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おっさん、軍神として降臨す  作者: 波 七海


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第66話 サースバード大会戦 ⑥

■中央ゴレムス暦1582年12月20日 13時過ぎ

 ガイナス


 虎の子の竜騎兵五○○で敵本隊を強襲したガイナスであったが、手痛い反撃を受けていた。後から後方に控えていた歩兵部隊、アド騎兵部隊も次々とそれに加わっているが、思いの外、攻撃は跳ね返されていた。


「ぐぅ……敵が強い。これが敵の【戦法タクティクス】かッ!」


 ガイナスの目には様々な色に光り輝く敵兵の姿が映っていた。

 その色は橙、緑、黄で輝きも大きいように思える。


 そう。ガイナス軍はブレインの【戦法タクティクス】、《激怒の猛反撃(弐)》の力によってモロにカウンターを受けていた。


 貴重な竜騎兵が討ち取られていく。

 走竜の中にも屍を大地に横たえているものもいた。


 ガイナスもおっさんから他にも【戦法タクティクス】や【個技ファンタジスタ】を使える者の存在は聞いていたが、身を持って【戦法タクティクス】を受けてみると、今までこんなものを喰らっていた敵兵に少しだけ同情したほどである。


「(クソがッ……敵総大将を倒すしかねぇ! 一刻も早くだ!)」


 戦いが始まってから、おっさんに敵総大将の情報は聞かされたが、ガイナスは戦ってみなければ分からないと思っていた。

 乱戦状態の中、ガイナスは斬っても斬っても湧いてくるバルト王国の兵士たちにウンザリしつつも少しずつ前に進んでいた。

 流石の竜騎兵と言えども単独で囲まれれば為す術もなく討ち取られてしまう。

 ガイナスはなるべく纏まって前へ前へと進撃していた。

 1人での突出はガイナスはともかく走竜がられる恐れがある。


「【戦法タクティクス】がこれほどのもんとはな……双方が【戦法タクティクス】持ちだと勝負は長引きそうだ」


 身を持って初めて理解できる【戦法タクティクス】の威力であった。


 ガイナスは騎乗したままで重い鉄槍を自在に操り敵兵の頭蓋を叩き割り、その胸に風穴を開け、その膂力を《一騎当千》で更に強化して存分に振るっていた。

 部下たちも一般の敵兵たちには遅れを取っていないので、おっさんの強化のようが上回っているようである。


「そこなデカいのッ! 名のある武将と見たッ! 我と尋常に勝負ッ!」

「よく言いやがったッ! 俺を倒して名を上げてみろッ!」


 ガイナスが声の方へ目を向けると、そこにはそれなりのフルプレートに身を包んだ将が槍を突きつけて叫んでいた。

 そもそもガイナスはまだまだ無名なので名を上げるも何も、まずお前が上げろよとしか言えないのだが、そこは言葉のあやと言うヤツである。


 アドに乗って突っ込んでくる敵将に、渾身の突きをお見舞いするガイナス。

 しかし敵将も一角ひとかどの者であったようだ。

 紙一重でその攻撃を避けると、接近し鉄槍を抱え込み、槍を逆手にくるりと持ち変えて思い切りガイナスの胸の辺りに振り下ろした。


「なにぃ!?」


 槍がガイナスに直撃しようとしたその時、槍の軌道が逸れる。

 いや、ガイナスが鉄槍を手に抱え込んでいた敵将ごと持ち上げたのだ。

 それにより槍は当たることはなかった。


「はッ!」


 ガイナスはそのまま地面に敵将を叩きつけると、一旦鉄槍を引いた後、そのまま突き殺した。


「敵将、討ち取ったぜ!」


 ガイナスはそう吠えると、ふうっと息を大きく吐き出す。

 一騎当千の力を得ているとは言え、疲れることには変わりない。


「おほッ……やるねぇオタク。さてはこの部隊の敵将かぁ!? よくもまぁ敵本陣にまで突撃しやがったと褒めてやるぜ。俺とテメェどっちが強いか勝負ッ!」


 ガイナスが場違いなハイテンションの声を上げる人物に目をやる。

 その武将は明らかに他の将たちと出で立ちが異なっていた。

 派手な軽装プレート、籠手、脛当て、ブーツ、とにかく全てが派手な男だ。


