第52話 バルト討伐令
■中央ゴレムス暦1582年10月18日
アウレア
各地の貴族諸侯がアウレアス城に召集されていた。
呼ばれていないのは、ジィーダバ伯爵改め侯爵、ニワード伯爵ら少数である。
ジィーダバ伯爵だけでなく、手柄もないニワード子爵までもがちゃっかり陞爵している辺り、2人の繋がりが見えるようである。
「刻は来たれり! いよいよバルト王国を討伐するその刻が!」
「我が父ホラリフェオを討った逆賊に手を貸した外道の国だ! 我々が共に歩む未来など存在しない! 今こそ兵を挙げよ! 下劣なる慮外者共に鉄槌を下すのだッ!」
おっさんは思ったより速かったなと考えていた。
国力回復のために早くとも来春になるかと思っていたのだ。
言っても無駄だろうが、一応言ってみることにした。
「大公陛下、恐れながら申し上げます。我が国はまだ事変の混乱と疲弊、そして領土の仕置きなどでまだ真の力を発揮できないと思われます。今、戦端を開くのはちと考えものかと存じます」
「ほう。アルデ将軍ともあろう者が随分と軟弱なことを申すのだな。貴殿の戦ぶりは聞いておる。問題ない! バルト討伐の総大将は貴殿に申し渡すのだからな!」
「(ぬわぁーにが問題ない!だよ。相手は銃火器持ちだぞ。被害が増えるから今は戦いたくないな。まずは銃火器保有禁止法を撤廃してから言ってくれよ)」
銃火器禁止法はあくまで国内法だが、撤廃しようとすれば法を押し付けた列強国を始め、周辺国家が難癖をつけてくることは間違いない。しかし今の時代、銃火器を持たなければ劣勢になるのは目に見えている。アウレアが強国になろうとすれば、国力を高めつつ、法の撤廃の根回しを行い、裏で銃火器の輸入や開発を画策するくらいのことはする必要がある。しかも同時進行で、だ。
「(ま、ホーネット陛下がバルト討伐を企てたのは十中八九、俺の力を削ぐためだろう。バルトを倒すことが目的ではない。それで難癖をつけられればなお良しと言ったところか?)」
「私が総大将ですか」
「その通りだ。貴殿に任せれば必ずや憎きバルト王国を滅ぼすことができよう」
断ることは不可能である。
ホーネット大公陛下はともかくジィーダバ侯爵は、何かあれば必ず難癖をつけてくるのは間違いない。
下手をすればおっさん討伐の口実を与えるだけだ。
「討伐は王都ベイルトンの占領まででしょうか?」
「え? ん? ああそうだ」
「(こいつ何も考えてなかっただろ。まぁどうせバルト全域の占領と抵抗勢力の駆逐になるだろうが。とは言え断っても心象悪くなるし選択肢はないか……)」
おっさんは仕方なく命令を受けることにした。
「総大将をお任せ頂けると言うことは全権を持つと言うことでよろしいので?」
「良い。見事バルトの地を切り取ってみせよ」
「はッ! 謹んで拝命致します」
おっさんはどう考えても、つまり失敗しても成功しても文句を言われるのを確信していた。なので味方勢力を作りつつ秘密裏に国外勢力と外交関係を構築してじっくりバルトを攻めることに決めた。
今のおっさんの状況だが、サナディア本領に副官のノックス・ブライフォード、ハーネスにベアトリス、ネスタトとレイカルドは代官のみに任せている。ボンジョヴィには国内の貴族諸侯たちへの調略を担当させているが、バルト討伐となると、国外勢力との交渉も任せようかとおっさんは考え始めた。
ちなみにドーガとガイナスにはおっさんの側についてもらっている。ドーガは主に相談や助言、ガイナスは護衛と練兵で主な仕事である。
―――
■中央ゴレムス暦1582年10月20日 深夜
ノーランド
薄暗い部屋の中で2人の男が密談している。
と言ってもこの部屋を含め周囲の部屋には誰も入ることは敵わない。
それでも声をひそめて話している辺り、どうしても人には聞かれたくないことであろう。
「そうかそうか……それではやはりアルデ将軍はプレイヤーと言う訳か」
「はッ……奴の家臣であるバルムンク副官補が練兵にて【戦法】を使ったことを確認致しました」
「半透明の板は確認できなかったのか?」
「そこまではできませんでしたが、我が【個技】により情報は取れました故……」
「そうだな。そうだったな。お主の《情報看過》に見破れぬものはないからのう」
「はッ、授けて頂いた【個技】でござります。間違いはないかと」
そう言うと黒ずくめの格好をした男がスッと紙を差し出した。
もう1人の禿頭の男がそれを受け取って目を通す。
そこにはこう書かれていた。
◆名前:ドーガ・バルムンク
◆称号:副官補
◆指揮:☆☆
◆所属:倶利伽羅軍
◆個技:一騎当千(弐)
◆戦法:騎兵突撃(参)
◆等級:現地人(N)
「しかし何だこの倶利伽羅と言うのは……」
「某にも分かりかねまする」
禿頭の男は何やら考え込むが何やら無理やり納得したような表情を見せた。
「アルデ将軍の強さは図抜けていた。プレイヤーであるなら納得もいこう」
「はッ」
実際はおっさんがアルデ将軍に成り代わる前からアルデの強さは人並み外れていたのだが、それをこの男が分かろうはずもない。勘違いしても仕方のないことであった。
「(しかしこの男、余程、信頼されていると見える。【個技】と【戦法】を2つも与えられているとはな……。これは他にも能力を持っている者がいるやも知れぬな)」
黒ずくめは主が何も言わずに考え込んでいるのを黙って見ている。
この男は自分が主の手足であると自覚していた。
余計なことは考えない。
勝手に予想して動けば必ず悪い結果に繋がり、最悪は死ぬだろう。
「ご苦労だった。引き続きアルデ将軍と中央を見張れ。後はジィーダバ卿だ」
「御意」
「お前たちには働いてもらわねばならん。与えた能力はわしのためだけに使え。そのための山嵐だ」
「畏まってございます」
「よし行けッ」
山嵐とは黒ずくめを棟梁とした諜報集団だ。
つまり忍者のような存在である。
男は黒ずくめがいなくなった部屋の窓から真っ暗な外に目をやる。
「道を誤らぬように。決戦は近かろう」
そうポツリと呟いた。
そしてフッと鼻で笑うと言った。
「まさか現地人に負けるとも思えぬがな」




