第24話 アウレア平原の戦い・緒戦
■中央ゴレムス暦1582年6月28日 8時
アウレア平原
ついにドーガ率いる竜騎兵五○○が会敵した。
場所はアウレア平原。
今、緑に萌える平原が血塗られた大地へと変貌を遂げようとしていた。
敵はバルト王国軍三○○○、オゥル伯爵軍一○○○、ヨハネス(ネフェリタス)軍一○○○である。北をオゥル軍が、北東をヨハネス軍が、西をバルト王国軍がドーガ隊を包囲するように布陣している。
如何に強力な竜騎兵とは言え、圧倒的な戦力差である。
それでも先遣隊のドーガには余裕があった。
おっさんがヘリオス平原での戦いで見せた走竜による騎兵突撃に可能性を感じたからである。あの時は【戦法】を使った訳ではないが。
従来、走竜はアドなどと同じく、集団での突撃には向かず弓による一撃離脱戦法が主流であった。しかし、アルデ将軍の用兵にドーガは活路を見い出していたのだ。
「やはり改めて見ると多いな……」
単純に兵士の数だけで見ても五○○と五○○○である。
大地を埋め尽くすほどの数、見渡す限り敵、敵、敵だ。
「こんな状況で戦えと言う閣下の性根を疑うぜ」
しかし言葉とは裏腹にドーガの顔は笑っていた。
状況が状況にもかかわらず何故かわくわくしてくるのだ。
まさか自分が戦闘民族だったのかと言う思いに駆られつつ、ドーガは自分に言い聞かせるように呟いた。
「緒戦を勝利で飾らないと後から来るガイナスが調子に乗るからな」
敵軍が前進を開始した。
ドーガ隊を包み込むような形のままで進軍してくる。
相手としては単純に包囲殲滅で片が付くと考えているはずである。
ならばその考えなど突き崩すのみ。
「全員騎乗しろッ! 目標は9時の方向のバルト王国軍だッ! 西から回り込んで敵右翼に突撃をかけるぞッ!」
敵軍の動きがとても緩慢に見える。
こちらは少ないとは言え走竜である。
その速度は段違い、いや桁違いだ。
ドーガの命令と共に整然と並んだ竜騎兵が統率の取れた動きで、バルト王国軍右翼へと回り込む。
「敵は俺たちが突撃してくるとは考えていないッ! 一気にいくぞッ!」
敵との距離がどんどんと縮まっていく。
前列の弓兵が矢を番えてこちらを狙っているのが遠目にも見て取れる。
距離が200mほどまでに近づいた時、一斉に矢が放たれた。
このまま進めば数十m先で矢が雨霰と降り注ぐだろう。
「やはりバルトの弓は射程が短いみたいだな。閣下の言った通りだ」
ドーガはくわッと目を見開くと大音声で叫んだ。
《騎兵突撃(参)》
兵士たちの体を橙色と青色の光が包み込む。
グンッと速度が上がり、先程までとは比べものにならないほどの加速がつく。
「いやっほう! 矢が俺たちを飛び越しちまったぜぇ!」
兵士たちが口々に歓喜の声を上げる。
到達地点を予測して射撃した矢は予想外の速度で走る走竜を捉えることはできなかったのである。
いよいよ敵の顔まで確認できるほどに近づいた。
次は手槍が飛んでくるが遅い。
走竜は土煙が舞い上げてひたすら疾走する。
敵兵の表情は驚愕に染まっていた。
そして激突――
「突き崩せッ!!」
初撃で敵の前線が一気に崩れる。
とは言え、アルデ将軍がしたような攻撃よりも竜騎兵の動きが悪い。
中には混乱している走竜もいるようだ。
しかし、騎乗する兵士たちが比較的軽装なのもあってアドを遥かに上回る速度で突っ込むのである。槍を突き出すだけで敵兵の体は貫かれ、その四肢を千切り飛ばされた。
「速度を殺すなッ! ひたすら前進しろッ!」
ドーガの絶叫に近い声が最早大混乱と化した戦場に木霊する。
このバルト王国兵たちはヘリオン平原で行われた竜騎兵の突撃を知らなかった。
初めて経験する戦術に恐怖で恐慌状態に陥る。
ドーガは真っ先に指揮官を見つけ出すと雑魚を文字通り蹴散らして駆けつける。
「そこの敵将ッ! いざ尋常に勝負しろッ!」
意外と熱くなる男、ドーガはそう叫ぶと単騎で突撃した。
―――
バルト王国軍を指揮する炎帝グラケーノは大いに驚愕し動揺していた。
敵騎兵が身のほども弁えずに側面から突撃して来たから、ではない。
最初は一定距離まで近づいて弓による攻撃を仕掛けてくると思っていたが、敵部隊は槍を片手に突撃してきた。
いくら竜騎兵といえど、所詮は五○○程度の寡兵である。
憂いなどない。
そう思っていた。
「敵は阿呆か? 矢の雨をお見舞いしてやれ!」
その下知に兵士たちが行動で応える。
一斉に放たれた矢は曲線を描き敵兵に突き刺さる――はずであった。
「何だと……そのまま突っ込んでくる気か!?」
驚愕したのはここからの行動が異常だったからだ。
弓による射撃ではなく直接突撃してきたかと思うと竜騎兵の速度が一気に上がったのである。
「何ッ……何だ!? 何なのだあの速度はッ!? 速過ぎるッ……」
後から投げた手槍も悉く外れている。
速度を急激に増した敵兵が自軍と激突した。
その一撃、たった一撃で前線は瓦解してしまった。
「怯むなッ! 持ち場を維持せよッ! オゥルたちが側面を突くまで耐えるのだッ!」
一応は同盟軍なのだが、他国の味方の将を呼び捨てにしている辺り、我を忘れているのだろう。
そんな鼓舞をあざ笑うかのようにバルト王国軍は喰い破られてゆく。
「そこの敵将ッ! いざ尋常に勝負しろッ!」
士気が最悪な中、敵大将と思しき兵士がグラケーノに向かって突進してくる。
「(殺るしかないッ……俺が引けば部隊は一気に崩壊するッ)」
グラケーノに選択肢などなかった。
敵が優勢な状況で、わざわざ一騎討ちを挑んできてくれたのだ。
彼は腕に覚えがあった。
遅れは取らない。
そう判断して大音声で応える。
「我は炎帝グラケーノッ! その意気や良しッ! 名乗れッ!」
「俺はドーガ・バルムンクッ! 貴様を討ち取る者だッ!」
「よう言うたッ! 叩き斬ってやるから待っていろッ!」
バルト兵を蹴散らしながら一直線にグラケーノに接近してきたドーガが手にした槍を構える。
グラケーノも戦斧を大きく振りかぶって突進していく。
そしてすれ違い様――
戦斧を振り下ろすことも出来ぬまま、グラケーノの首は胴体と別れを告げていた。
首のない指揮官がそのまま戦場を走り去ってゆく。
まずはそれを目撃した兵士たちが悲鳴を上げる。
「化物だぁ! 何だあの強さは!?」
「あの炎帝だぞ!? 一撃だと!?」
「何が起きたぁぁぁぁぁ!」
「敵将、サナディア軍のドーガ・バルムンクが討ち取ったり!」
次はドーガの大音声が敵兵の間に知れ渡り伝播していく。
こうして6倍にもなるバルト王国軍はたった一度の激突で崩壊した。
オゥル軍とヨハネス軍が合流する間もなく。