 言わずと知れた、バルト王国軍総大将、ナリッジ・ブレインその人であった。


「貴様、名のある将軍かッ! 俺が討ち取ってやるからかかって来いッ!」

「いいねぇいいねぇ! その威勢嫌いじゃないぜぇ!」


「俺はアウレア大公国サナディア軍の将、ガイナス・キリングだッ!」

「俺は総大将、ナリッジ・ブレインッ! 面白そうだ! やったるぜぃ!」


『てめぇは殺す!』


 周囲に止める者はいない。

 何故なら、ブレインは周囲が止めるのも聞かずに陣から出てきたからだ。


 最前線でガイナスとバルト王国軍総大将の一騎討ちが始まった。




 ―――




■中央ゴレムス暦1582年12月20日 14時前

 ベアトリス


 ベアトリスはもうずっと西へ東へと東奔西走していた。


 ある時は、味方と戦っている敵部隊の側面を突いて混乱させた。

 またある時は、瓦解寸前の味方部隊に援軍として駆けつけ態勢を整えさせた。


 最初に敵の布陣を見た時は、あっさり包囲されて撃破されるのでは?と思っていたのだが、味方の前線部隊が殊の外、精強であった。


「(と言うよりよく粘ったものだ)」


 訓練で見たあの輝かしいまでの光が体を包み、訓練の通りの実力を発揮できた。

 あのようなものの存在――【個技ファンタジスタ】と【戦法タクティクス】自体が驚愕に値するが、そんなものを使えるアルデ将軍には興味が尽きなかった。


 全ては聖クルストのお導きかも知れないとベアトリスは感じていた。


神器セイクリッド・アームズ、聖剣ヴァルムスティンが血を欲しているぞ! 死にたい奴はかかってこい!」


 ベアトリス本来の強さに加えて【個技ファンタジスタ】の《無双》のお陰で彼女は完全な修羅と化していた。勝てる者などいるはずもなく、彼女が一度剣を振れば、何人もの命が冥府へと旅立って行った。


「(今の私なら一○○○○でも相手にできそうなほどだ……)」


 未だに効果が続く【個技ファンタジスタ】の力を振るい、今まさに瓦解しかかっている敵部隊を追い散らす。


 そして部隊の将と思われる男を見つける。

 勢いに乗ったベアトリスは、慌てて逃げようと背を向けた敵将を追ってアドで駆ける。


「このベアトリスに出会ったことを後悔せよッ! お覚悟召されッ!」


 そう言って聖剣を敵将目がけて振り下ろした時、横から鉤爪のついた棒が何本も差し出される。ベアトリスはそれに鎧を引っ掻けられてアドから落ちてしまった。


 慌てて体勢を立て直すが、足首を捻ったのか力が上手く入らない。

 ベアトリスはあっと言う間にバルト王国軍に囲まれてしまった。


『【個技ファンタジスタ】の強さにかまけて突出するのは止めるように』


 おっさんの言葉が今、ベアトリスの胸に去来していた。

 思わず舌打ちがついて出る。

 勝てないことはないが、こちらもダメージを負う可能性がある。

 ベアトリスは前に出れば後ろに下がり、下がろうとすれば前進してくる敵兵たちに進むも退くもできない状態に陥っていた。


「はっはぁ! 鉄砲隊前へ! あのベアトリスを討ち取るは今ぞッ!」


 ベアトリスはとにかく射線から逃れるために真横に走り出した。

 足が痛むが今はそんなことは言っていられない。

 鎧に当たれば鉛玉なら貫通はしないだろうが、それ以外に当たれば危険だ。


 ダダーンと発砲音が鳴り響き銃弾が発射される。


 ベアトリスはその瞬間にスライディングして地に身を伏せた。

 そしてすぐに身を起こすと、殺到してきた敵兵をなます斬りにしていく。


「よく狙わんかッ! 次、弾込め急げッ!」


 ベアトリスが再び逃げようと身を翻すと足に激痛が走る。

 最初の時の比ではない痛みが彼女を襲った。


 こんなくだらないことで命を落とすことになるのかとベアトリスは歯を食いしばりながらも俯いた。アルデ将軍に助けられながら大した恩も返せなかったなと言う後悔の念が押し寄せてくる。


 ベアトリスは聖剣を支えにしてその場に立ち上がった。


 その時、遠くから蹄の音が聞こえてきた。

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