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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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回顧

――王国歴1490年 ルストリア シーナ リンデル 十三歳の春


 シーナは貧富の差が激しい国で、北東にある富豪街と、南部を中心に広がるスラム街で住人が分けられている。


今、俺がいるのは、そのどちらにも属していない北西の街リンデルだ。


「ここリンデルは、ラミッツとの交易を行うための市場のような役割を与えられて作られた街ではあるが、北西のラミッツとの国境で戦が起きてからは、ほとんどの物資がここに届かなくなり、徐々に活気は失われた」


 目の前にいる男ティースは、俺を含む二十人の子供たちの目の前で、教鞭をふるう。とても朗らかな表情で、にこにこしながらも真剣に教育に取り組む姿勢は、生徒たちにも伝わっているようで、みんな一生懸命ノートをとっている。年季の入った教室と合わさって、とても暖かな空間に感じた。


 俺は、ホランド院長に連れられてリンデルの中心部にあるティース孤児院に来ていた。ここの院長であるティースさんの授業を受けている。と、いうのも、俺は将来成りたいものについて少し悩んでいた。


 今からちょうど二週間前、その悩みをランツ先生に打ち明けた。所謂、進路相談のようなものだ。すると先生が、シーナで友人が運営している孤児院があって、近く認定孤児院査定会があるから、是非見てくると良い、と言われて、その査定会の代表であるホランド院長についてきたというわけだ。


「では、ミハイル君。現代魔法学における、適性魔法の種別の中で最も適性者が多いとされているものは何かわかるかな?」


「え、あ、変性魔法です」


「さすが、ミハイル君。しっかりとおさえているね」


 突然指名をされたもので驚いたが、なんてことはない、俺の孤児院では一般教養レベルだ。


 ティースさんは、そのあとも次々に子供たちに質問を投げかけ、まるで会話でもしているかのように授業を進めていく。俺の後ろでは、ラミッツの偉い人や、ホランド院長、ミクマリノからも甲冑を着込んだ、偉そうな軍人が立っている。彼らは授業の様子を見て、手元にある長方形の板にしきりに何かを書き込んでいた。


 しばらくして授業が終わり、生徒たちは建付けの悪い教室の扉を器用に開くと、隣にある遊戯室へ移動した。俺は、院長の付き添いで来たので、遊戯室に行くべきか迷ったが、院長から手振りで隣の部屋に移動するように促され、それに従った。

 教室から出るときにティースさんが、額の汗を拭いながら、後ろにいた偉い人達と話している姿が見えた。俺の視線に気が付いたティースさんは、ニコリと俺に微笑んだ。


 どんな時でも笑顔でみんなに接するその姿はランツ先生に似ているな、と思った。


 隣の遊戯室へと移動すると、そこでは既に子供たちが走り回っており、やや脆くなっている木製の床は、今にも崩れてしまいそうな音をたてている。シーナの孤児院はここに限らず、外で遊ぶ習慣があまり無いらしい。


 ここに来る前に聞いた話では、無差別な傷害事件や人攫いがたびたび起こるようで、その治安の悪さから子供たちを守るべく、シーナの孤児院には大概遊戯室が設けられているのだとか。

 こんなことを思うこと自体許されないことなのだとわかっているが、俺はここの子供たちが不憫でならなかった。


 明日は晴れそうだから外で何をしようとか、積もった雪で何を作ろうとか、そういった経験や思考、発想がない。


 それがどういうことなのか俺には理解できない。


「よお、ボンボン」


 気が付くと右隣の壁際に、驚くほど目が吊り上がった同い年くらいの男が立っていた。


 彼は、俺に向かって何やら感じの悪い呼び方をしてくる。そもそも孤児院に暮らしてる人間が、ボンボンなわけないだろ。


「ん? 俺?」


 俺は、何食わぬ顔をして正面で遊ぶ子供たちを見ながら答えた。


「どうだ? うちの孤児院は。汚ぇか?」


「そんなことないけど」


「はっ、よく言うぜ。さっきまでお前がしていた目は『あわれみ』の目だ。俺は知ってる」


 確かに、この子たちを憐れんでいたけど、それは別にこの孤児院を汚いとか思ったわけじゃない。と、言ったところで、こいつは納得しないだろうな。環境にしろ、施設の設備にしろ憐れに思われたことには違いないわけだし、良い思いはしないだろう。


