エピソード1-25
「お茶会?」
ここ数日は特にいざこざもなく平和に過ごしていた。
「そう、お茶会。お父様が戻ってきたんだからそれくらい行けって」
中世の貴族のお茶会はただ仲良し同士でお茶を楽しむものではなく、社交の場の一つだったはず。情報の交換などが主目的の。
「2年間も社交界から離れていたんだから情報を集め直せと」
「まあ、そういうことね」
「それでいつなんだ?」
「3日後ね。ハワード伯爵家に行くわ」
「一応聞くが、その家とスレンディット公爵との関係は?」
「2年前と同じなら特に何もないわね」
それが変わっていなければ大丈夫だろう。
(一応警戒はしておくか)
「フィルリリア様、本当に彼一人でよろしいのですか?」
「問題ないわ。人が多ければ多いほど彼の邪魔になってしまうし」
今馬車には俺とリリア、それと侍女が2人である。他の護衛はリリアが全て断った。
まだ何か言いたげなセリナを無視して、リリアは馬車を出発させる。
ハワード伯爵は今王都の別荘にいるらしくすぐに着いた。
別荘の中に入るとハワード伯爵婦人が草木を好きということもあり、手入れの行き届いた庭園が広がっていた。
「お待ちしておりました。フィルリリア様」
玄関まで来ると30後半から40位の男性とその隣に30代半ばと思われる女性、その後ろにリリアと同い年くらいの女の子が立っていた。
「お招きいただきありがとうございます。ハワード伯爵」
リリアは馬車から降りると頭を下げた。
彼らに連れられて庭園の一角に移動した。テーブルがいくつかすでに置かれていてその上には蓋のされた皿やポットが用意されていた。椅子はない。
「外で、立食?」
「レイハルトは初めてかしら」
俺が不思議そうな顔をしながらぽろっとこぼした言葉をリリアが拾う。
「ハワード伯爵のお茶会は婦人のご意向でいつもこうなの」
すでに何人か来ており、リリアを見つけると、こちらへ挨拶へ来る。
(さすがは王族)
彼女に挨拶に来た貴族たちを見てみると若い男性はこちらを恨めしそうに見ていく。
しかし女性と貴族の付き添いたちはこちらに暖かい目を向けてくる。その視線の意味を俺は理解できなかった。
さらに徐々に人が増えてくる。
「みなさんお集まりいただきありがとうございます。今回は私たち主催のお茶会に参加していただき一同とても感謝しています」
ハワード伯爵が1段高いところに上って話し始める。
「今日はシェフが腕によりをかけて作った料理を用意しています。どうか楽しんでいってください」
控えていた侍女や執事が蓋を開ける。そこにはいろいろな種類のお菓子が並んでいた。多いのはクッキー系の物だ。プレーンの物から果物やジャムが添えられた物と数多くある。
またケーキの類もあった。スポンジに生クリームを塗ったいわゆるショートケーキがほとんどで、乗っている果物はそれぞれ違っていた。ただ、クッキーにもケーキにもチョコレートは見受けられなかった。
(まだカカオは見つかってないのか?それともこの世界にはないのか)
「それではみなさん、召し上がってください」
貴族の人たちがお茶会を始める。従者や護衛は外で見守る。
俺が観察していると男は男同士、女は女同士で固まって会話を始めた。貴族社会とはいえ、こういったところは世界が変わっても変わらないようだ。
リリアの方に目を向けると、どうやら普通に他の女性陣と話しているようだ。2年間離れていたとはいえさすがは王族と言ったところか。
話している内容は聞こえてくる限りだと最近の流行や新しいお菓子について、ガールズトークそのまんま。
「あんたか、フィルリリア姫の専属騎士ってのは」
後ろから声をかけられて振り返った。そこには、数人の騎士然とした男がいた。
「そうだが」
俺は警戒しつつ答える。だんだんと周りに人が増える。どうやら全員誰かの騎士のようだ。
「何か用か?」
いつの間にか囲まれていた。
「なあ、あんた」
最初に声をかけてきたやつが代表のようだ。
「フィルリリア様とどこまでいってるんだ?」
「は?」
何を聞かれたのか分からず素っ頓狂な声を出してしまった。
「ずっと一緒に旅してたんだろ?どこまでいったんだ?やったのか?」
「やったって、何をだよ」
「何って、そりゃあ、なあ」
周りに同意を求める。周りを取り囲んでいる騎士全員が頷いている。
「で、どうなんだ?」
「どうって言われても」
ふと、一つ思いついた。中高生のほとんどの男子は興味があること。
「な!し、してねえよ!何も」
一度裸は見てしまったが、言わない方が良いだろう。
「は?あんな綺麗な人とずっと一緒にいたのに何もしてないってのか?」
「当り前だ!そんなこと考える余裕はなかったし、そもそも相手はお姫様だぞ!」
「なんだ?最初から知ってて近づいたのか?」
周りの目が厳しくなる。
「知ってたら関わろうと思わなかっただろうよ。旅ができなくなるのは目に見えているしな」
(現状できなくなってるし)
「だったらよう、やっぱり何で手を出さなかったんだ?」
(DTの男子高校生にはハードル高いよ!それに)
「そんな余裕なかったからな」
いきなり異世界に呼び出されてサバイバル、そんなことを考える余裕はなかった。
「余裕がないってあんたずっと旅してきたんだろ?」
そういえばそういう設定だった。
「今まで一人だったところに人が増えたんだ。いろいろ考えることが増えるだろ。それに」
「それに?」
そこまで言って、何処まで話すべきか迷った。旅の目的、この世界について知ること。それを言うかどうか。
「俺の旅の目的に近づいてたからな、ここ最近で」
「国王にもそれを理由で騎士になることを断ったって聞いたな。その目的ってなんだ?」
「それは」
俺は言いよどむ。
「別に言いたくなければ言わなくていい」
「ありがとう」
礼を言う。
「しかし、そうなるとあの噂も眉唾か」
「噂?」
いったいどんな噂かと尋ねる。
「あんたとフィルリリア様が恋仲っていう噂だよ」
「は?何で?」
訳が分からないと首を傾げる。
「だってよ、無理矢理あんたを専属騎士にしたり、あんた以外の護衛の任を解いたり、それより一番に」
少しためてこう言った。
「あんたといるときが一番楽しそうにしてるって話だしな」
(それは俺といるときは素でいられるからじゃないのか?)
そう思った時にふと思った。リリアの素ってなんだ。俺に普段見せているのは素なのか作ったものなのか。
「どうしたいきなり考え込んで」
どうやら顔に出ていたようだ。
「いや、何でもない」
俺は首を振る。
「それは俺が貴族じゃないから、いや、この国の人間じゃないからじゃないか?」
「どういうことだ?」
不思議そうに首を傾げる。
「俺相手には取り繕う必要がないってこと」
「はあ?」
目の前の騎士は訳が分からない、いや呆れたような顔をしている。
「はあ、こりゃ姫さんも大変だ」
「な、なんだよ」
周りの騎士たちは一様に首を振っている。
「まあ、がんばれ」
何を?
「そういえばまだ名乗ってなかった。俺はジュードだ」
「そういえばそうだったな。まあわかってると思うがレイハルトだ。よろしく」




