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4/4

困惑

 明日から学校か………。

 昼間のうちに退院して家に帰った私は、夕食の後すぐに寝間着に着替えて寝床に入った。

 本当はリハビリのために、数日間は自宅療養っていうのをしなくちゃいけないっぽんだけど……。でも、私は家の中に籠っていたくはない。

 勿論、サッチやトマト、それに大将と顔を合わせるのには、ちょっとだけ抵抗がある。

 でも、サッチとは早く会って、ちゃんと会話しなくちゃいけないと思うし、大将には天野くんのこともっと教えて欲しい。

 それに…………。

 それに…………?

 フウッと溜息が漏れる。

 私、こんなに色々と悩む性格だったかな。

 自分でいうのも変だけど、私はもっと、なんて言うか、楽天家だと思っていたんだけど。

 私……変わっているの?

 「なんで」と自問してみると、そのすぐあと、彼の顔を思い浮かべた。

「…///」

 途端に顔が熱くなるのを感じた。

 ───えーい、もう寝ちゃえ!!

 この部屋には誰もいないけれど、枕元のスイッチで部屋を真暗にして、ベッドに潜った。

 掛け布団の下で、モゾモゾと動く私。

 ここに誰もいなくて良かった。

 静かな部屋で自分の心臓音だけが騒いでいた。

 やがてそれも落ち着き、冷静さを取り戻した。

 …………また、あの夢を見るのかな。

 嫌……だけど………。

 怖いけど…………。

 あの赤い龍は、絶対に倒さなきゃいけない気がする。

 倒さなきゃ…………。

 だから私は。静かに瞼を閉じると、自分からあの夢に入り込むことを望んだ───。

 ドゴオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 全身が轟音の振動に包まれて、私の意識の目が開いた。

 濁った紅色の空の下に、あの赤い龍は目の前に立ちはだかっていた。

 私の身体は、この前使った刀を出そうとする。

 でも、刀が完全に現れる前に、赤い龍の胸の辺りが眩しく光って、無数の炎の鱗が弾丸のように飛んできた。

 避けなきゃ!と私が思っても、身体が動かない。

 ───当たる!! と恐れた時、一瞬の差で刀が完全に現れ、刀に纏った光で全ての鱗を打ち払った。

 赤い龍の胸の辺りが、また光り始める。

 身体は静かに刀を構えなおした。

 力を溜める。

 炎の鱗が飛び出すのと同時に、大きく刀を振るった。

 今度は稲妻が、ドゴーン! という轟音を引き連れて、炎の鱗を吹き飛ばしながら、赤い龍に向かって行く。

 命中──────!

 赤い龍は稲妻に引き裂かれると、この前と同じように炎の龍巻に姿を変えた。

 その強烈な熱風に身体が吹き飛ばされる。

 身体が起き上がった時には、もう炎の龍巻から赤い龍に戻っていた。

 さっきよりは一回り小さくなっている。

 身体は、刀を構えて腰を低くした。

 もう一度、斬りかかるつもりだ。

 赤い龍も首を前に突き出して、巨大な足で赤褐の地面を鳴らしながら突進して来た。

 私の身体は地面を蹴って宙に舞った。

 そして、刀を振り下ろす。

 ドゴーン! 

 ドドドドドドド!!

 ドガァーン!!!

 赤い龍の身体が幾つにも裂けて、地面に散乱した。

 そして………、動かない、動かない。

 動かない………………。

 ───やった? やったの? 今度こそ………。

 身体が恐る恐る近づいてみる。

 突然、ゴオン! という轟音を立てて、散乱していた赤い龍の身体が、炎を吹き上げて連なりだした。

 ───囲まれた!?

 連なった炎は、私の身体を囲んだまま炎の龍巻に変化した。

 身体が、炎の龍巻に巻き上げられる。

 ───熱い──────!!!

 あまりの熱さに、今にも目を醒ましちゃいそう。

 そして、空高く巻き上げられた所で、炎の龍巻は赤い龍に姿を戻して、落下する私の身体を、長く突き出した口で喰らいついてきた。

 鋭く巨大(おおき)な牙に、身体を噛み砕かれそうだ。

 ───ああああああああああああああああ!!!

 ───痛い!!! 痛い!!! 熱い!!!