「はっ、これだからボンボンはよ」


 そう言うと、目の吊り上がった青年は俺の横の地べたに座り込んだ。


「ボンボンって言うのやめろ。 俺にはミハイルって名前がある」


「んなことわかってんだよ。授業で紹介されたんだからよ。ルストリアから来たボンボンなんだから、ボンボンでいいだろ」


「俺はルストリアの孤児院から来てる。お前と同じ孤児院暮らしだ。だからボンボンじゃない」


 青年は、少し困惑した表情を浮かべたあとで、下を向いた。どうやら、俺がルストリアの一般家庭の子供だと思っていたようだ。


「……悪い、勘違いしてたわ」


 なんだコイツ、意外に素直なんだな。


「あぁ、別にいいよ」


「俺はエリクだ。よろしくな優等生」


 まだ何やら悪意を感じるが、ボンボンよりはいいだろう。


 ふと、エリクの腕に視線がいった。その腕には火傷の跡のようなものがいくつもあって、皮膚も全体的にしわしわだ。


「ひでえだろ。これは俺が『灰皿』だった時の名残さ」


「灰皿?」


「ああ、俺は奴隷の子供だからな。親に売られちまったのさ」


 奴隷? 灰皿? 言っている意味が一瞬わからなかったが、その意味が分かると、とても悲しい気持ちになった。


「だから、その目をやめろって」


「あ、ああ。ごめん」


「ま、見てくれは悪いが、とりあえず動くだけマシさ。ほら、あいつ見てみろよ」


 エリクが指した先には、小さな男の子が手をぶらぶらさせて、足を引きずりながら、友達と追いかけっこをしている。


「あいつは、富豪に買われた先で両腕の腱を切られて、足の腱を痛めつけられたらしい」


「そんな、どうして」


「さあな、そんなことは俺にはわからん」


 俺にも全く理解できない。言葉に詰まっていると、エリクが続けて口を開く。


「ただまあ、わかることはこの大陸はとんでもなく不平等だってことだな」


「……」


「自由と平和だっけ? 俺にはそれがどうも好きになれない。身近に自由に振る舞う富豪様がいるからな。この国を見る限りじゃ、平和も相当遠い未来の話だろうしな」


 違う、自由は、そういうことじゃない。と、言いたかったが、その先の言葉が浮かばなかった。そんなことを考えていると、先ほど足を引きづっていた男の子がこちらにやってきた。


「お兄ちゃん、すごい頭いいね。ルストリアの人はみんなそんなに頭がいいの?」


「え? ん、そう、かな。みんなってわけじゃないかな」


 俺は反応に困ってしまった。


 男の子の無垢な表情は、ディー・エヌ孤児院にいる子供たちと同じなのだ。同じなのに、状況や状態が違う。俺は、鼻水で顔中汚れている男の子の顔を自分の服の裾で拭った。この子は、両手が使えないから、拭うことが出来ず、その顔は汚れたら汚れたままなのだ。


「ありがとう、お兄ちゃん。俺の名前はフーガって言うんだよ。後で勉強教えてくれよ。俺もお兄ちゃんみたいになりたいよう」


「うん、いいよ。あとで一緒に勉強しよう」


「約束だよ!」


 フーガはそういうと、再び友達と遊びに行った。


「あーあ、きれいなお洋服が汚れたなミハイル」


「ああ、別にどうでもいいよ。後で洗うだけだ」


――


 認定孤児院査定会は基本的には二日間行われる。

 

 初日は、座学の内容の確認と、孤児院の設備の確認。二日目には、教師の実技試験がある。教師の実技とは、教育のこと、つまり初日の座学のチェックで済むじゃないか、と思ったが、どうやらそういうことではなく、魔法の実技試験らしい。

 魔法が使えなければ教師になれないのか、と思ったが、少なくとも認定孤児院には必要らしかった。俺は、そんなことよりももっと孤児院をたくさん建てて、たくさんの子供たちを迎えてあげればいいのに、と思った。


 しかし、聞いたところによると、子供の魔法が暴発する事例は多くあり、それを防ぐためには魔法の使用は不可欠なのだとか。ま、俺も自分の中に何かよくわからない魔法を宿している身なので、なんとも言えないけど。

 更に言うと、過去にマグナなんとか、というテロリスト団体が子供たちをたくさん集めて、大規模な犯罪を起こしたらしく、教育機関の認定は非常に厳しくなったのだとか。


 ともあれ、査定会初日は無事に終わった。


「待たせたなミハイル。今日はもう終わりだ、宿へ向かうぞ」


 仕事を終えたホランド院長と合流し、ティース孤児院を後にした――。


 

 色んなものを見聞きしたせいか、今日は一段と疲れた。


「まだ半分だ、気を抜かずしっかりその目で見定めろ。その為に来たのだろ?」


 この人は、相変わらず何でもかんでも見透かしてくる。俺が知るどの大人より大人で、尊敬しているのは間違いないけど、疲れの原因の一つは貴方です。なんて言ったら間違いなく制裁を受けるだろうな。


 俺は淡と短く返事をし、リンデルの宿屋へと足を運んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボンボン呼ばわりされたミハイルくんが可愛い!怒りもせず真面目に返すミハイルくんキミは優等生です笑 フーガの顔の汚れを服の袖で躊躇いもなく拭ってあげて、そういうのを厭わずに普通に出来るミハイ…
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