エピソード1-28
ここからは第1稿と展開が変わる場面が多くあります。
慌ただしい足音で目が覚めた。
外に出ると騎士や兵士、メイドまでもが廊下を走り回っていた。
「レイハルト!」
リリアがこちらに駆けてくる。
「何かあったのか?」
「ドラゴンを討伐に行っていた人たちが帰ってきたの」
「ドラゴン?」
ゲームにも龍種はいたがあれは火山にいたものだ。この近くに火山があるのだろうか。
「ええ、数年前から山に住み着いたドラゴンが行商人とかを襲っていて、何度か討伐隊を組織はしていたんだけど」
「その人たちが帰ってきたと」
とはいえ周りを見ると祝勝ムードではない。
「ええ、失敗してね」
「ということは怪我人が多く出たのか」
「死人もね」
息をのむ。討伐に失敗したのだ。怪我だけで済んでいるはずがない。
この世界はゲームではない。自分だって盗賊を殺したじゃないか。
あの時の感覚が蘇りそうになったので頭を振って追い出す。
「レイハルト、大丈夫?」
リリアが心配そうにのぞき込んでくる。俺は大丈夫だと返し、歩き始める。
「それで、レイハルトにも怪我人の治療を手伝ってほしいの」
「治療?」
別に俺は医者ではないのだが。
「最初に会ったときに使ってくれた治癒魔法を使ってほしいの」
ケアラとキュアラか。
「分かった、やってみる」
「ただ、あなたはもしかしたら耐性が無いかもしれないから、覚悟しておいて」
「覚悟?」
彼女の言っていることがいまいち理解できなかったが、その理由をすぐに知ることになる。
「こ、これは」
絶句した。部屋に並べられた人たち。片腕や片足を失った人。苦痛に呻く声が部屋を埋め尽くす。
魔術師の人たちだろうか、怪我人の隣で杖を構えている。
「レイハルト、お願い」
「あ、ああ」
放心している場合じゃない。俺もやれることをやらねば。
ケアラもキュアラも自分を中心とした範囲魔技だが、そこまで範囲が広いわけではない。
俺は怪我人2人の間に立ち、ケアラをレベル20で起動する。
周囲を青緑色の光が照らし、二人の怪我がふさがっていく。
「う、お、これは」
「傷が、こんなに早く」
自分に起こった事象に驚く二人。
俺はそのままキュアラをレベル20で起動しておく。状態異常回復の魔技なので効果があるかはわからないが一応やっておく。
周りの魔術師も驚いた様子でこちらを見ている。マルファスはこちらを悔しそうな目で睨み付けている。
半分ほど終わったところで部屋のドアが勢いよく開いた。
「ジルクス様!」
扉を開けたのは16、7歳くらいの少女だ。ドレスのような服を着ているところを見ると、貴族の令嬢だろうか。
「イリナ様?」
リリアの声掛けには答えず、イリナと呼ばれた少女はこちらに向かってくる。
「お兄様!」
どうやら、俺がさっき治した人が彼女の兄だったらしい。
「お兄様!ジルクス様は?ジルクス様はどちらに?」
「イリナ……」
期待に目を輝かせているイリナさんとは対照的に、兄の表情は暗い。
「イリナ、これを」
彼がポケットから何かを取り出す。ペンダントのようだ。
それを見たイリナさんの表情がみるみる青くなっていく。
「そ、それは、ジルクス様の」
「すまない」
兄が謝る。
「ジルクスは、俺を庇って」
「そ、そんな」
イリナさんが崩れるように膝をつく。
「お前という婚約者がいたのに、俺なんかを庇って」
「どうして、どうして」
ペンダントを握りしめながら泣き崩れるイリナさん。
「どうしてジルクス様が!代わりにお兄様が死ねばよかったのに!」
「イリナ様!?」
とんでもないことを言い出したイリナさんをいつの間にか近くに来ていたリリアが制する。
彼女自身、自分で言った言葉に驚いているようだ。しかし、出た言葉はもう戻らない。
イリナさんが逃げるように部屋を後にする。
「イリナさん!レイハルト、私は彼女を追いかけるからあなたは治療の続きをお願い」
「は、はい!」
リリアも急いでイリナさんを追う。
「俺が死んだ方が良かった、か。確かにそうなのかもな」
彼の言葉に俺は何も返すことができなかった。
※ ※
「イリナ様!」
すぐに追いかけたと思ったが既に廊下に姿がなかった。
