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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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択一

――王国歴1502年 シーナ地区 北部 ハルトの村


 ミクマリノ独立から一年が経過し、シーナ地区は復興しつつある。


 南部のスラム街を除き、ほとんどのゴミや瓦礫の撤去作業が終了し、埋もれていた格子状の街道、スピンドラ街道が復旧している。そのおかげもあって、ミクマリノからラミッツへの移動も快適に行うことができるようになった。とは言え、ラミッツはルストリアと姉妹国家のようなものなので、現在対立関係にあるミクマリノ市民がラミッツに入国する際は、非常に厳重な身体検査と、ミクマリノが発行する身分証明書が無いと国境を超えることが出来ない。


 ルストリア、シーナ間の国境は現在封鎖されており、その近辺には、スラムの住人達が力を合わせて作り上げた新たな村が設立していた。その村の名はハルトと名付けられた。


 ハルトの村は、元スラム街に住む者達の中から名乗りを上げた反ルストリアを掲げる義勇軍によって設立した村である。ルストリアとの国境を監視し、異常があればそれに対処をするために存在しており、指導者であるシャルツが中心となりこの村を運営している。

 監視という目的のために設立した村である為、村人は例外なく武装しており、観光客を歓迎するような施設も存在しない。唯一ある宿泊施設は、衛生的ではあるものの、非常に簡素で居心地が悪い。


 そんな居心地の悪い宿泊施設に、ルストリア軍パンテーラであるミハイルが来ていた。


「これで武器は全てだな」

「そうだ」


 俺は、机の上に装備していた武器である剣と、短剣、魔導書を並べ、シャルツと対面していた。


「ミクマリノの新年の祝いである『スティン・ニア』に参加することを、我らが皇帝に許可されたというのに、ルストリアの公僕は皇帝の信用を無視し暴力を持ち込もうというのか。全く度を越した愚か者の集まりだな、ルストリアは」

「これは、自衛と護衛の為の装備です。もういいか?」

「おや、我々ミクマリノの民が、お前らのような野蛮な思想で暴力に訴えかけるとでも言うのか」

「……」


 そんなこと否定できないだろ、と思ったが、後々外交問題になってしまっても面倒だし、これ以上話すのは立場を悪くするだけだ、と思い口を閉ざした。ここで何かをしでかしてしまえば、ザイルードの一件が沈静化し始めた現状にまた火を着けてしまいかねない。


 特にやることも無さそうなので、周囲への警戒を解かずに壁のシミが何かの動物に似ているな、なんてことを考えて気を紛らわせることにした。


「だんまりか。それはそうだろうな。ルストリア軍のパンテーラ? だっけ? そのミハイル隊長だもんな。発言には気を付けなくてはいけないだろうしな」


 シャルツは、つらつらと俺に話している。当然、俺の過去についての話も知っているようだ。それもそうだ、あの出来事で俺は大陸内において悪い意味で知名度が上がっている、ましてや対立した国の人間が来るとなればそれなりに調べるだろう、いや、俺の場合は調べる必要すらないのかもしれないな。


 しかし、気になることがある……。


「ちょっと! 一人で行かないでくださいー! 危ないですよー!!」


 外から声が聞こえてきた。それと同時にこの宿の扉が開く。


「やあやあ、久しぶりじゃないか! 元気していたか?」


 入室してきたのは、ラミッツのランディ国王だった。すると、先ほどの叫び声は……。


「国王! しっかりしてください! ここは決して安全じゃありません! 勝手な行動は慎んで! あ! ミハイル! 元気だったか?」

「お久しぶりです。ランディ国王陛下、リンク・リンク特務大臣」


 ランディ国王とリンク・リンクさんとは、第一次大陸大戦の時に大変お世話になった。まだ幼かった俺は、争いに巻き込まれ命を救われた。


「これはこれは、ルストリア従属国の国王陛下がこんな僻地に、ようこそおいでくださいました。ここには、富を占有する御国と違い、豊かな財力を保有していませんので、大したおもてなしは出来ませんが、どうかごゆっくりおくつろぎください」


