エピソード1-6
「ねーな」
「無いわね」
レイハルトたちは遺跡を探して森を歩き回っていた。しかし、この森に来てから遺跡のようなものは一つも見ていない。
「やっぱこの森には無いんじゃねーか?」
「そうかもしれないわね」
「そもそもここって遺跡の噂とかあったのか」
なぜここを選んだのか聞こうとリリアのほうを向くとリリアも首を傾げていた。
「さあ、聞いたことないわね」
「俺以上に見切り発車かよ」
そりゃ見つからんわとため息をつく。
「そろそろ場所変えるか?」
「そうねそろそろ」
二人が話しながら歩いていると森が開け、大きな湖に出た。
「ほう、こんなところに湖があったのか」
湖面に太陽が反射し、キラキラ輝いている。水も透き通るようにきれいだ。そういえば最初に見た池もかなりきれいだったな。
「魚いるかしら?」
魚が一匹跳ねる。
「いるな」
「いるわね」
レイハルトは弓を構える。魚が跳ねると同時に矢を放つ。矢は見事に魚に命中し、矢ごと湖の中へ。
「「……」」
ポカンとしている俺を呆れた表情で見ているリリア。
「なにやってるのよ」
「いやー、魚仕留められないかなと思って」
「仕留めはしたわね」
「ははは」
気を取り直して次は矢に紐を括り付ける。リリアが持っていたのを借りたものだ。もう一度構え直し魚が飛び跳ねた時に放つ。
またも見事に命中。今度はつけていた紐を手繰り寄せて魚を回収する。これを何回か繰り返し、食料の確保は完了。
「ねえ、少し身体流してもいいかしら」
リリアが控えめに聞いてきた。トレジャーハンターを自称しているとはいえ女の子。身体の汚れが気になるのだろう。
「了解。俺はそっちで魔物が来ないか見張ってるよ」
俺は来た方向を指さしてそういった。
「お願いね」
リリアは湖のほうに歩いていき振り返って
「覗かないでね?」
それはフリか?フリなんですか?
少し、いやかなりドキドキしながら木のそばで腰を下ろす。ラノベとかだとこの後ヒロインの悲鳴が聞こえて、
「きゃあ!」
ほんとに聞こえた!
一瞬迷ったが悲鳴の聞こえた方へ走っていく。目の前にはいつぞやの狼型が一体。
矢で一撃で仕留める。怪我はないかとリリアのほうを振り向いて固まる。
そこにあったのは流れるような銀髪、程よく膨らんだ胸、引き締まった身体、細くすらっとした足。
生まれたままの姿のリリアが湖の上で尻餅を付いた状態でいた。そのあまりの美しさと、女性への免疫の無さが相まって、完全に固まってしまっていた。
「きゃああああ!」
思いっきり水をぶっかけられた。
「ほんとにごめん」
何度目かわからない謝罪をしている俺。リリアはあれから口をきいてくれない。顔を真っ赤にして下を向いたまま歩いている。
「ほんとにご、んー!」
いきなりリリアに口を押さえられて座らされる。リリアは口に指を当て静かにと言っている。
リリアが見ている方に目を向けてみると、鎧を付けた男が数人見えた。
(兵士か?)
それはもう、ファンタジーの兵士そのままの姿。しかし、リリアはなぜ隠れた?
「もうここまで」
(え?)
何?この子追われてるの?
「ひとまずオルガのところまで戻るわよ」
リリアの有無を言わさぬ雰囲気についうなずいてしまった。
「オルガ!奴らもう近くまで来ているみたい!」
「もうか、早いな」
リリアが洞穴に入ると同時にオルガに呼びかけた。
「レイハルト、ここの物、どのくらい持てる?」
「このくらいなら全部いけるな」
オルガの問いに答えながら洞穴にあるものをアイテムストレージにしまう。課金で容量増やしといてよかった。
「見つからないように逃げるわよ」
リリアに続いて急いで、でも音を立てないように移動する。その間に兵士たちの声が聞こえてくる。
「姫―!姫―!」
「どこですか姫!」
「フィルリリア姫―!」
ん、今なんて?
「はあ、はあ、ここまで来れば大丈夫でしょ」
俺達は森の中を走っていた。兵士たちの声が完全に聞こえなくなってからさらに少し走って辺りで足を止めた。
「ふう」
俺は木の下で腰を下ろした。ここまで走ったのはこの世界に来てから初めてだ。
元の世界の身体だったらここまで持たなかっただろう。さすがレベルMaxの肉体、身体の作りが違う。
「はあ、はあ、はあ」
リリアはまだ息が整っていないようだ。あれだけ走ったんだ、当然と言えば当然だろう。
俺は辺りに目を光らせる。特に人影何かは見えない。
「大丈夫だ。誰もいない」
リリアも落ち着いてきて腰を下ろす。
「なあ、リリア」
「な、なにかしら?」
俺の呼びかけに驚いたような、怯えたような表情をする。
これから聞かれるであろうことを予測したのだろう、沈んだ表情をしている。
そりゃ身バレは怖いよな。元の世界でも身バレしたせいで破滅したやつを知っている。
「これからどうする?」
「え?えっと、そうね」
予想外の言葉を聞いて少し驚いてから地図を取り出す。
「今は多分ここらへんだと思うから、ひとまず森を抜けましょう。ここに大きな町がある、から」
徐々に声が小さくなっていくリリア。待ちに行けばおそらく自分の正体がばれてしまうと思ったんだろう。
リリアの一番特徴的なものは、
(髪か)
リリアの綺麗な銀髪。おそらく王女の特徴は銀髪美少女で通っているのだろう。
俺はARパネルを操作し、コスチュームのところからつばが広めのハットを選択して被る。
「リリア。はいこれ」
取り出したハットをリリアに渡す。
リリアは最初ポカンとしていたが、すぐに意図を察してハットの中に髪を隠して被る。
「さてそれじゃあ、その街に行きますか」
俺が腰を上げて伸びをする。リリアも立ち上がって土を払う。
「そうね、で、でも」
「ん?」
「聞かないの?」
「何を?」
「何って、それは」
しどろもどろになるリリア。兵士から逃げる理由。自分の正体。聞くことはいくらでもある。
しかし、
「言いたくないなら言わなきゃいい」
プライベートに踏み込みすぎるのは危険だ。そのせいで関係が悪化することもある。
言いたくないことには大抵理由があるものだ。それを無理に聞き出そうとはしない。昔それで失敗したからな。
それに、こっちの秘密も話さなきゃいけなくなるかもしれないしな。
「話したくなったら話してくれたらいいから」
「そ、そう」
リリアは不思議そうな顔をしながらうなずいたそして、町のある方へ歩き始めた。