エピソード1-27
その夜、俺はなかなか寝付けずにいた。明日のデート、もとい酒場行が楽しみで寝付けないわけではない。今日お茶会で聞いたことが頭からなかなか離れない。
(俺がリリアの婚約者候補第一位?)
ありえないと首を振って頭から追い出そうとする。そもそも、俺とリリアでは身分が違いすぎる。他の貴族が黙っているわけがない。
横になってもなかなか寝付けそうになかったので最近ご無沙汰していたクラフトをすることにした。
クラフトが出来なかったのはクラフトアイテムが魔道具扱いされるためだ。ただの旅人がバンバン魔道具を作ったら確実に怪しまれる。
しかし、今は個室で深夜だ。ばれることはまずない。それに作ってみたいものもあった。
「素材が分からないが、あれが出来れば」
アイテムストレージからアイテムをいくつか出してクラフトを始める。
翌朝、俺たちは王城の城壁の近くにいた。
「ここに置くのか?」
アイテムストレージを操作する。もちろんテレポーターを置くためだ。
「いいえ、別にいらないわ」
リリアは首を横に振る。どうやらテレポーターで外に出るわけではないらしい。
「じゃあどうやって外に出るんだ?」
当たり前のように門からは出れない。
「魔法や魔道具がないと出られないなら、私はここから出られてないはずだけど?」
「確かに」
リリアがここから出られている以上、何らかの抜け穴があるはずだ。
「こっちよ」
リリアに案内された場所にたどり着くと、城の裏側だからか少しひびが入った城壁があった。リリアはそこの一部を軽く押す。するとレンガが数個奥に動いた。
「ここから出られるわ」
リリアがレンガをさらに押し込む。
「そのまま落としたら音で気づかれるんじゃないか?」
「大丈夫よ、向こう側に草が茂っているから音がしないの」
リリアはそのままレンガを落とす。草の上に何かが落ちた音がしただけで大きな音はしなかった。
「リリア、ちょっと待った」
空いた穴に入ろうとしたリリアを止めた。
「俺が先に行く」
リリアが不思議そうに首を傾げて、顔を赤くした。どうやらスカートをはいていることを忘れていたようだ。
俺、リリアの順に穴をくぐり城の外に出る。落としたレンガは元にはめておく。
王城をぐるっと回って城下町に出る。
「こっちよ」
リリアの先導で町を進んでいく。ほどなくして目的地である酒場にたどり着く。
「いらっしゃい。お、リリアちゃんじゃないか、久しぶり」
「おじさん、久しぶり」
中はカウンターとテーブルが3つあるだけの小さな酒屋だった。客は男が二人テーブルに座っているのみだった。その二人も冒険者というより職人の様だった。
「冒険者はいないのか」
「ここは依頼の仲介はしてないからね、純粋な酒場なのよ」
俺の疑問にリリアが答える。
「リリアちゃん、今日は連れがいるのかい。なんだ?リリアちゃんの良い人か?」
カウンターの奥の男性、おそらくマスターだろう、が茶化すように言う。
「違うわ、仕事仲間よ」
しっかりと否定するが、顔が若干赤くなっていた、ような気がする。
リリアがカウンターに座ったので俺も隣に腰を下ろす。
「マスター、いつもの、こいつには弱めのをお願い」
「了解、なんだ兄ちゃん、酒苦手なのかい?」
「いや、飲んだことがないらしいんだ」
「なに!?その年でか!?」
やはり驚かれる。
「何でも、彼の故郷では酒は20歳にならないと飲んじゃいけない決まりだったみたい」
「なんだ、兄ちゃん旅商人か。しかし、珍しい決まりだな」
「私も聞いたときに驚いたわ」
そんな話をしているうちに酒が入ったグラスが二つ出てきた。
「ちょっとまってな」
マスターは肉を焼きはじめる。
「珍しいハーブが手に入ったから、それを使ってみた」
ステーキのような肉が二つ並ぶ。
リリアがステーキを食べながら酒を飲む。こちらもそれにならう。ステーキはこってりしたソースをさっぱり気味のハーブがうまい具合に調和していた。
「どうだ、うまいだろ」
マスターの質問に頷く。そして酒を飲んでみる。
アルコールが喉を刺激し、アルコールと果実の香りが鼻を通る。そして、
「甘い」
俺は酒は苦いものだというイメージを持っていた。しかし、この酒は苦みはほとんど無く、果実の甘味が強かった。
「そりゃ甘いのを選んだからな。初めてだし飲みやすいものをと思ってな」
その後は最近の王都の話など他愛もない話をした。
「マスターごちそうさま。また来るわ」
リリアがお金を払って席を立つ。
「おう、またな。っと、兄ちゃん」
マスターに手招きされたので近寄ると腕を肩に回して耳元で囁いた。
「あんないい女、そうそういねえぜ。逃がすんじゃねえぞ」
「は、はい」
あいまいに頷いて店を出た。
「なあリリア」
俺は酒場から気になっていたことを聞いた。
「同業者って?あと旅商人って」
「ああ、あそこでは私商人の娘ってことにしてるのよ」
「ああ」
納得した。本当のことを明かせるはずもないし、マスターと気軽に話すには商人ぐらいがちょうどいい。
王城の裏にたどり着いたリリアはまたレンガを押そうとする。
「リリア、ちょっと待った」
俺はリリアに待ったをかけてアイテムストレージを操作し、足元にテレポーターを設置した。
「この方が楽でしょ」
「それもそうね」
二人はテレポーターでリリアの部屋に戻った。




