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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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血濡れの王族

――王国歴1503年 スルト地区・ミクマリノ国境要塞 東側

 

 ブルフラットとの戦いに勝利したグラムは、兵を引き連れ本陣近くの茂みまで到着すると、そこには既にルストリア軍が押し寄せ、ミクマリノの本隊と激突しているところだった。


 グラムは、ここで本陣の横から何か派手な魔法を放ち、本隊の支援をしようと考えていた。が、そんな矢先に、突如として戦っていた両軍が弾け飛んだ。正確には、上空から飛来した何かによって、付近の兵士たちが爆発四散した。

 血液が飛び散り、地面には放射状の血痕が付着し、それはまるで何かの魔法陣のように見えた。その魔法陣の中央では、赤黒いもぞもぞと芋虫のようなものが蠢いており、状況も相まって、激しい嫌悪感に襲われる。


 最初に、動き出したのはグラムで、背後にいる兵たちに撤退を呼び掛けた。しかし、兵たちが正気を取り戻すよりも早く、赤黒い芋虫はグラムたちに飛び掛かってくる。

 グラムは、正面からそれを見ていたが、その赤黒い塊はこちらに飛び掛かると同時に人間の形を成していき、目の前までくると、それが人間であると理解した。


 グラムは死を覚悟する際に、もう少しゆっくり生きたかったな、などとぼやきを思い浮かべたが、同時にホランドから言われていたお小言を思い出した。


「グラム、軍師たるもの、死の間際まで策を巡らせるものだ。軍の中で、一番最初に悩み、一番最後まであがく。それが名将の条件だ」


 グラムからすれば、別に名将になりたいだなんて一度も言ったことは無いし、思ったことも無い。全く、面倒な父親だと思う。しかし、この死の際で、グラムはもしかしたらと思い、右手をかざし爆破魔法を放つ。


「フォンツ・アルタっ」


 破裂する空気に触れるや否や、赤黒い男は元居た場所に戻り、体を構築しなおした。


「あ、あ、あー。あ。こ、え。こえ。声。声。出る。声」


 赤黒い男は、自身の喉に手をあて、一人呟く。


「今のは爆破、魔法。液状の肉体では対応できない」


 赤黒い男は、グラムを見つめて言う。


 グラムは男を見たままハンドサインで後方の兵士を逃がす。


「お、お前。イグ、ナ? 違う。違う。あ、あ、イブリス、イブリスは、どこだー!」


 赤黒い男は、何かに苛立っている様子で、その場で地団太を踏みながら肉体を硬質化させていく。肉体が硬質化していくのと同時に、頭の上には王冠が生み出され、背中には真っ赤なマントが現れた。

 何が起きたのかを把握できないルストリア軍本隊は、槍兵を前にして、徐々に距離を縮めていく。グラムは、槍兵の包囲がうまくいくようにと、魔法による支援を行おうと魔力を集めた瞬間、目の前に赤黒い男が現れ、グラムに拳を振り下ろした。


 次の瞬間――。激しい爆発音と、聞き覚えのある声が聞こえた。


「よう、グラム。よく頑張ったな」


 赤黒い男は、また元居た場所に戻ると今の爆破で損壊した頭部を抑えながら再生している。グラムの隣には、魔導部隊パンテーラが一人、赤黒い男を見つめていた。


「なんだぁ? ありゃ」

「わかりません、突如としてここに落ちてきました。私も話でしか聞いたことはありませんが、彼は血中魔法の使い手かもしれません」

「血中、魔法ねぇ。まあ、俺が来たからには、安心しろ。この俺がサクゥーっとやっつけてやるからよ」


 向かいで蠢く赤黒い男は頭部を再生し終わり、こちらを向く。


「いい、いい。魔法だね。流石は、我が血肉だ。また新魔法を生み出したのか」

「ああ? なんだこいつ。話せるのか。なら、聞け。俺はルストリア国軍魔導部隊パンテーラ配属のジュラだ」

「ふはは、いい。いいな。なら私は、ぐっ、私の名は、そう、アーリー! ルストリアの始祖にして頂点、アーリーだ! 貴様の血肉喰らいつくしてやるぞ!」


 その名を思い出しながらアーリーと自称した男は、先ほどまでの赤黒い皮膚から、一般的な人間と呼べるほどまでに肉体を再生し、ジュラに対して構えをとった。


 ジュラが掌に魔力を集め、魔法を放とうとした瞬間アーリーは、目にも留まらぬスピードでその手の平を狙って手刀を繰り出す。しかし、魔力を集めていない方の手から、爆破魔法が連続して巻き起こり、アーリーの顔の表皮を吹き飛ばす。

 だが、アーリーの攻撃の勢いは止まらず、ジュラの腕を狙う。ジュラは今溜まっているだけの魔力を無理やり爆破させ、その勢いで体を回転させると、その手刀を躱した。


「普通は、ひるむだろ、なんなんだお前」


 ジュラがそう言うと、アーリーは、にぃぃと笑い、顔の表皮を修復した。


 間近で見ているグラムは、息を呑むことすら忘れそうになるほどに圧倒されたが、自身がここにいることがジュラの邪魔をすることになると考え、先ほど兵を逃がした方向に逃げて行った。

