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おっさん、軍神として降臨す  作者: 波 七海


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第12話 おっさん、ようやく一息つく

 ■中央ゴレムス暦1582年6月15日 アウレア大公国 カノッサス


 先触れを出していたこともあり、おっさん率いる竜騎兵およそ五○○は無事、カノッサスに入っていた。いくら味方の軍とは言え、何の伝令もなしに現れれば謀叛を疑われてもしょうがない。戦時中ではないので、流石に大通りを走竜で闊歩する訳にもいかないらしく、兵舎や厩舎が集まる区画に近い城門から入る必要があったのだが、面倒だったのはそれくらいのものだ。

 それに走竜は一応肉食である。気性はそれほど荒い訳ではなく、調教すればちゃんと言うことを聞くのだが、一般人から見れば十分恐ろしいと思われていのだ。


「やっぱもっとちゃんとしたあぶみがないと疲れるな」


 おっさんは騎乗していた走竜を世話係の者に任せると、大きく背を仰け反らせる。腰や背中の辺りからボキボキッと言う音がして気持ち良い。


「走竜はとっておきだ。くれぐれも丁寧に世話してくれ」


 ドーガが神経を尖らせて厩舎の者に言い聞かせている。

 そんなに神経質にならなくてもと思いつつ、そういや走竜とか軍備とかまだまだ聞かなきゃならんものが多いなとおっさんは頭を悩ませていた。

 見れば、厩舎に繋がれているアドが走竜を見て震え(ビビッ)ているような気がする。あれは喰う者と喰われる者の関係である。

 おっさんは近づいて来るドーガに尋ねた。


「走竜ってどれほどいんの?」

「は……お伝えしておりませんでしたか……。我が国の走竜はアウレアの、つまりここにいる五○○のみです」


 そりゃ虎の子だわと納得したおっさんは、ついでに気になっていたことを聞いてみることにした。


「他国の軍備ってどんな感じなん?」

「ラグナリオン王国はアドの組織的な運用で敵を蹴散らしてきた国家です。後は銃ですね。スラッガー銃も効率的に戦に投入しているようです」


「ふーん。どんな銃なの?」

「弾を込めて引き金を引けば小粒の弾丸が放射状に飛び出すと言う話です」

「(散弾銃じゃねぇか。火縄銃とかマスケット銃程度かと思ってたけど、意外と進んでんのか?)ほほう。強力だねぇ……。んじゃバルト王国は?」

「あちらは山岳地帯が広がっているので山岳兵が多いですね。後は野生のアドが多くいるため、ラグナリオンと同じくアド騎兵が多いです」


「銃はないのか?」

「火縄銃が使われているようです」

「(火縄銃? 翻訳の関係か? まんまな名前だな)うちにはないの? 銃って」

「我が国は銃火器が持てないと法による縛りがありますのでございませんな」

「はぁ? 何でそんな法律作ってんだよ!?」


 おっさんはどっかの島国(日本)かよ!と毒づきながら、この国は縛りが多過ぎないかと身悶えるのであった。


「それは将軍閣下の方がお詳しいのでは?」


 ドーガはまた発作(忘れたの)かよと呆れ顔である。


「ああ……アレか。敗戦でか」


 おっさんが1人、遠い目をしていると、上質な法衣のような衣装に身を包んだ老人がやってきたアド車から降りてきた。カノッサスの家宰、ジェイガンである。


「これはアルデ将軍閣下。わざわざカノッサスにおで頂けるとは光栄でございます。部屋をご用意しておりますのでごゆるりとお休みください」

「それは助かります。兵士たちも労って頂けると嬉しいのですが……」

「もちろん承知しております。空いている兵舎をご用意致しましたのでそちらをお使いくだされ」

「おぉ、ありがとうございます」


 おっさんは出来る爺ちゃんだなと思いつつ招かれるがままにアド車に乗り込んだ。

 当然のように、ドーガとガイナスも一緒である。


「お食事の際はブリンガーも同席させて頂きます故、ヘリオン平原での状況など是非お聞きしたいところですな」

「あーそりゃ気になりますよね? では後でお話しますね」


 そんなことを話しながらも、おっさんの興味は窓の外へと移っていたのであった。




 ―――




 ■中央ゴレムス暦1582年6月19日 鬼哭関きこくかん


 ネスタト領主、オゥル伯爵の前には鬼哭関きこくかんの守将ラムダーク・ド・テインが縛られていた。傍にはバルト王国軍の炎帝グラケーノが腕を組んで、囚われの身となったテイン侯爵を見下ろしている。


「小癪ッ! 貴様のせいで5日も無駄にしてしまいましたよッ!」

「まさかバルトに通じるとはな。この売国奴が何をほざくッ!」

「ば、ば、売国奴だとッ! 言うに事欠いて売国奴ッ!? 貴様死んだぞッ!」


 オゥル伯爵が激昂してテイン侯爵を蹴りつける。

 手足を荒縄で縛られており、抵抗の仕様がない。せいぜいが憎悪の眼差しを彼に向ける程度である。


「オゥル殿、すぐに出発すべきだ。いつまで無駄なことをしているのか?」

「ぐ……しかし……ッ! この若造がッ……」

「本来なら1日で落とすべきところを5日だぞ? いくらここが鬼哭関きこくかんとは言え、奇襲の上、挟み撃ちにしておいて5日だ。時間が掛かり過ぎているのが分からんのか? ここから時間との勝負だと言うのが理解できん訳でもあるまい」