 シャルツは、またも流暢に嫌味を言っている。シーナの難民をラミッツが継続的に拒んでいたという話を持ち出しているんだろう。だが、ランディ国王は顔色一つ変えずに答える。


「あなたがシャルツさんか。挨拶も正しく行われなかったので、疑わしかったが、どうやら指導者シャルツ殿に間違いなさそうだ」

「どういう意味ですかな?」

「ああ、この街は南部の住人が集まって反ルストリアを掲げていると聞いていたので、もしかしたらな、とは思っていたのだ」

「そうだ、法を支配し、民を虐げるルストリアこそ、全ての元凶なのだ。我々は、その不当な暴力から、シーナ地区の国民を守る為に立ち上がったのだ」


 シャルツはランディが言おうとしていることの全容が掴めず、少々苛立っているようだった。それを聞いている俺も、何が何やらという感じだが。


「あはは、そんなに声を荒げなくても聞こえているよ。私は耳がいい方だから。そうそう、この耳が聞いた情報ついでに言ってしまえば、君、この土地の人間じゃないでしょ?」

「な、なにを、何を仰います!」

「いやいや、うちさ、商売国家なんだよね。良いのか悪いのかは別として。だから、街や村が設立したときには、必ず調査をしているんだ。うちの国の商人たちがね。商人たちは、買い手の秘密は厳守するのが鉄則だけど、どうしても私の耳には入ってきちゃうのよ。ほら、私、耳が良いから」

「だから、何を!」

「リンク、例の書類を出して」

「はい」


 リンク・リンクさんは腰に付けた鞄から一枚の紙を取り出すと、ランディに渡した。ランディはそれを読み上げる。


「ミクマリノ南部ナチャロの若き長が昨年行方不明になった。名前はボリス。特徴としては、右目の下にほくろがあることと、左手の甲に増幅のルーンが刻んであること」


 シャルツは、左手を後ろに回しながら言う。


「ナチャロ? そんな小さな村など知らん」

「おや、ナチャロって村だったんですね! さすがシャルツ殿、博識です!」


 シャルツは黙ってしまう。ランディは、そのまま続ける。


「互いに手が出せない以上、口での暴力に頼るのは意味がわかるが、その戦場で我々に勝つのは難しいんじゃないかな?」


 シャルツが、何か言いだそうとするのをリンク・リンクが遮るように話す。


「こんなルーンや、ほくろなど、証拠にならないだろう! と言い出すのはやめた方がいいですよ。我が君主はそれを見越しています」

「言わせてやれよ、リンク。シャルツ殿、もしも南部の人間を率いるのに南部出身の身元が必要ならば、まずはそのミクマリノ訛りを消すことから始めたらどうだろう。南部の人間は騙せても少なからず、商人の耳には明確な違いが出ている。その素性が露呈して、この場所で内紛なんて起きたら責任問題に発展するだろう。是非、その身を大事にしてくれ」


 シャルツは、少し離れた俺にも聞こえるくらいに歯ぎしりをして、部屋を退室していった。


 そう、俺も気になっていたのはミクマリノ訛り、というところまではわからなかったが、流暢な話し方だった。


「さてと、急に呼び出してすまなかったね、ミハイル」


 室内に誰も居なくなったのを確認して、ランディ国王は俺に語り掛けた。


「いえ、こうして再びお会いできて光栄です、ランディ国王陛下」

「あはは、ランディさんでいいよ。なあ、リンク」


 リンク・リンクさんはにこやかにこちらを見ている。俺は流石に呼びつけは出来ないと思い、せめてランディ国王と呼ばせてくれ、と願うと、ランディ国王に「相変わらず根暗だなぁ」と言われた。自分でも性分は理解していたが、正面切って言われると、少しだけ、ほんの少しだけ傷ついた。まあ、悪気が無いことが救いだったが。


