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12/12

 さてその場からピンク頭が消えたことに、皆ぽかーんとしていた。

 特に殿下はその場に膝から崩れ落ち、「俺は一体何をしていたんだあ!」と叫んだ。


「この一年、俺は、何で、アリエッタを邪険に扱っていたんだ? 何故だ? なあ、お前等判るか?」

「……え、いえ、……何でしょう……」

「俺もサルモールを……」

「トレモロ、ごめん……」


 口々に、目が覚めた様にそれぞれの婚約者に対し謝罪の言葉を口にする。

 その婚約者達も今一つぼんやりとして、何故自分達が口論をしていたのか判らない様子だ。


「シェレス、ラヴィリス、大丈夫?」

「……え、今、一体何が起こったの?」


 なるほど、同じことが昔のサフィンの消滅にも起こったということなのか。


「ピンク頭は消えたし、これでとりあえず解決ってことかしら」

「ピンク頭? ピンクの髪なんてあり得ないでしょ」


 シェリスの言葉に、私は目を見張る。


「どうしたのユグレナ怖い顔」


 やられた。

 あのトリックスターめ、私だけに記憶を残して、後の全ての証拠を跡形もなく消していったな。

 嗚呼! それじゃもしかして、自宅にある資料も、今までフィールドワークをしてきた努力も全部消えたということか!

 二十年がとこの苦労が……

 だが仕方がない。

 通常は仮説しか出ない歴史のはずなのに、「答え」が出てしまったのだ。


「母上、ともかく何か…… 何かの危険は去った、ということでいいんですかね」

「あ、何とかそれは覚えているのね」

「はい。まあさすがに俺は母上の息子ですし元々の情報量が多かったし」


 私は少しでも覚えている同志が居る気がしてほっとした。



 さてそれからだが。

 婚約者同士は何とか夢を見ていた様だごめん、ということでそれぞれが何とか元に戻ったらしい。

 だがもしあそこでアリエッタ嬢が引き延ばしをしてくれなかったら、あのまま婚約破棄になって、殿下はまた廃太子となるおそれはあった訳だ。

 彼等には「何かに化かされていた感」があったことを肝に銘じてそれぞれの婚約者と仲良くやって欲しいというものだ。


 なおこの話を夫にしたら。


「いいじゃないか。そうしたら、今度はまた新たな何かが出てくる可能性はあるし、君が前々から疑問に感じていた学校の存在の奇妙さとか、そんなものがもしかしたら世界各地にあるかもしれないだろう?」

「それもそうね。ということは、とりあえず課題一つ制覇したから、次の課題に移れ、ってことでいいのかしら?」

「そう思う方が人生は楽しいよね」


 そう言って夫は笑った。

 全くだ。

 歴史であれ何であれ、別に生活に役には立たないが人生を豊かにしてくれる。

 考えてみれば、先の殿下が破棄してくれたおかげで今このひとと生きているんだわ。

 その点だけは、ピンク頭に感謝しなくてはならないのかもね。

 またいつか何処かで会うかもしれないけど、その時は「バグ」の意味を教えてもらおう。


 ……一生会わないならそれはそれでいいけど。

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