「うぬぅぅぅぅぅ」


 オゥル伯爵は苦虫を噛み潰したような表情をしながらも押し黙った。

 グラケーノ将軍の言葉がぐうの音も出ないほどの正論だったからだ。


「テイン侯爵、貴方にはネスタトできっちり教育してやる。震えて待っていろッ!」


 オゥル伯爵は少し冷静になったものの、そう怒鳴りつけると、先に出て行ったグラケーノ将軍を追って地下牢から走り去った。


「くそッ……。鬼哭関きこくかんを失うとは……このままではアウレアは滅ぶぞ」


 結局、内から攻められたことで士気が落ちた上に、オゥル伯爵率いるネスタト軍が思いの外、精強だったため抵抗虚しく鬼哭関きこくかんは陥落したのである。

 鬼哭関きこくかんは外――バルト王国側からは鉄壁の守りを見せても、内からの防御は貧弱だったのである。


 敗軍の将であるムダーク・ド・テイン侯爵はネスタトに移送され、配下の生存者およそ一二六名は地下牢に入れられ、碌な手当てもされずに放置されることとなる。




 ―――




 ■中央ゴレムス暦1582年6月19日 17時 首都アウレア 大公堂


 大きなテーブルが据え置かれた部屋にはアウレア大公国の大公族が集まっていた。

 食事をするために他ならない。

 誕生席には大公ホラリフェオが、その右向かいには大公妃が、そして順に大公位継承順の高い者から着席している。


 本来ならば8人がこの場にいるはずなのだが、様々な事情でアウレアにいない者もいる。第2公子のネフェリタスはヨハネス子爵家の養子として領都で暮らしており、第3公子のホーネットはこのディッサニア大陸から南へ行った場所にあるテラストラリスへ通商代表団の一員として訪問中である。

 ちなみに領都と言ってもネスタトやカノッサスほどの都市ではない。わずかな領土の中心となる中小都市と村が幾つか存在する程度だ。


 この場にいるのは大公を除けば、大公妃のフランソア、第1公太子ロスタト、第1公女シルフィーナ、第2公女メッサーラ、第3公女ロッシーナだけである。

 メッサーラとロッシーナはまだまだ青い乙女である。

 メッサーラは12歳、ロッシーナは7歳であった。


「それでイアーポニアとの交渉はどうなっておる?」

「はい。火縄銃ならともかく改良型の方は輸出してもらえそうもありません」


 イアーポニアはアウレアから東へ7000kmほど行った場所にある島国である。

 現在、通商交渉中であり、武器の輸出についても依頼しているところなのだ。

 取次役としてシルフィーナと通商卿が中心となり、外務卿、更には軍務卿の文官まで出張ってきているのであった。


「そうか。何としても強力な火器を入手せねばならん」

「父上、そのようなものがなくとも我らが竜騎兵で蹴散らしてやれば良いのではありませんか?」

「ロスタト、最早、白兵戦のみの時代は終わったのだ」

「しかしあのようなもの、撃たれる前に攻撃すれば良いのです」


 その言葉にホラリフェオは小さく溜め息を漏らす。

 ロスタトは21歳と若く、戦争経験もない。そして銃火器保有禁止法の影響で銃の恐ろしさを正確に理解していなかった。

 その中、不安そうにシルフィーナが口を開く。


「父上、禁止法の撤廃は何とかなりそうなのでしょうか?」

「いや……根回しは難航しておる……」


 アウレア大公国は大公を頂点とした議会民主国家である。

 大公、貴族院、民院の3つからなる議会で国家運営がなされており、決して独裁政治ではない。どこか(日本)の憲法改正よりはよっぽど楽なはずなのだが、その進捗は悪い。ちなみに銃火器保有禁止法はあくまで国内法なので、戦で使っても問題はないのだが、他国から押し付けられた法であるにもかかわらず、法律に幻想を持つ国内からの反発は必至であった。


「ヘリオン平原の戦いはどうなっておるかのう……」

「父上、アルデ将軍ならきっとうまくやってくれますわ」

「そうですわ。将軍かっかならだいじょうぶですわ」

「シルフィーナ、メッサーラ、お主たちの言う通りだな。伝令を待とう」


 ホラリフェオの顔は緩みきっていた。流石に娘たちに甘い、どこにでもいるただの父親(親バカ)であるようだ。


「貴方、血なまぐさい戦いの話などよいではありませんか……。食事時くらい別の話をしましょう。そうそう、今日、ロッシーナが――」


 楽しそうに話し始める大公妃フランソアの言葉を聞きながらホラリフェオは考えていた。焦ることはない。何とか粘り強く貴族や民に訴えていくしかないのだ、と。


 しかし彼は気付かない。自身も国民たちと同様に危機感が薄れていることに。

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