「ところでシャルツくん、いやボリスくんだったか。どちらでもいいか。彼はミクマリノ国軍で随分熱心に教育されたみたいだね。リンク、君の言う通りだったようだ」

「そうですね、良かったというか、残念だったというか。如何に、シーナ地区が復興しているとしても、規律だった村を構築し、武器を与え、統率をとるなど、一年二年じゃ難しいとは思っていました」

「当然半数くらいは実際の南部の人間が配属になっているのは間違いなさそうだけど、中枢にいるのは全てミクマリノ本国の人間だろうね。この小さな村が、大国ルストリアに圧力をかけているのだと思うと、ヴィクトはよほどの策士だね」


 この村が、ルストリアに圧力をかけている。これは、出立前の軍略会議でベガ大将が口にしていたことだ。そこで、本来であれば、俺はスルト地区南部の国境戦に駆り出される予定だったが、ランディ国王の依頼により、シーナ地区の新年の祭に護衛として駆り出されることになった。

 ラミッツには、国王直轄の部隊も、憲兵隊ホーウェイもいるはずなので、俺一人が護衛にあたったところで、そこまで効果があるか疑問だが。と、考えていると、それを察したのか、リンク・リンクさんが話しかけてきた。


「ミハイルくん、忙しいのにうちの国王の我儘に付き合わせちゃってごめんね。うちの精鋭も勢ぞろいで、国王の身の安全には十分に留意しているんだけど、どうしても君と話したかったんだ」

「そうだぞ、ミハイル。例の事件後から、ずっと気になっていたんだ。お前が落ち込んでるんじゃないかと」


 そうだったのか。ずいぶん気を使わせてしまっていたようだ。考えてみれば、こうやって話すのはランツ先生の葬儀の時以来か。


「俺は、その、大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます」

「まあ、ベガ大将、ムーア総司令官がいればどうにでもなるのだろうが、いかんせんあの二人は、不器用だからな。今はウィルズ大佐が戻ってきているから、そこらへんのケアも彼が行っているのだろうけど」

「皆さんによくしてもらっています」


 ランディ国王は、部屋にあった椅子に腰をかけると、あくびをしながら言った。


「ふああ、久しぶりに早起きしたから、少し眠いな。ところで、ディーは元気かい? パンテーラクラスでないと、なかなか話に上がりづらくてね」

「ディー……」


 ディー、それは俺の親友の名前だ。


「ミハイル?」


 心配そうにのぞき込むリンク・リンクさんの表情にハッとした。


「ディーは特務で、しばらく留守にしています」


 最近記憶の調子がおかしい。他の誰を思い出せないことはあったとしても、親友のディーの顔を思い出せないのは、おかしい。正直なところ、今も完全に思い出しているとは言えない。


「そうか、特務か。それは、寂しいな。まあ、積もる話もある。とりあえず、飯でも食いながら、ゆっくりと話そうか」


 そう言うと、ランディ国王は席を立ち、リンク・リンクさんと共に用意された寝室を確認しに部屋を出て行った。


 シーナ地区の新年の祭りは、ラミッツの新年祭と並ぶ一大イベントだが、今年のラミッツはそれを縮小して行うことが決まったらしい。聞くところによると、高度な政治的な事情があるらしいのだが、ランディ国王は細かく説明するつもりもなさそうだったし、聞いたところで俺に理解できるか怪しいと思い深く聞いたりはしなかった。

 そもそも、今回のシーナ来訪は大陸の平和を願い、親睦を深める行為であり、ルストリアとミクマリノが必ずしも敵対する未来ばかりではない、という希望の祭りでもある。当然、この祭を利用し、要人の殺害なども可能性として十分にあり得る。

 それを踏まえて、ルストリアからはベガ大将直轄の参謀数名が親睦の道を模索しに来ており、パンテーラは俺を含めて三人、その参謀や要人の警護にあたる。俺はランディ国王の依頼があったので、誰よりも先んじてこの街で待機し、国王との合流を待っていた。


