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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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悲憤

――王国歴1490年 リンデル 宿屋


 俺は気が付くと、宿泊していた宿屋の寝室で横たわっていた。俺の寝ているベットの横には、ルストリアの軍服を着た小柄な男が椅子に座って足を組みながら、夢と現実の狭間を行き来している。


「……っ!」


 起き上がろうとしたが、耳に酷い痛みが走り、首を浮かせたまま、起き上がることも、枕に頭を戻すこともできなくなってしまった。辛うじて動いた手で耳をおさえる。


「あっ、ああ。あああっ」


 小柄な男は、慌てふためき、俺がおさえた手をどかし、その下にある耳に恐らく治癒魔法のようなものをかけ、ゆっくりと頭を戻してくれた。


「お、驚かせてごめんなさい。私の名前はパルペン。ホランドたい、じゃなかった、ホランド院長のお友達だよ」


 ああ、きっとこの人は子供が苦手なんだな。フーガのような年齢の子供に対してだったらまだしも、俺の年齢にする説明じゃない。恐らく、この人は院長の軍人時代の部下なんだ。治癒魔法をかけてもらったが、まだ少し頭がぼーっとする。


「パルペンさん、ありがとうございます。ちなみに俺どれぐらい寝てたんですか?」


 パルペンさんは一向に俺と目を合わせてくれず、壁の方を見つめながら小さな声で話した。


「今日で、三日、です」


 今度は敬語。どうしよう、これで、ただ俺のことが嫌いなだけだったら。寝そべっている俺から見て下方向の壁にかかる時計に目をやると、時刻は夜の十時。やっと、意識がはっきりしてきた。


「!!」


 俺は、大事なことを思い出した。


「フーガは!? エリクは!? 院のみんなは!?」


 勢いよく起き上がった俺を、パルペンさんは慌てて落ち着くように言ってきた。でも、落ち着けるわけがない。そう考えていると、部屋の扉が開いた。


「起きたか……」


 部屋に入ってきたのはホランド院長だった。院長は、いつもと変わらない様子でこちらを見ている。俺は、さっきの疑問を伝えようとしたが、院長はそれを遮るように話し始めた。


「院の子供たちは全員無事だ。命に関わる怪我をしたものはいないし、現段階で後遺症が残っている者も皆無だ」


「ティースいんちょ……」

「ティースは教員資格を剥奪し、勾留中だ。これから私と共に裁判所に連れていく」

「そんな……! なんで、ティースさんが!」


 院長の顔が露骨に曇った。いや、怒っているのか?


「ティースは、教育者として間違った道へと進んだ。それだけのことだ。院の子供たちは別の施設へと引き取られ、もう二度と会うことはないだろう」


 そんなこと、あんまりだ。あんなに仲の良い孤児院のみんなが、唯一の親と引きはがされ、ばらばらになってしまうなんて……。


「何かの間違い……」

「では、何の間違いだ?」

「そ、それは……」

「根拠のない発言だった、ということだな」

「……。ティースさんは、そんなことをやる人ではありません」

「では、何をやったか言ってみろ」

「……」


 院長は小さくため息をつき、パルペンさんを退室させて俺のベットの横に座った。


「すまなかった。言葉に感情が乗ってしまった」

「……俺もよくわからないくせに口を挟んで、ごめんなさい」


 院長は俺の耳の周りの髪をかき上げ、状態を確認した。さっき触ったときに外傷はないように思ったが、見ただけで怪我の具合でもわかるものなんだろうか。


「お前は、大した人間だ。自身の身を顧みず、誰かのために尽くすことが出来る。それは、才能や能力を超える大きな素養だ」

「……?」


 突然なんの話をしているのかわからなくなったが、表情を見るに誉めていることは間違いないはずなので、少し嬉しい気持ちになった。だけど、院長のその表情も長くは続かない。


「しかし、今回のこの件において、教育者として、お前の親として、全てを手放しに喜ぶわけにはいかないな」

「なんの話ですか?」

「お前は一人で生きているわけではない、という話だよ」

「ますますわかりません」

「お前もいずれ子供を持てばわかることかもしれないな」

「……?」


 今日はいつにも増して回りくどく、よくわからない。


「先ほどの話だが、ティースが行ったことは生徒を無差別に傷つけ、私に危害を加えた罪がある。審査官である私は立場上、国家の仕事を請け負っている状況で、これを妨げる行為は国家反逆とみなされる可能性がある。それが認められた場合、重罪だ」

「……」


 信じがたいし、考えられないが、それに反論するほどの知識もなければ、状況を把握するための経験もない。俺は……。子供だ。


「私にできることは、この事実を隠蔽し、少なくとも国家反逆の罪にならないように便宜を図り、全ての事柄が単純なティースの魔力暴走である、と虚偽の事実を供述することだ」

「それならっ!」


 なんだ! 良かった! ティース院長は皆と一緒に居れるんだ!