 右手に持っていた刀が次第に透き通ってきて、ついには消えてしまった。

 牙は、どんどん身体に喰い込んでくる。

 両手で必死に牙に抵抗しても、まったく敵わない。

 ───痛い!!! 熱い!!! 苦しい!!!

 ───もう、ダメ……!目が醒めちゃう!!!

 そう思うと、私の身体は、いよいよ牙を押さえきれなくなって、牙が一気に喰い込んできてしまった。

 その瞬間、私は身体から離れた。

 そして見た───!!!

 私が離れた身体は、───天野くん───!?

 あの日の、私が溺れた日の、制服の白いワイシャツ姿の天野くんが………。

 必死に手を伸ばしたけど、届かない。

 スウッと、目の前が見えなくなってくる。

 ───天野くん!!!

 目の前が真っ暗になっていく数秒間、天野くんの身体が赤い龍の牙に噛み砕かれ、無残に飛び散るのが見えた─────────。

「いやああああああああああああああああ!!!」

 私は寝床(ベッド)を跳ね起きた。

 ───天野くんが死んじゃう!

 ───天野くんが死んじゃう!!

 ───天野くんが死んじゃう!!!

 夢のはずなのに、夢のはずなのに、そんな気がする。

 ───天野くんが死んじゃう!!!

 ───天野くんが………………!!

 ハッと我に返り、私は自分の手を見た。汗でぐっしょりと濡れている。背中からも………。

 自分を抱きしめ、呼吸を整えるために数回、大きく息を吐き、大きく息を吸った。

───天野くんが……・

「優子っ、どうしたの!?」

 ドアの向こうから、お母さんの声がした。

「大丈夫、なんでもない。ちょっと…、怖い夢を見ただけだから………」

「そう…。学校に行くなら、早く仕度しなさい。お父さんも、もう出たわよ」

「はーい」

 私の返事を聞いて、お母さんは一階に降りて行った。

 私は、ライトグリーンのカーテンを開けて部屋の中に朝日を取り組むと、すぐにお風呂場で熱いシャワーを浴びた。

 ───あー、憂鬱。

 さっき見た不吉な夢。

 そして、サッチのこと。

 この二、三日に、グシャグシャになっている頭の中が、いよいよショートを起こして煙を噴いてしまいそう。

 当然それは、外面にも現れちゃって。

 一応、シャワーを浴びてから、お肌の手入れを念入りにやって髪も梳かしたけど、ああ…私の美貌が………。

 どうにか気を取り直して学校へ行って、教室に入ると、安田くんをはじめとした男子たちが私を迎えた。

 私はサッチとトマト、それと大将の姿を求めて教室を見渡してみたけど、見当たらなかった。

 サッチとトマトの机に鞄は掛かっているのに………。

 とりあえず男子達に囲まれたまま、自分の席に着いた。

 そして、他愛ない無駄話(おしゃべり)をする。

 だけど………。

 いつもなら、今までなら男子たちと無駄話(おしゃべり)をしていると楽しかったはずなのに、今日は違う。

 今は違う。

 鬱陶しい。

 ───どっか行ってよ!

 ───私は…、私は………。

 私は、右隣の天野くんの席を見つめた。

 鞄はかかっていない。

 机の中も空っぽ。

 いつものことなのに、寂しく感じる。

 天野くんの席は、確かに此処にあるのに。

 此処に在るんだよ。

 今までは、皆に虐められて居場所がなかっただろうけど…………。

 あ、大将が居たね。

 …………私も、居るから……。

 此処が、私の隣が…………、天野くんの場所だよ………。

 きっと、きっと助かるよね。

 また、学校に来れるようになるよね。

 ……ね?天野くん?

