エピソード1-8
町から出て少し歩くと目的の森が見えた。俺は森の入り口にテレポーターを設置することにした。
「何してるの?」
「転移魔道具を設置してる」
「何で?」
「何でって、もしもの時逃げれるようにさ」
「あなたがそれいる?」
確かにこの世界のレベルなら要らないかもしれないが念のため。
準備を終えたので森の中へと入っていく。
森の中は薄暗くエネミーの気配も多く感じられた。しかし、数回エネミーと退治をしたが難なく撃破する。
「強いって聞いてたけどこんなもんか」
「あなたから見たらそうなんでしょうね」
リリアはエネミーの強さをきちんと把握したのか呆れ顔をしている。
しばらくすると開けた場所に出る。恐らくここが遺跡だろう。遥か昔に人が暮らしていたような形跡がある。遺跡は半壊した四角い箱と地下へと続くトンネルがあった。
(あれ?これ、見たことがあるぞ)
ふと、そう思った。しかし、何処で見たのかは思い出せなかった。
俺たちは移籍を見て回る。まずは半壊した四角い箱から。
「見たこと無い素材ね。何かの金属かしら?」
中も壊れていて特に何か有るわけではない。しかし、何か引っ掛かるのを感じていた。
(何処だ?何処で見たんだ?ゲームか?それともテレビか?)
四角い箱はどれも同じ作りをしていた。
「特になにも無いわね。レイハルト?どうしたの?」
「ん?ああ、何でもない?」
「そう?」
ここで見たことあるかも何て言ってもリリアが知っているはずはない。リリアたちが地下へと続くトンネルの方へ行ったのでレイハルトも後を追う。
地下は光源がないので松明で照らしながら進む。
「ここも外と同じような素材ね。オルガなんだかわかる?」
「我もわからん」
遺跡を進むうちにどんどん大きくなっていく。
(やっぱり見覚えがある)
しかし、何処で見たのかは思い出せない。
遺跡は細い通路からなり何本も交差していて時折四角い部屋がある。部屋にはドアがない。
まるで古代人の居住区のようだ。今でもエネミーの居住区だが。エネミーを撃破しつつ奥へ進む。
しばらくすると行き止まりに着く。ここまでめぼしいお宝は無かった。
「ここで終わり?なんか拍子抜けね」
ほとんど人が来たことの無い場所だからいろいろあると期待していたのだろう。落胆の色が大きい。
俺は壁を見つめる。やっぱり見覚えが。
「何も無いみたいだし帰りましょうか」
「ん、ああ、そうだな」
「大丈夫?ここに来てぼーっとしてることが多いけど」
「ああ、大丈夫だ」
結局思い出すことはできずに遺跡を出た。
遺跡を出るとそこは禍禍しい雰囲気に包まれていた。遺跡に入った時とは全く違っていた。
「なんだ、この感じ」
俺は鳥肌が立つのを感じた。リリアも身体を震わせている。
「どうやら強力な魔物が近くにいるようだな」
オルガが緊張したような声で答える。
周囲を確認するが特になにかが居る様子はない。ここから少し離れたところだろうか。
今のうちに離脱しようとARパネルを操作する。
「ぎゃー!」
森の中から悲鳴が聞こえた。しかも複数人だ。
俺はリリアとオルガの方を向く。二人とも頷く。どうやら全員同じ考えのようだ。
全員同時に森の中を駆け出す。
声のした方に走っていくといきなり壁が現れた。それは鱗のような模様をしていて、横に動いていた。
「な、ジャイアントスネーク!」
それは巨大な蛇だ。胴の太さだけで人の丈を越える蛇。それが目の前にいた。
「た、助けてく」
最後まで言い切る前に男性3人のうちの一人が、身体の半分をジャイアントスネークに食われる。
残りの男たちは食われた男の血で真っ赤に染まる。
「何であんたらがここに、っ!」
殺気を感じて跳び跳ねた。さっきまで自分がいた場所になにかが通りすぎる。蛇の頭だ。ジャイアントスネークはこちらに狙いをつけて襲いかかってくる。
「ちっ!」
俺はは紙一重で攻撃をかわした。すぐさま弓を構え矢を放つ。ジャイアントスネークはそれをかわすとさっきよりも更に好戦的な目をこちらに向けてくる。
(ヘイトが完全にこちらに移ったな)
俺は武器スロットを操作し武器を弓から片手剣に変える。
ジャイアントスネークが再びこちらに攻撃を仕掛ける。今度はしっぽを叩きつけてくる。それをジャストガードし反撃を叩き込む。
レイハルトの剣がジャイアントスネークのしっぽに深くえぐる。
切り裂かれたジャイアントスネークは痛みに身をよじらせる。この隙を逃すまいと追撃をお見舞いする。
俺の武器はすべてアザタシリーズと呼ばれる最高レアリティの武器だ。とある邪神をモチーフにした宇宙のような模様に禍々しいような赤い線が入っているものだ。
その片手剣がジャイアントスネークの体に刀傷を次々と作り出す。武技は一切使っていない。
ジャイアントスネークは俺には勝てないと思ったのか、男たちの方へ行った。男たちは腰が抜けてしまったようで動けないようだ。
「ちっ」
俺は男たちとジャイアントスネークの間に滑り込む。男たちに嚙みつこうとしたジャイアントスネークの攻撃をジャストガードし、反撃を叩き込む。ジャイアントスネークの牙が折れ、ひるんだようだ。
とどめにと弓に持ち変え、ジャイアントスネークの頭に弓の武技「ボマーシェイプ」をレベル10で起動し放つ。
矢は見事にジャイアントスネークの頭に直撃し木端微塵に破壊する。頭を失ったジャイアントスネークの胴体は力を失い地面に横たわった。
「終わった?」
リリアの問いかけに頷く。頭を失っても動けるのはゴキブリぐらいだろう。
俺が男たちの方を向くと男たちはビクッと身体を震わせた。
ジャイアントスネークがどのくらいの位置付けにある魔物か知らないが、それなりの強さの魔物を無傷で倒してしまう人間。
向こうには俺のことが化け物のように見えているのだろう。
俺はリリアの方に向き、ジャイアントスネークに食われた男を見る。どうやらこのままでいいそうだ。
俺は男たちの近くに行く。男たちはガタガタと震え始める。
「おい、お仲間の死体、どうする?」
俺は男たちに聞く。持って帰りたいのであれば一緒に帰ってもいい。
どうやらたまたま酒場で会っただけで仲間ではないようだ。
俺は少し悩んだがリリアたちを近くに呼びテレポーターを設置する。転送。
「な!転移魔法!?」
男の1人が驚きの声をあげた。あのままこいつらを置いてきても良かったがそれでエネミーに食われでもしたら助け損だからな。森の入り口まで連れてきた。
俺たちは黙って町の方に歩いていった。それを男たちはポカーンと見つめていた。