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おっさん、軍神として降臨す  作者: 波 七海


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第46話 ホーネット、帰国する

 ■中央ゴレムス暦1582年9月8日

  アウレアスの港


 アウレアの港に巨大船が現れて接岸した。


 降りてきたのは、アウレア大公国第3公子ホーネット・エクス・アウレアウス。


「祖国よ。俺は帰ってきたぞ!」


 せっかく長い時間を掛けて向かい、テラストラリス大陸の気候にも慣れて、交渉にも身が入ってきたと言うのに急使が訃報をもたらした。テラストラリス連邦の首都オストリアに居たホーネットはあまりの衝撃に動揺を隠し切れなかったものだ。


「まったくネフェリタス兄上も大それたことをやってのけたものだ。それにしても父上だけでなくロスタト兄上も死んだとはな。まさか俺が大公になるとは」


「殿下、もっと悲しそうな顔をしてください。今や国民は殿下に同情的ですぞ(わしにも運が巡ってきたようだ。殿下の傅役もりやくになった時は出世もそこそこで終わりかと思ったものだがな)」


 そう注意を促したのは副官のルガールだ。

 しかしそう言う彼もまた笑みを浮かべていた。

 説得力の欠片もない。

 ホーネットとルガールは豪華なアド車に乗り込むと、アウレアス城に向かった。沿道にはホーネットの帰還を知った国民が大勢押し寄せていた。


 アドは車を引いてゆっくりと進んで行った。


※※※


「ホーネットッ! 無事帰ってきてくれたようで何よりです!」

「お兄様、くさーい!」

「おにいさま、くさーい!」


「ははは……長い船旅だったんだからしょうがないだろ。姉上、ただいま帰りました」


 城内に入ると、主だった者がホーネットを出迎えた。

 滅多にないことだが、この城の正面ホールには多くの者が集まっていた。

 おっさんも報せを受けて駆け付けていた。

 しばらく長旅の疲れを労う会話が続いたが、誰からともなくエストレア事変の話題が振られる。


「まさかネフェリタス兄上が父上とロスタト兄上を弑するとは……」

「私も信じられなかったわ。でも本当……バルト王国軍を国内に引き入れて一時はこの城も落ちたのよ?」


 事変から2か月も経てばシルフィーナも落ち着いて話せるようになっていた。

 今は弟が無事に帰国したことを素直に喜んでいる。


まことですか……姉上たちがご無事で何よりでした」

「私たちはアルデ将軍を頼ってサナディア領に逃げたのです。それで将軍が貴族諸侯を糾合して叛逆者のネフェリタスとオゥル、そしてバルト王国軍を破ってくれたのです」

「何と……アルデ将軍が……流石は烈将と言われているお方ですね」


 おっさんがネフェリタス一党を滅ぼしてからシルフィーナは、褒めてばかりいる。

 おっさん的には何ともむず痒い思いだ。

 これからホーネットと相争うことになるかも知れないので、おっさんは何とも言えない気分になっていた。ジィーダバ伯爵がホーネットを担いでおっさんに対抗してくるのは明らかだからだ。

 対抗とは言うが、ホーネットはアウレア大公国の正当な後継者である。おっさんが口を出すことではないが、自己防衛として何か策を講じなければ滅ぼされてしまう。それが戦国の世の習いである。


「アルデ将軍! 本来ならば私が父たちの仇を討たねばならぬところを……姉を助けて、いや我が国を救ってくれて感謝致します」

「いえ、謀叛人は討たねばなりませんから」


 おっさんは少し憂鬱になった。

 自分もその汚名を着せられる可能性があるし、いずれホーネットと争うことになるだろうことを考えるとどこの世界も同じだなと感じるのだ。


「国葬は終わりましたが、貴方もすぐにお祈りなさい? それにこれから忙しくなりますよ?」

「はい。姉上。すぐにでも」


 ホーネットはそう言うとシルフィーナたち身内と共にその場を後にした。

 おっさんは共に足を運んでいたドーガに声を掛ける。


「俺たちも戻るか」

「そうですな」




 ―――




 ■中央ゴレムス暦1582年9月8日

  ホーネットの部屋


 風呂に入って身を清めた後、お祈りをし終えたホーネットは久しぶりの自室にホッとしてくつろいでいた。テラストラリス連邦では首都オストリアの立派な迎賓館に宿泊してはいたが、やはり長期間慣れない環境にいると疲れは溜まるものだ。


 ホーネットはグレイシン帝國から輸入している緑茶を飲んで、午後の時間をまったりと過ごしていた。その時、部屋の扉がノックされる。

 せっかくのティータイムを邪魔されて、少し不機嫌な声でそれに応える。


「何用だッ?」


「ホーネット殿下、お疲れのところ大変申し訳ございません。ジィーダバ伯爵の使いが参っておりますが如何致しますか?」

「ジィーバダ卿の?」


 守衛からの質問に少し考えるホーネット。

 アウレア大公国の有力者の1人であるジィーダバ伯爵の使者となれば無碍むげにはできない。


「入れッ」


 ホーネットがそう許可を出すと、扉が開き見目麗しい女が部屋に入ってきた。


「突然申し訳ございません。私はジィーダバ伯爵の部下スワンチカ・ベーレルと申します。本日はご機嫌麗しゅう――」

「挨拶は良い。何用か?」


 実はスワンチカを見た瞬間、体に衝撃が走ったホーネットであったが、そんなことはおくびにも出さない。スワンチカはまだ若く、とても美しかった。ホーネットと同年代と言っても良いだろう。


「ジィーダバ伯爵からお手紙を預かっております」

「良い。こう寄れ」

「はい。ありがとうございます」


 ホーネットは手紙を受け取ると、封を切って中身を改める。

 読み進める内に彼の表情が変わっていく。


「これは本当のことなのか?」

「はい。まことにございます」

「アルデ将軍が……サナディア卿が野心を持っているだと?」

「その通りでございます。彼は何故か遠く離れたヘリオン平原から竜騎兵のみで取って返し、貴族諸侯を糾合するとシルフィーナ様を差し置いて総大将となりオゥル軍を討ち破りました。後の論功行賞も彼の主導で行われたのです」

「何としたことだ……」


 既にホーネットの頭からホールでのやり取りは消え失せている。

 スワンチカの言うことも事実と言えばそうなのだが、物は言い様である。


「(優しい姉上のことだ。きっと言い出せずにいたのだ……おのれッ)」


 ホーネットは自分が熱を帯びていくのが分かった。

 若さと大公家としての自負が彼を激情へといざなったのだ。


「近々、ジィーダバ伯爵はアウレアに参りますので、その時にでもお会いできればと申しております」

「分かった。詳しく聞かせてもらおうか。伯爵にはよろしく伝えてくれ」

「はい。承知致しました」


 言うだけ言って思考の海に沈み込んだホーネットを見て、スワンチカは頭を下げると、部屋から退出した。


 頭の中を様々な考えが過る中、ホーネットは無意識の内にボソリと呟いた。


「このまま大公家を乗っ取られてたまるかッ……」

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