 ───天野くん………。

「ねぇ、あれって…………」

「あいつも退院したの?」

「戻ってきたんだ?」

 不意に、周りが騒がしくなった。

 ───何? と思ったら、目の前に天野くんが現れた。

 ───えっ? えっ? えっ? どうして………。

 天野くんは、私のことをちらっとだけ見て、すぐに席に着いた。

 声を掛けようと思っても、なんて言ったらいいのかためらっちゃって……。

 ためらっている間に、私に纏わりついていた安田くんと、その付録のような笹木順一(ささきじゅんいち)の二人が、天野くんに絡んでいった。

 実際のところ、天野くんを直接いじめているのは、この二人なんだ。

 二人がちょっかいを出すから、皆も乗っているんだ。

 安田くんは、いつも…いつも天野くんを虐めていた。

 酷い時には、天野くんの髪の先をライターで焦がしたこともある。

 その時…私は、皆と…一緒に笑って……見ていた………………。

 天野くんはオドオドして、なんの抵抗もしなかったけど、泣いたりもしなかった。

 それを安田くんは‥‥‥…。

 私は‥‥‥‥‥‥。

 沸々と胸を苛々させるモノが湧いてくる。

 これは……、『怒り』──────。

 誰に───?

 私が思い巡らせている間に、安田くんは天野くんの足をネチネチと蹴った。

 天野くんは、ただ黙って俯いて耐えている。

 ───助けなくちゃ……………。

 ───助けなくちゃ……………………。

 安田くんを怒鳴りつけようと思ったけど、声が出ない。

 ───天野くんを…、助けなくちゃ‥‥‥。

 息を深く吸い込んで、拳をギュッと握る。

 そして私は、椅子を倒す勢いで立ち上がった。

 椅子が後ろの机にぶつかって、ガツンという大きな音がした。

 私を取り巻いていた男子たちが、ビックリして私を見る。

 安田くんも笹木も、音で振り向いた。

 クラスの皆の視線が、突然立ち上がった私に注がれる。

 私は吸い込んでいた息を、言葉と一緒に一気に吐き出す。

「ちょっと! やめなさいよ!!」

 安田くんは勿論、取り巻いている男子たちばかりか、教室中の誰もが私を見て目を白黒させた。

「…な、なんだよ」と、やっと言葉を見つけたみたいな安田くん。「こんな奴の肩を持つつもりかよ、優子?」

「気安く『優子』なんて呼ばないで!!」

「何カリカリしてんだよ。入院生活でストレス溜まってんのか?」

「そんなんじゃないわよ!私は…」ちょっとためらって、「天野くんを虐めるのをやめなさいって言ってるの!!」

 すると安田くんは、

「虐めてるんじゃないよ。揶揄ってんだよ」と私の言ったことに驚いた感じで答えた。

 だから私はスタスタと近づいて、安田の頬を思いっきり引っ叩いた。

 ───こんな男を、ちょっとでも「()()」と思っていたなんて──────!!

 頬を押さえた安田が、驚きと怒りの混じった表情で私を睨んだ。

 その目尻には僅かに涙が浮かんでいた気がする。

「ってーな! 何すんだよ!!」と手を伸ばしてくる。

 ウッ…。

 咄嗟に身構えると、私に届く前に、ゴツい手が横から安田の腕を掴んだ。

 その手は誰かと思って顔を向けると、登校して来たばかりらしい大将だった。

「何すんだ、放せよ!」と叫んだ安田は、大将を睨み上げたものの、無言の威圧に押されて大人しくなった。

 笹木は安田を置いて、そそくさと逃げ出した。

 大将がゆっくりと周りを見渡すと、教室中がシーンと静まり返った。

 さすが大将。

 そこへ予鈴のチャイムが鳴って、私に纏わりついていた男子の一人が、

「あっ、一時問目…美術だったっけ?急がないと…」とか言っちゃって自分の席に戻ると、他の皆も散って、美術道貝を鞄やロッカーから出して教室を出て行った。

 そして私が、大将に俯いたまま、

「ありがとう」と言うと、いきなりり天野くんが立ち上がって、廊下へ歩き出した。

「あっ、待って!」と呼び止めたのに、そのまま天野くんは教室から出て行ってしまった。

 天野くんが大将にお礼も何も言わないで、無視して行っちゃうなんて………。

 私は大将の方を振り返って、

「あ………あの…」と足りなかったお礼の言葉を継ごうとすると、大将はニッコリと微笑んだ。

「お前がかばってくれたもんで、戸惑ってるだけさ。早く行きな」

「……うん。でも…、いつの間に天野くん………」

「さあ…、それは……。まあ、貝合は悪くなさそうだから……」本鈴のチャイムが鳴った。

「と、いけね。急ごうぜ」

「うん………」

 大将に急かされて、美術室に向かった。

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