と、舟木が言う。


「お父さんが生きていたらきっと賛成した」

 梨緒は、疑っていないようだが?

「本当の子供だったらの話よ」

 美和子は認めたくない様子だ。


「二人の手紙のやり取りなど、過去の資料があってもまだ?」

 舟木が、詰めに入る。

 が……

「DNA鑑定しましょう」

 宇野が切り出した。


「え?」


「それが一番確かな証明」


「DNAって……」

 亮の顔色が変わる。


「わかりました」

 舟木は簡単に返事をした。


(おい、そんな簡単に)


「どんな結果になるか、楽しみだわ」

 美和子が得意げに言った。


 外は雨が降っていた。

 部屋で一人、亮は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。


「DNA鑑定って、ヤバくないか」

 独り言を言いながら、缶ビールを開けた。


(あの弁護士、簡単に承諾しやがって)


 ビールを飲む。不安が消えることはないが。


(野望が、泡と消えるか?)


 さらにビールを飲んだ。


(終わらせない。始まったばかりだなんだ)


 奥寺商事は、食品産業他、玩具から電子機器まで幅広い産業に進出している。

 社員も若く、活気のある会社だ。

 プロジェクト推進室では、新しい分野への企画会議が行われていた。


 自社ビル上階の社長室。

デスクで美和子が書類に目を通している。

そこへ、秘書の美穂が入る。


「応接室には誰も近づけないで、電話も取りつがないように」

「かしこまりました」



 応接室で複雑な話し合いが始まろうとしていた。

 美和子、梨緒、宇野、亮、舟木が在籍している。


 亮は不安だった。自分の髪の毛を採取されている。

 DNA鑑定をされたら、実の子供でないことが判明するのではないか?

 実態が闇の中という謎の集団・ミストボックスに依頼したとはいえ、この先どうなるのか?

 エージェントであるメイコからは、黙って弁護士に任せればいいと伝えられてはいるが。


「DNA鑑定の結果は?」

 なぜか、余裕の表情を浮かべている舟木。


 美和子は溜め息。困惑している様子だった。


 亮は、無表情で進行を見守る。

(これからどうなるんだ??)


 宇野は険しい表情をしている。


(まさか?)

 亮は感じた。


「結果は、正樹様の子供に間違いないと」


(奇跡か?)



「ではお約束通り、亮さんを社員として採用ということで」


「ただし条件があります」

 美和子が切り出した。


「条件?」

 亮は、舟木の顔を見た。


 その時、梨緒は亮の顔をじっと見つめていた。


「社内では夫の子供であることは秘密に、遠い親戚ということにします」


(そんなことか)

「いいですよ。僕は父の会社で働けるだけで幸せです」

 と言って、亮は、梨緒に微笑みを向けた。


(私の弟……)

 梨緒も亮に笑顔を返した。




 身内の混乱に時間をとられているわけにはいかない。

 美和子も梨緒も、会社を背負っている。

 亮が帰ると、外部との懇談や役員との打ち合わせに向かった。



 社長が外出した社長室。

 室内を清掃している清掃員・双葉洋子がいた。長年ここで働くベテラン清掃員だ。

 デスクを拭いている。

 書類を横に寄せた時だった、亮に関する調査資料を目にしてしまう。

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