「だが、私はそんなことはしない」

 院長は、当たり前のように言う。


「え?」

「そんなことはしない」

「ど、どういうことですか?」

「私は私の正義を全うする、ということだ」

「はは、なんですか、それ……」


 院長は、俺のほうを真っすぐ見ながら、まじめな顔をして、ふざけたことを言う。冗談ではまるで済まない話を。


「隠蔽はしないし、虚偽の事実などもってのほかだ。そんな安易な、簡単な選択肢は、絶対にとらない。ティースには正しい裁きを受けてもらう。当然、ティースと子供たちも引きはがす」


 俺は、自分の体から嫌な汗が出るのを感じた。背中のあたりの下着の内側で、じんわりと嫌な感覚が広がっていく。


「ミハイル。お前の優しさが、間違った方向に根差していくのではないかと心配で、この話をした。どうやらそれは、正しかったようだ。それならば、なおのこと私は正しくいようと思うよ」


 院長は立ち上がると、そのまま部屋から出ていってしまった。俺は、院長を止めることもできなければ、発言することもできない、なんなら今起き上がっているのも、このよくわからないことを言う院長が手配した部下の治癒魔法で治療されたからこそだ。


 今まで感じたことのない、感情が自分の中でざわざわと音を立てた。


 しばらくすると、宿屋の前に馬車の到着した音が聞こえてきた。俺は立ち上がり、窓辺に立ち、カーテンの隙間からそれを見ると、院長が馬車に乗り込もうとしているところだった。院長は馬車の方を向いていたが、急に振り返り、俺のいる部屋を見た。なんとなく俺は隠れてしまった。

 やはり、軍人は視線だけでも気配を感じ取ることが出来るんだろうか。まあ、今はどうでもいいか。そんなこと。


 と、思っていると、突然大きな声が室内から聞こえ、俺は飛び上がった。


「失礼するっすー!!」


 振り返ると。扉とほぼ同じ大きさの大男が入室してきて再び驚いた。


「いやー、驚かしてすまないっす!!」


 いや、声がでかい。耳が痛い。とは言えなかった。ルストリアの軍服を着ているので、この人も院長の知人か、部下なのだろう。大男は、身の丈に合わない小さなお盆を持っていた。その上には、何やらうまそうなシチューとパン、ミルクの入ったコップが乗っている。


「ホランド大佐特製シチューっす! これを食えば大体の不調は治るっすー!」


 今しがた、院長とは色々あったので複雑な気持ちになったが、自分でも驚くことに、とんでもなく腹が減った。そのお盆が置かれるなり、俺はその食事を貪り食った。


「さっき、自分が念のため、何かあってはいけないと思い、二杯ほど食いましたが、なーんか昔より味が薄くなったような気がしたっすねー」


 二杯は毒見でもなんでもなく、ただお腹が空いただけでは? とも思ったが、そんなツッコミを入れることもなく、集中していつもの院長のシチューを食べた。俺の味覚はほとんど死んでいるが、それでもおいしい。おいしく感じることができる。

 そして、それを食べ終わると、さっきまでティース院長のことであれだけ考えていたのに、おいしく食事をとっている自分に嫌気がさして、涙がこぼれてきた。


「治癒魔法かけてもらうと腹減るっすよねー! 自分もっす! ま、自分の場合はいつでもたくさん食べるので、あんま変わんないんすけど! はははは!」

「あ、あの……」

「なんすか? ミルクのおかわりっすか? 持ってくるっす!」


 そう言うなり、お盆から俺のコップを取り上げ、部屋を出ていってしまった。とにかく騒がしい人だ。しかも、今俺はミルクが欲しい訳じゃない。そうこうしているうちに、階段を上り下りしてミルクを持ってきた。持ってきてもらった手前、飲まないわけにはいかなくなったが、正直、ミルクを何杯も飲むと腹を下してしまうので、ちょっと迷惑だった。


「その、院長とはどういうご関係ですか?」

「ああ! ああ! そうっすね! 初めましてっすね! ミハイルくん!」

「初めまして」

「自分の名前はユークリッドっす! ホランド大佐の部下っす! 元!」


 やっと大男の素性がわかって安堵したが、それにしたってさっきのパルペンさんといい、院長の元部下の人は個性が強い人が多いなぁ。

 一通り食べ終わると、ユークリッドさんは食器を片付けに下に降りていった。俺は自分で出来ると言ったが「自分も食器を片付けるくらいできるっす! 今日は風呂にでも入ってゆっくり休むっす!」と言われた。その主張はイマイチよくわからなかったが、質問の余地もなく下に降りて行ってしまったので、とりあえず風呂に入ることにした。


「ああ、時間が戻せたならな……」


 シャワーを浴びながら、口から零れた。


 こうなるとわかっていたら、何かできたかもしれない。何か。


 何ができたんだろう。子供の自分に。気が付くと俺は下唇を噛み締めていた。


 排水溝に向かって泡が流れていく。


 ああ、そうか。


 さっき俺のなかでざわざわと音を立てていたのは。


 どうしようもないほど無力な自分への怒りだ。

お読み頂きありがとうございます。

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