 現在、ラミッツ軍がこの村の中に入り込んで、国王を警護し、村の外ではテントを設営している。どうやら、本当に国王は俺と話すためだけに俺を呼んだようだ。


「ちょっと、いいですか?」


 先ほど出て行ったリンク・リンクさんが戻ってきた。俺は、少し背筋を伸ばす。


「いやいや、いいよいいよ、そんなかしこまらないで」

「そんな、幼い頃ならまだしも、ラミッツの特務大臣の前で!」

「ははは、困った肩書がついてしまったもんだね。じゃあ、お願いしよう。ミハイルくん、もう少しリラックスしてくれるかな?」

「……はい」


 リンク・リンクさんは、元々ラミッツの大商人だ。どういう理由があるのかは知らないが、常にランディ国王の傍にいた。この度、ミクマリノの独立後すぐに特務大臣に任命された。元からラミッツという国の中枢にいたわけではないので、相当な反発があったと聞く。そこにも、俺では理解できないような政治的な理由があるんだろう。


「ところで、どうかしましたか?」

「ああ、どう、ということでもないんだけど、少し気になってね」

「気になった?」

「うん、ミハイルくん。その右目……」

「あ、ああ、これですか、これは……」

「特異魔法の対価、だろう?」

「……」

「ああ、機密内容だから話せないのか。いいよ、話さなくても。私も、この話を流布するつもりはないし」

「……はい」

「実のところ、フィロンさんから話は聞いているんだ。君の名前は出てないし、症状も細かくは知らないけどね」


 こんな時、俺はなんと答えればいいんだろう。機密は機密だし、しかし、リンクさんは知っているようだし。と、困っているとリンク・リンクさんはそれを察して語り始めた。


「それでは、私が知っている特異魔法に関しての知識をひけらかそうかな」


 こうなると、もはや俺には肯定も否定も無くなってしまう。気を遣わせてしまって申し訳ない。


「ああ、これはミハイルくんとは関係の無い、私個人の知識自慢だよ。特異魔法はとても強力な効果を持つ魔法が多いが、その中でも禁忌と呼ばれる魔法がいくつか存在する。ラミッツの遺跡から出てきた古い文献の中には、その一部が書かれている」


 リンク・リンクさんは、椅子に座っている俺の周りをゆっくりと歩きながら話す。


「例えば、既に存在していないので確認は出来ないが、情報によれば第一次大陸大戦の時にスルト軍にいたバルグ兄弟の扱う魔法なんかは特異魔法に分類される」

「ホランド院長から聞いたことがあります。大変苦戦させられたと。それで……」


 それで、ドガイ院長は死んだのだ。リンクさんは、少しだけこちらの表情を見ると、構わずに続けた。


「彼らが何を対価にしていたかと言えば、恐らく人格か、異常代謝、この場合は異常食欲とでも言えばいいか、そのあたりが対価に該当すると考えられている。それらが、異常な筋肉量を生み出したので、デメリットにならないように感じるが、もし争いのない世界に生まれていれば、かなりのデメリットになるはずだろうね」

「なるほど」


 確かに、俺のこの魔法も平和な世では、あまり役に立たないかもしれないな。


「中には肉体を失うような対価もあるようで、内臓や五感に関わるものを失ってしまうケースもある。これは、その部位、感覚を司る何かを触媒として魔法を発動しているものだと考えられている。五感と魔法は非常に近しいものだから、触媒になるのも理解できる」


 確かに、魔法の発動は非常に感覚的なもので、その感覚を更に研ぎ澄ませるために詠唱を行ったり、感覚のサポートを行うためにルーンを刻印したりしている。リンクさんは続ける。


「それよりも厄介なものが、人格を対価にする場合だ。これは、厳密に言うと魔法を扱うものは皆、これを対価としている場合が多い。特異魔法はその対価の大きさが桁違いだけど」

