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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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勝鬨

――王国歴1503年 スルト地区 ミクマリノ国境要塞


 ジュラの救援により一命を取り留めたグラムは、来た道を戻り、先ほどブルフラットを始末した現場まで戻ってきていた。自身では冷静さを欠くことはないと確信していたグラムであったが、死を目の前にした後の生還に思わず身が震え、息を荒くしていた。


 グラムは、アーリーと名乗る異形の怪物と出会うまで列の先頭におり、後続には遭遇と同時に退避をさせていたため、必然的にこの場所には最後に到着することになる。


 到着するなり、グラムの元にフィルが近づいてくる。


「グラム、大丈夫だったか。怪我はないか?」

「ああ、特にこれといった怪我はないよ」


 この場所にはブルフラットが引き連れていた兵士たちが、縛られ昏睡魔法で眠らせており、グラムたちがバタバタと音を立てて撤退してきたのにも関わらず起きる気配はない。

 グラムは本陣に向かう際に、その場にいる全員に事前に打ち合わせをしており、可能性の一つとしてガウス騎士団長が二重の罠を仕掛けていて待ち伏せされているケースや、ミクマリノ側の最高幹部が到着している際には、この場所まで撤退をし、できる限りの敵兵をここに呼び寄せてから、背後の川に飛び込み海に流れる想定をしていた。これにより、相手の戦力を分散させ、戦場に好影響を与えようと考えていたのだった。


「まあ、戦場で想定が想定通りいくケースの方が少ない、ということか」

「ん、親父さんの本の言葉だな」

「そうだっけ?」

「そうだよ、珍しいな、お前が親父さんの言葉を口にするなんて」

「……! ははは、一生の不覚だと思うよ」


 グラムは、今戻ってきた道を見つめ、いずれここも戦場になる可能性があると考え、上陸してきた川まで移動するように指示を出した。その際、この場で眠っているミクマリノ兵は自分たちを追ってくる者が現れた場合、確実に救援され、より大きな脅威になる可能性があったため、フィルと共に協力しながら一人残らず殺すことにした。


「なんだか、無抵抗な人間を殺すのは精神衛生上よくないな」


 フィルは、まるで狩ってきた動物を捌くかのように適切に、横たわる兵士の急所に剣を押し込みながら言う。


「抵抗も無抵抗も関係ないだろ、と言いたいけど、確かにその通りだね」


 グラムも同様に剣を押し込み殺していくが、フィルのように適切に急所に当てることは難しく、時折刺された痛みで覚醒した兵士が訳も分からず反射的に剣に手をかけたり、声をあげたりしていた。その度にグラムは、複数回その兵を刺し、入念に命を奪っていった。

 今やっていることは残酷な作業だ、とわかりながらも、その遺体に敬意を払うことは出来なかった。今、この瞬間にも先ほどの赤黒い人間が追いかけてくるかもしれないと嫌でも想像してしまい、焦燥感で罪悪感は薄れていく。


 途中、先ほどの戦闘を行っていた場所から巨大な火柱があがると、それは間違いなくウィルズ大佐のものであるとわかった。僅かに遅れてやってくる熱風に、驚きよりも安心が勝ったが、確実な戦況報告を受けるまでは気を緩めることは出来ず、二人は特にウィルズの火柱に関して言葉にすることはなかった。

 そして程なくして戦況を知らせにルストリア兵がやってきた。二人はその頃、既に全ての兵を始末し、川沿いに向かって歩き出すところだった。

 グラムの思考の中に「これを予期していれば、彼らを殺す必要は無かったんじゃないか」という考えが過ったが「それでも最善手はこれであった」と思考を上書きし、仲間と共に国境要塞へと向かった。


――王国歴1503年 スルト・ミクマリノ間国境要塞 内部


 国境要塞に到着すると、要塞の上に立っていたミクマリノの国旗は燃やされ、方々で勝鬨が聞こえた。ミクマリノ兵は既に捕縛されている者も少なくはなかったが、それでもなおルストリア軍に牙を剝く者も少なくはなかった。


「おー、やってるねー。もう勝敗はついたってのにな」


 フィルはその様子を眺めながら言う。


 グラムとフィル率いる中隊は国境要塞の中で保護されることになった。これはパンテーラであるジュラからの進言で、困難である奇襲任務を無事終え、フラッグスを救ったルストリアにとって重要な人材が、消化試合で死んだらかなわん、ということで、それに同意したウィルズ大佐が国境要塞に入る許可を与え、国境要塞内の三階層、見張り窓のある一室にて待機、という指示を出した。

