エピソード1-7
町の近くまで来て立ち止まっていた。なぜ町に入らないかというと、
「オルガ、どうしよう」
フェンリルことオルガの存在。
パッと見ただの狼にも見えなくはないが、見る人が見ればただの狼とは違うことに気が付くだろう。
「我は町の外にいようか?」
「そんな、オルガだけ外に出しておくなんて」
「しかし、それでは町に入れなくなってしまう」
俺は何かないかとアイテムストレージを見てみる。しかし透明化や変身できるアイテムなんてものはない。
「レイハルト、魔法でどうにかならない?」
「悪いけどそういった魔法は覚えてないんだよな、攻撃系ばっかで」
俺の回答にしゅんとなってしまうリリア。
「オルガ、自分の姿変えたりは」
「できたらすでにやっている」
ですよねー。さてどうしよう。
「もういっそ一緒に入れないか試してみない?もしかしたらペットで通るかも」
「さすがに無理じゃないか?これだけ大きな町の門番やってる人だ。たぶんばれるぞ」
「やってみなきゃ分からないじゃない」
「わかってるのか?ダメだったら下手すると捕まるんだぞ?」
「う、それは」
どうやらその可能性が頭から抜けていたようだ。
「んー、あ」
俺は来ていたコートを脱ぐ。そしてオルガに差し出す。
「なんだ?どういうことだ?」
「これを着てみろ」
オルガは言われた通りコートの袖に前足を通す。身体が大きいだけにコートがかなり引っ張られる。
「少し小さいな」
俺はARパネルを操作し大きめのコートを選択して渡す。
今度は少しゆったりしている。しかし、色が茶色のため、
「似合わないな」
全く似合っていない。
「でもこれならいけるかも」
確かに見た目は狼というか犬のようだ。怒られそうだけど。
「それじゃあ行きましょう」
俺たちは町のほうへ歩いていった
町にはすんなり入れた。
門番の兵士もコートを着たオルガにかなり驚いていて、質問しているときもオルガのほうをちらちら見ていてグダグダだった。
ただ、旅人だというと、最近この国(オルトレア王国というらしい)の王女が行方不明になったとのこと。
特徴は美しい銀髪だということを聞かされ、見かけたら知らせてほしいとのことだ。絶対リリアだ。
「ありがとう、オルガのお陰で無事は入れた」
「見世物にされたようでいい気はせんな」
もしオルガに気を取られていなかったらリリアのハットを取れと言われていたはずだ。
「さてこれからどうするかな」
町に入ったはいいがまず何をしよう。
「遺跡の情報がほしいわね。酒場とか?」
ファンタジーの定番、酒場。
「酒場か、そうだな。そうする」
そこで俺ははとんでもない事実に気が付く。この世界のお金を持っていない。
「やべー、金ねーぞ」
「はあ?」
呆れた顔のリリア
「あなたどうやって暮らしてたの?まさかお金の使わない生活をしてたわけじゃないわよね?」
いや、お金はありますよ?電子通貨みたいなものは。まあ、言っても通じないと思うから言わないけど。
「いや、前の町で買えるだけ買って有り金使い果たしたから」
「そのあとはどうするつもりだったの?」
「途中で手に入れたもの売ればなんとかなるかなと」
「で?売れそうなものはある?」
「薬草系が少々」
「そういえばあなたの魔道具、はまずいわね」
魔道具を簡単に作れる人間がいると分かれば国は放っておかないだろう。
就職口は見つかるかもしれないがリリアが。
「私は少しあるからそれで何とかしましょう」
リリアはあきれ顔のまま前を歩いていく。
「ひとまず宿に行きましょう。さすがに疲れたわ」
そうして、一軒の宿屋を見つける。
2部屋借りようと思ったがリリアに「お金」といわれ二人部屋を借りた。今さらだがお姫様と同室ってまずくないか?
「宿の確保は大丈夫と。先に湯あみしてきていいかしら?」
「ああ、構わないよ」
この宿屋は風呂付き。おそらくものすごい小さいだろうが。
しかしそうなるとこの宿大分高いんじゃないか?