「すみません、ちょっと言っている意味が……」


 と、質問をしようとしたところで、寝室で寝巻に着替えてきたランディ国王が入ってきた。


「そこから先は、俺が説明しよう」


 そう言って、俺の目の前まで来ると、向かいにある椅子に座った。


「ミハイルくん、ルストリアのパンテーラである君に質問しよう。何故、人を殺してはいけないと思う?」


 突拍子もない質問に少し間が空いてしまった。


 ランディ国王は今までの話を聞いていたんじゃなかったのか? 非常に神妙な面持ちなので、真剣であることは伝わった。


 ならば、質問には答えなくては。今、質問されているのは、孤児院のミハイルではなく、パンテーラのミハイルなのだから。


「法で定められているからです」

「そうか、では法律で定められれば人を殺すことを許容できるわけだな」

「いえ、そんなことは……。そんな法の改定はありえません」

「そうかな、戦地に出向いた時に君は人を殺さないのかい?」

「それは……」

「殺すだろう。しかし、一般市民同士の争いの中にはそれが無い。それは何故だ」

「それは、非人道的な行いだから、です」

「非人道的な行い? そんなことはない。殺人は恐ろしく人道的だ。人が人として成り立つために、他を押しのける行為は肯定されている」

「……すみません、この質問の意図はなんでしょうか」

「ああ、別にこの問答で君を追い詰めるつもりは無かった。気を悪くしないでくれ。さて、これは俺の一意見だが、人が人を殺してはいけない理由は、その選択肢を持つこと自体が社会に生きるうえで障害になるからだ」

「選択肢?」

「そう、選択肢だ。例えば、このシーナ地区の住人達は、既にその選択肢を所持している。『殺す』という選択肢だ。これを一度所持してしまえば、何か窮地に陥った場合や、何か選択に迷った時に、この選択肢が必ず出てくる。隣の住人のご飯がおいしそうだな、と思った時に、『わけてもらう』『欲しいという目線を送る』『殺して奪う』といった具合になるはずだ。そして、わけてもらうと恩が発生する、だったり、目線を送っても気づいてもらえないかもしれない、だったりと、様々な想定がある中で、殺し、は非常にシンプルでわかりやすい。そうなれば、皆が皆、殺しという選択をしてしまうだろう」


 確かにその通りに聞こえる。現在、起きている戦乱にも同様のことが言えそうな内容だった。


「人は所持しているものは、何でも使いたくなる生き物だ。一度でも人を殺したことのある人間は、単一的な、それでいて信憑性のある『殺し』の選択肢を所持してしまう。これが、人が人を殺してはいけない理由だ」

「……」

「ここで、先ほどのリンクの話に繋がる。魔導士は、魔法を信じることでその効果を上げるが、熟練した魔導士ほど全て魔法で解決する傾向がある」


 強力な魔法を持っている、という選択肢を持っているからか。俺の考えをまるで読んだようにランディ国王は言う。


「そう、その選択肢を持っているからだ。これは依存と言い換えてもいい。こういった一連の流れにより、魔法を扱う魔導士ではなく、魔導士は魔法を放つための装置に関係性が変異していく。それが、特異魔法における人格の変質だ。その魔法をうまく使おうとすると、無意識に自身の肉体や、経験、記憶など、魔法に不必要な要素を排除している可能性がある」

「……そう、ですか」

「俺は、ミハイル君の魔法に関してはさっぱり知らんが、仮に特異魔法を所持しているなら、そういったことも危惧しておいたほうがいい。先ほどのは、ただのド忘れであってほしいと、心から願っての言葉だ」

「……ありがとうございます」


 やはり、気づいていたか。流石は商人の国のトップだ。洗練された洞察力を見て、ディーを鮮明に思い出し、唐突に少し寂しい気持ちになった。


 俺の特異魔法である【イン・フォーダ】はこの世の時間を停止させる。


 使うたびに、その性能は上がり、停止させる時間も延びている。一方で、その対価に俺は味覚を失い、右目を失った。既に気付いていないだけで、他の器官の機能も緩やかに止まり始めているのかもしれない。


 その上、記憶まで失ってしまったとしたら、一体俺はどうなってしまうのだろうか――。

お読み頂きありがとうございます。

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