 元々は戦場に出るはずではなかった訓練生を始め、全体的に若いグラム中隊の面々は心から安堵し、床に突っ伏したまま寝てしまうものまでいた。


「なあ、グラム」

「なんだ? フィル」


 フィルは見張り窓から、未だに戦火の上がる終わった戦場を見下ろして言った。


「あいつらは、何で投降しないんだろうな」

「投降したところで、望む未来に辿り着けないからだろ」

「望む未来?」

「彼らはシーナのウィレムに教育を施された人たちだ」

「なんでそんなことわかるんだ?」

「彼らの声をよく聴いてごらんよ」


 フィルはグラムに言われたまま、窓から身を乗り出し耳を傾ける。


『ウィレム様に一人でも多くの首を!!』


 そう叫びながら、一人また一人と命を散らしていく。鈍色の兜を割られ、あるいは鉄の胸当てごと焼かれ、またあるいは声をあげる間もなく。


 それを見て、フィルは少し眉間に皺を寄せて言う。


「なあ、人ひとりのために命を投げ打ったり、自分の命を捨てることは正しいことか?」

「どうだろうね。僕はよく似た思想の人間を知っていて、その人はまごうことなき正しい人間だけど、下の人間たちとは全く別物だからな」


 フィルは窓から外を見るのをやめて、部屋の中のグラムに向き直る。


「お、またミハイル先輩の話かよ」

「まあね」

「そのミハイル先輩とやらに会ってみたいもんだね」

「僕も会いたいよ。もうしばらく会ってない。本来なら……」

「終戦記念日にみんなで食事をとる予定だった、だろ? もう何度も聞いたぜ」

「ははは。僕も大概あてられているな」

「あてられる?」

「ああ、今戦場にいるミクマリノ兵がウィレムにあてられているように、僕も心底先輩を尊敬している、ってことさ」

「なら、正しさとは別に、信じる気持ちってのがあるのかも知れねぇな。人はそれで命を投げ打つことが出来る、みたいな?」

「フィルにしては珍しく知的なことを言うね」

「ありがとう。って、おいー」

「冗談だよ。そして、言っていることは間違っていない」


 外の戦場では、激しい爆破魔法の炸裂する音が鳴り響きだした。それがジュラのものであると、誰しもがわかった。そして、それは同時にこの戦場が終結するのだという意味であることも、敵味方含め誰しもが理解できるほどの大規模なものであった。


「そうかい。まあ、今回の作戦はグラム、お前がいたからみんな生存できたんだ。あんまり先輩にぞっこんになって、簡単に命を捨ててくれるなよ」

「簡単に捨てる気なんか毛頭ないよ。ましてや、僕は適度に軍をこなして、ちょうどいいところで辞めて、片田舎で狩人として生活するのが夢なんだ」

「あっそ、嘘つきが。軍略を練っている時の顔を何かに描いておけば良かったな。とーっても楽しそうだったぜ」

「そんなバカな。私が? ありえないよ」

「ま、どっちにしろ、この作戦でどうあれ頭角を現しちまったことは確かなわけだし、昇格間違いなしで、より過酷な部署に異動は避けられないものになったことは確かなことだろうね、グラムくん」

「それなんだよなー。まあ、フィル、君も確実に巻き込まれるわけだけどね」

「え、俺ぇ? なんでぇ?」

「今回の作戦の肝だったし」

「それはお前の作戦が良いから……」


 グラムは腕組をして、フィルに話す。その姿から「まるで英雄ホランドのようだ」なんて言葉をフィルは間違っても口にしない。


「さあ、運の要素も強い拙い作戦を立てた僕と、解析が不十分な魔法を持つ君、上層部はどう判断するかな?」

「ええー。せめて、グラム、お前と同じ部署になるように……」

「当然さ。フィルは僕の秘密兵器だからね」

「……そんな言葉に安心してしまっている俺も、相当あてられてるみたいだな」


 二人の予想通り、この戦を経てグラムは破格の昇格を果たす。それは人材不足の要因が後押しをしているが、一気に佐官を手に入れる、つまり、戦場で指揮官を務めるという事だ。中隊あるいは規模によっては大隊までを率い、その編成に魔導軍を組み込む事を許される立場である。その補佐としてフィルが配属されることとなった。グラムはその任務を面倒に思いながらも、敬愛するミハイルの役に立つことが出来るのではないか、と喜びを感じていた。


 フィルは、グラムこそベガ、ホランドと並ぶ、いや彼らを優に追い越せるような、次世代の智将であると疑わなかった。


 しかし、この二人の考えは半分は正しく、半分は大きく外れることとなる。

お読み頂きありがとうございます。

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