「フィルリリア姫、慌ててどうなさいました?」
近くにいた兵士が声をかけてきたので事情を説明する。
「クロフィード子爵令嬢ですか?先ほどそれらしき方が慌てて城から出ていかれましたが」
「そう、ありがとう」
兵士にお礼をいい、仕方がないのでレイハルトの下へ戻ることにした。
※ ※
「フィルリリア様!レイハルトさん!」
翌日リリアと庭を歩いていると一人の騎士に呼び止められた。何やら慌てている様子だ。
「えっと、あなたは確かイリナさ、まの」
「はい、兄のゼスト・クロフィードです」
そうだ、昨日イリナさんが兄と呼んでいた人だ。もう動けるようになったのか。
「ゼスト様、そんなに慌ててどうしました?」
リリアが促すとゼストさんは一枚の紙を取り出した。
「実はイリナがこのような置手紙をしてどこかに消えてしまいまして」
「置手紙?」
リリアが手紙を受け取り、内容を確認する。
リリアの表情が険しくなる。
「何が書いてあるんだ?」
リリアが手紙を渡してきた。
ジルクス様を弔いに行ってきます。
「弔いに?墓でも作りに行くのか?」
俺の問いには答えず考え込むリリア。
「殉職した者たちは全員慰霊碑に名が刻まれる決まりですが」
「慰霊碑は王都にある。わざわざこんなことを書く必要はないわ」
「となるとジルクス様の死んだ場所?」
リリアが頷く。
「ええ、恐らく。彼女はドラゴンのいる山に向かった可能性が高いわ」
俺は絶句した。下手したら死ぬぞ。
「大丈夫なの、なんですか」
「大丈夫なわけないですよ!イリナは魔法が少しできる程度です。ドラゴンに見つかったらひとたまりもありません」
「早く連れ戻した方がいいわね」
俺たちは馬小屋に向かう。
「レイハルト、あなた馬には乗れる?」
「いえ、乗ったことないです」
馬に乗ったのなんて牧場でポニーに乗ったことがあるくらいだ。
「どうされました?」
馬小屋につくと、騎士のユリスさんがいた。
「あ、ユリスさん、実は」
事情を説明し、馬を貸してほしいと頼む。
「なるほど、分かりました」
「あと、誰か一人ついてきてほしいのだけれど」
ゼストさんの方を見るが彼は首を横に振る。
「すみません、まだ本調子ではないので」
「では私が行きましょう」
ユリスさんが名乗りを上げる。
「そうね、ユリス様であれば大丈夫でしょう」
「大丈夫ってどういうことですか?」
何が大丈夫なんだろう?
「私ならばフィルリリア姫の馬についていけるということです」
「私は召喚術士じゃない」
そんなこと言ってたな。
「だからなのかはわからないけど、動物の扱いは得意なのよ」
そうなのか。
「とりあえず、馬を2頭用意してくださる?」
「2頭でよろしいので?」
「レイハルトは乗ったことないそうだから」
「分かりました」
ユリスさんが馬を二頭用意し、城の外に移動する。
「なんだ、リリア。遠乗りか?」
タイミングの悪いことにオルキス様がやってきた。
「2頭用意して、そんなに僕と行きたかったのかい」
「ユリス様、準備は出来ましたか?」
「え、ええ」
リリアはオルキス様を無視して馬にまたがる
「レイハルト、後ろへ」
「え?」
「な、なにを言っているんだリリア!」
激昂するオルキス様を無視して俺を手招く。
「そもそもいったいどこに行くつもりなんだ!」
「山よ、ドラゴンのいる」
「なぜ、そんな危険なところに!」
リリアが鬱陶しそうにオルキス様を見て答える。
「クロフィード子爵令嬢がそこに行った可能性があります。いえ、ほぼ確実に行っています」
「そんなもの騎士に任せればいいだろ」
「私が一番速いですから」
その言葉にオルキス様が言葉に詰まる。
「だ、だからと言ってそこの専属騎士を後ろに乗せる必要はないだろう!そこの騎士が乗せればいいだろう!」
「ユリス様、レイハルトを乗せて私についてこれますか?」
「難しいでしょう」
「では、やはり、私の後ろに乗せる方が良いですね」
「しかし」
「時間がないかもしれません!レイハルト、早く!」
「は、はい!」
有無を言わさぬ迫力に押されてリリアの後ろに乗る。
「き、貴様!」
「ユリス様!出発しますよ!」
「分かりました」
オルキス様を完全に無視してリリアが馬を走らせる。