 グラムが逃げて行ったのを背中で感じたジュラは、再び意識をアーリーに集中する。ジュラは、血中魔法と対峙したことはないが、師であるバルバロッソから戦い方を習っていた。ジュラはバルバロッソの言葉を思い出す。


「血中魔法と対峙した場合は、そいつの興味をひきつつ撤退しながら、あるいは移動しながら戦うのが定石だ。何故なら、血中魔法は常時展開しているケースがほとんどで持久力に問題があるからだ。血中魔法の基本は肉体の強化だが、稀に特殊能力を保有している者もいる」

「ってか、この話必要っすかね? 血中魔法使いなんて極稀なわけだし、その中でも更に特殊能力持ちなんてまず出会わないっすよ」

「俺が若い頃にあった敵でな……」

「あのー、聞いてます?」

「お前こそよく聞け、あれは強敵だった……」

「あー、そう言えば、俺、任務の打ち合わせがあるんでしたわ。ちょっと行ってきますねー」

「おい、待て、せめて俺の師匠と宿敵アーリーとで繰り広げられた激闘を……」

 

 ジュラは思い出して後悔した。


「いやいや、まさか、これがそのアーリーかよ! 冗談じゃねぇ。なんで生きてんだよ!」


 アーリーは再び、ジュラに向かって突撃してくる。ジュラは出来るだけ距離をとろうと後方に下がろうとするが、自分の足がアーリーの血液によって固められていることに今気が付き、飛びのくことが出来ない。その様子を見たアーリーはにやりと笑うと、ジュラの首目掛けて手刀を横なぎにする。


 次の瞬間、ジュラは放たれた手刀の根本部分、アーリーの右腕の付け根の部分目掛けて爆破を行う。すると、手刀の照準がずれてジュラの頭上五センチほどの空を切った。更に、ジュラは、空を切った手刀を片手で掴み取り、再び先ほど爆破させた腕の付け根を爆破させると、腕ははじけ飛ぶ。アーリーは後方に下がり、腕を再生しようと試みる。そしてジュラは胴から切り離された腕を見て言う。


「おお。本当に血液だ。気持ち悪ぅ」


 そして、その血液で出来た腕を上に放り投げると空中で爆散させた。


「なんだよ、悔しいぜ。お前の話を師匠からちゃんと聞いておけばよぉ、これからお前を殺したあと、散々自慢できるのによぉ」


 アーリーはいぶかしそうにジュラを見つめる。アーリーの目には、ジュラがかつて対峙したバルザックと重なって見え、再び相まみえたことに喜びを感じていた。アーリーの周りには、支援するべくミクマリノ兵が集結する。

 しかし、アーリーはこともあろうか、その兵たちに噛みつき、喰らい始めた。ミクマリノ兵はそれに気が付くと、すぐさま逃げようとしたが、足元にはアーリーの血液がたっぷりと敷かれており、それを踏んでいる者は誰一人としてそこから逃げることは出来なかった。


「人食い……。血の補充か。まるでもって悪鬼羅刹とはこのことだな」

「バルザック、貴様を喰らう準備をしているのだ。そろそろ解放といこうじゃないか……」

「あぁ? バルザック?」


 アーリーは魔力を集中させ何かをしようとしている。それに対してジュラも魔法の詠唱を行い、それを打倒しようと試みる。が、アーリーの元に魔力は集まることはなく、全身に貯めた魔力もその場に霧散してしまう。

 アーリーの言う「解放」とは今まで喰らい蓄積した魔力を開放し一時的に爆発的な戦闘力を手に入れるものであったが、一度死亡し、結晶化したことにより蓄積した魔力は全て消え失せており、発動することはなかった。それでも、アーリーは今喰らった者達の魔力を使用しようと、ジュラに掌を見せ、魔法を放とうとする。

 ジュラも詠唱が終わり、魔法と魔法の激突になるかと思ったが、一瞬アーリーの足元に魔法陣が展開され、突如、巨大な火柱が消し炭も残らないほどの火力でアーリーを焼いた。


「エル・ガンズド」


 その声に振り向くと、そこにはウィルズ大佐が居た。強烈な炎を目の当たりにし、目が点になっているジュラに向けて言う。


「休んでいる暇はない、要塞を取り戻すぞ」

「あ、え、はい!」


 こうして、長きに渡った国境要塞を巡る攻防戦は幕を閉じる。


 本来であればここに来るはずのミクマリノ最高幹部が現れず、異形の者がジュラと戦っていた事実について、ウィルズは違和感を覚えつつ、この先の貿易街アルゴへ向けて、進軍を進める。


「アルゴか……まだ犠牲が続くな……」


 国境要塞を抑えることが出来た以上、その目の前にあるアルゴの制圧は時間の問題であったが、想像以上に負傷兵の数が多く、国境要塞を拠点として、治療や療養を行い、ミクマリノ侵攻に備えた。

お読み頂きありがとうございます。

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