エピソード1-5
「さて」
どうしたものか。ARパネルを見えるようにする。ようは外付けのマイクロチップを作ること。
「マイクロチップなんてクラフト一覧にないしなー」
簡易クラフトから既存のアイテムの一覧を見てみたがそれっぽいものは見つからない。
そもそもゲームでは全員が最初からマイクロチップを埋め込まれているためそんなもの必要ないのだ。
「しゃーねー、いろいろ試してみるか」
結果から言おう。何とか出来た。しかし
「あとこんだけかー。何とか調達しないと」
作り始めて3日、ARパネルを見えるようにするアイテム(デバイス)は作ることができた。しかしその過程でクラフト素材の8割を消費してしまった。
「とはいえ、これでゲーム内になかったものも作れることが証明されたわけだ」
完成したARパネルを見えるようにするデバイス(耳に引っ掛けるようなもの)とその過程でできたガラクタ達を見ながらそうつぶやいた。
「さて、これを届けに行くか」
リリアたちのもとへ行こうと立ち上がりふと「これ、プレゼントじゃね?」と思ってしまった。そう考えた途端恥ずかしさが込み上げてきた。
(うお、これ、俺が女の子に渡す初めてのプレゼントじゃん。ど、どう渡そう)
リアルではあまり女子と話していなかった俺。ここにきておどおどしだした。
(ど、どうやって渡そう。普通でいいのか?てか普通ってなんだ)
ない頭でいろいろ考え、納得がいくセリフができたところでリリアの所へ転送する。
テレポーターから現れた俺を見て、リリアが輝くような笑顔でこちらにかけてきた。
「レイハルト、ついにできたのね!」
その笑顔を見た途端、さっきまで考えていたことが吹き飛んだ。
「ああ、これだ」
そういってデバイスを差し出す。
(ってちがーう!もっとこう、かっこいいセリフ考えてきたのにー!)
俺が心の中で叫んでいる間にリリアはデバイスを受け取って眺めている。
「ねえこれどうやって使うの?」
もっともな疑問だ。おそらくARパネルなど使ったことがないはずだから。
俺はリリアに使い方を説明して自分以外でもARパネルが使えることを確認した。
「それが転移の魔道具のカギみたいなものだから魔道具の上でパネルを出してみてくれるか」
リリアは指示通りテレポーターの上に行きARパネルを出す。するとリリアの目の前にも転送場所が映し出される。
「えっとこれ、なんて書いてあるの?」
忘れていた。言葉が通じるからうっかりしていた。
言葉が通じるのもおそらくマイクロチップの翻訳機能のお陰だ。俺が作ったものにはたぶんそれは含まれていなかったのだろう。
ていうか話してる言葉も翻訳されてるってPICTの技術すげえな。
「ちょっとそれ貸して」
リリアからデバイスを預かるとクラフトキットを取り出す。そこにアイテムと腕の端末を板の上に置く。
前からあった特殊能力のコピー。ゲームでは武器しかできなかったけどここならば。
デバイスに端末(マイクロチップと連動してるから多分全機能ある)のデータを丸ごとコピーする。これで大丈夫なはず。
「これで文字も読めるようになったはず」
リリアにアイテムを返し、もう一度試させる。
「おお、読める」
リリアが感嘆の声を上げる。
「ありがとう!レイハルト」
「いや、たいしたことじゃない」
リリアの輝くような笑顔に顔をそむけながらそういった。
「おかえりレイハルト、どうだった?」
「ほいこれ」
俺は今日採れた果物や動物、野草をアイテムストレージから出す。
「これとこれ、毒あるやつね。」
採ってきた野草の中からいくつかをはじいていく。
「これ、前も採ってきてたわよ。いくら治癒魔法が使えるからってまた毒に苦しむのはいやよ」
「あ、ああ。気をつけるよ」
リリアが半眼になりながら放り投げる野草を見ながら俺はばつの悪そうな顔をした。
リリアに怒られるのは何度目だろう。一緒に暮らし始めてからこんなことばっかだ。
なぜ一緒に暮らすようになったかというと、数日前のオルガの言葉がきっかけである。
「レイハルト、お前一人なんだよな」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
オルガが何を言いたいのか分からず首を傾げる。
「それなら、我らと一緒に暮らさないか?」
「はい?」
「それいいわね!」
リリアも乗っかってくる。
「ここはそれなりに強い魔物も少なからずいる。貴様とリリアが出会ったときはフォレスレオンがいたわけだしな」
言いたいことは分かった。分かったが、
「ほとんど一緒に行動しているんだ、常に一緒にいた方が安全だろう」
「それはそうだが、いや、でも」
俺はちらちらとリリアのほうを見る。こんなサバイバル状態とはいえ女の子とずっと一緒にいるなんて。
「大丈夫?顔赤いけど」
そのことを考え顔が赤くなると、リリアが心配そうにのぞき込んでくる。って、近い近い!
「その、リリアはいいのか?」
一縷の望みを託してリリアに振る。いや待てよ。さっき確か。
「いい考えだと思うわ。一緒にいましょ」
ですよねー。さっきも「いいわね」って言ってたもんね。年頃の男女が一つ屋根の下(洞穴だけど)、しかも相手は美少女、大丈夫か俺?
「そうなると、どっちのにするかよね」
「どちらでも構わんだろ、どうせ転移できる」
なんかどんどん話進んでる。でもまあ、そのほうが安全なのは事実か。
「こっちのほうが良くないか?俺のほうは一人で暮らすの前提で小さいからな」
「そうね、それじゃあ、こっちにしましょう」
「了解、ひとまずこっちに俺の荷物持ってくるわ」
そして今に至る。
「そ、そっちはどうだったんだ?」
「そっちって?」
少し無理矢理な話題転換。だがリリアは少しうろたえた様だった。
「遺跡だよ遺跡。リリアはトレジャーハンターなんだろ?この辺にあったか」
「えーと、な、無かったわね」
なぜうろたえる。探してすらいなかったのだろうか。それなら、
「じゃあそろそろ、移動しようか」
「え?」
「ここら辺に遺跡はなさそうなんだろ?だったら場所変えて探すものじゃないのか?」
「ま、まあそうなんだけど、も、もうちょっとここにいましょ。まだ見つかってないだけかもしれないし」
怪しい。一体何を隠しているんだ?まあこっちも隠し事あるから人の事言えんが。
「まあ、リリアがそういうなら。俺はこの辺の地図持ってないし」
リリアは安堵したと思ったら驚いた様子で勢いよく顔を上げた。
「え?地図持ってないの?」
「ああ、そうだが」
「じゃあ、どうやってここまで?まさか行き当たりばったりで来たというの?」
まずったか。確かに旅人で地図がないのは不自然だな。さてどう答えたものか。
「最初は地図持ってたんだけど途中で落としてしまってな、今は持ってないんだ」
ちょっと苦しかったか?でも地図持ってない理由なんてこれぐらいしか。
「そうなの?落としたのってこの森で?」
「た、多分」
く、苦しい。
「そう」
リリアが見つめてくる。嘘をついている背徳感と美少女に見つめられる気恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
「でもまあ、あなたなら地図無しで旅してきたって言っても信じられそうだけど」
「そ、そうか?」
「ええ、あなたほど強い人を私は知らないし、魔道具をポンポン作れる人だもの。地図なんて要らないって言われても納得できるわ」
「そ、そうか」
オルガのほうを向くとオルガもリリアと同意見らしい。まじか。
「とりあえず地図は私たちが持ってるから、大丈夫よ」
これでさらに別行動する理由がなくなったのであった。