この世界の風呂事情は知らないが。中世ヨーロッパって風呂は原則銭湯だった気がするんだが。
「レイハルト、大丈夫よね?」
考え事していた俺はリリアの言葉で現実に戻ってくる。
何が大丈夫なのか最初は分からなかったが、すぐに思い至った。
「わ、分かってる。もうあんなことはしない」
湖でのことを思い出し、顔を赤くしながら首を振る。
「そう、オルガ。レイハルトが覗きに来ないように見張ってて頂戴」
「なんだ貴様。そんなことしたのか」
「あれは事故だってば!」
そんなこんなで入浴を済ませ、そのまま眠りについた。
俺はこの世界に来ての初めてのベッドーしかもかなり柔らかいーに身体を預ける。やっと柔らかい布団で寝れる。
翌朝、酒場へ向かう途中薬屋を見つけたので薬草が売れないか聞いてみた。
「おや、あんたら旅人かい?それにしてはなかなかいい目をしてるね。質のいい奴が結構あるじゃないか」
薬屋のおばあさんが持ってきた薬草を見ながらそういった。
「これなら全部で金貨1枚と銀貨2枚ってとこだな」
この世界の物価は分からないが金貨なら安いってことはないだろうとそれでもらっておく。
「何とかなんじゃね?」
「そんな気がしてきたわ」
リリアとしても意外と高く売れたのだろう。少し驚いている。
酒場に着いて中に入ってみると、がたいのいい男が何人もいた。
(すげーイメージ通り)
ひとまず、カウンターまで行き、マスターのところまで行く。
「マスター、ここら辺で遺跡の話ってない?」
「遺跡?嬢ちゃんたちトレジャーハンターかい?」
「そんなところよ」
「まあ、あるにはあるな。行くのはおすすめしねーけど」
「どうして?」
「そこの遺跡の魔物がかなり強いからさ」
リリアとマスターが話している間、男たちの視線はリリアに向けられていた。なんとも下卑た視線である。男の俺でも気分が悪くなるような視線だ。
「それでもいいわ。場所教えて」
リリアは地図を取り出す。
「確かこのあたりだ。今じゃ誰も近づかねーからうる覚えだがな」
「こんな大きな町の近くの遺跡なのに魔獣退治とかはしないんですか」
俺が疑問に思い、口を挟む。遺跡をうまく使えば観光名所にもできそうなんだが。
「遺跡は森の深いところにある。その間も魔物が出るし、観光には向かねーから退治しようとも思わねーのさ」
遺跡とその周辺の情報をマスターからもらったので、リリアは銀貨を一枚カウンターにおいて酒場を出ていこうとする。
するとリリアの前に屈強そうな男が数人立ちふさがる。
「嬢ちゃん、遺跡に行きたいんだって?俺たちが案内してやろうか」
「そうそう、結構魔物が出て危ないからさ」
男たちの視線はリリアの胸と尻に注がれている。親切心からではないのは明らかだ。
「いえ、結構よ」
リリアが男たちをよけて通ろうとすると男の一人がリリアの腕をつかんだ。
「そんなこと言わずにさー」
「離しなさい!」
リリアが思いっきり腕を振りほどく。それでもなおつかもうとしてくる。
「うちの連れが嫌がってるのでやめてもらえますか?」
「ああん?何だてめー」
割って入った俺のほうに悪意の籠った視線を向ける。
「あんた、嬢ちゃんの連れか?弱そうな見た目してんなー」
見た目で判断するとは、こいつ雑魚中の雑魚か。
「てめーみてーなガキはお呼びじゃないんだよ、引っ込んでな!」
男が殴りかかってくるが、それを片手で受けとめる。
「んな!」
受け止められたのがよほど意外だったのか、目を丸くしている男たち。滑稽。
殴った本人は拳を引こうとしているが全く動かない。
「なんだこの力」
俺はそのまま男を付き飛ばす。男はテーブルを巻き込んですっ転ぶ。
「てめー、何してくれてんだ」
わーお、ベタなセリフ。
男たちが臨戦態勢に入ろうとしたところで待ったがかかる。
「おめーらその辺にしとけ」
床にナイフが刺さる。
飛んできた方向を見てみるとマスターが何かを投げた後のような恰好で立っていた。
「おめーらうちの店壊す気か?」
怒気を孕んだマスターの声に一同が姿勢を正す。
「いえ、まさかマスターの店を壊すだなんて」
「そうか、それならいいんだ」
男どもは恨めしそうな顔をしながら離れていった。
「すまんな、うちの客が」
ナイフを回収しに来たマスターが声をかけた。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「何、たいしたことない。あんた、なかなか強いな」
マスターが俺のほうを見た。
「あんたならあの遺跡も大丈夫だろう」
そういって送り出してくれた。