エピソード1-22
「さて、それじゃあ行きましょうか」
朝ごはんのあと3人はリリアの部屋にいた。
「早くあの魔道具を使いましょう」
せかしてくるリリア、なぜか少し焦っているようにも見える。
「どうしたんだ、そんなに慌てて。それにまだ外出をばれないようにする方法も決まってないのに」
いったいどうしたと疑問に思いオルガを見る。するとオルガは顔を背けた。
「???」
「そんなの後で考える!ほら早く」
リリアにせかされながらアイテムストレージを操作しているとドアがノックされた。
「フィルリリア様、オルキス様がお見えになりました」
「遅かったか」
リリアはものすごく嫌そうな顔をしていた。
「すぐに行くわ。レイハルト、付いてきて」
俺たちはオルガをおいてオルキスなる人物のところへ向かった。
「マイハ二―、やっと戻ってきたんだね。会いたかったよ」
一人の男が前から歩いてくる。そしてリリアを見つけると速足で寄ってきて抱き付こうとする。
その抱擁をリリアはバックステップで回避した。いやそいつはエネミーじゃねえぞ。
抱擁を躱された男はいつも通りとでもいうようにすぐに笑顔に戻った。
「全く相変わらずだな、リリアは」
前髪を掻き上げる男は貴公子然としたイケメンだった。
「2年会わない間にさらに美しくなっているね。おや、彼は?」
イケメンが俺の方を見る。
「彼はレイハルト、私の専属騎士よ」
「へえ、彼が」
礼をする俺をイケメンがしげしげと眺めてくる。
「レイハルト、紹介するわ。彼はオルキス。私の婚約者候補よ」
「候補だなんてつれないな。もう君と僕の婚約は決まったようなものだろう。おっと失礼僕はオルキス・スレンディット。彼女の婚約者さ」
「スレンディットということは公爵の」
「そう、僕はスレンディット公爵の次男だ」
まさかこれから敵対するかもしれないところの家族にこんなところで会うとは。
「騎士レイハルト。連れてきてくれてありがとう。もう大丈夫だ、下がってくれたまえ」
そうは言われたもののどうすればいいか分からない俺はリリアを見る。
「レイハルト、専属騎士として私のそばを離れることは許しません」
「だ、そうです。公爵殿下」
オルキスは少し渋い顔をした。
「まあいい。僕たちの邪魔さえしないならな」
3人は城内を歩いていた。リリアとオルキスが並んで歩き、俺はその後ろを歩いている。
リリアとオルキスはどちらも美形であり、並んで歩くととても絵になる。傍目から見ればお似合いのカップルだ。少し悔しい。
(ん?なぜ俺は今悔しいと思ったんだ?)
公爵殿下と王女様。組み合わせとしてはこれ以上ないだろう。さらには美少女とイケメンでつり合いも取れている。納得こそすれ悔しいと思う理由はなんだ。
(仲間が取られてからだろうか)
ゲームの時も自分のチームを抜けて別のチームに行くメンバーを見送るときは少し寂しく、悔しく思ったものだ。
彼(彼女)を自分では楽しいチームと思わせることが出来なかった。他のチームの方がいいと思わせてしまった。そのことが悔しく、寂しかった。
だから今回もそれと同じようなことだろうと思った。
先のことは分からないが彼女は自分から離れるかもしれない。それが寂しく、そしてその相手が敵対するであろう相手であるのが悔しいのだろうと結論づけた。
俺はもう一つの可能性に目をつむっていた。
「そうそう、この前僕が」
先ほどからオルキスの自慢話が続いている。
リリアはそれを笑顔で相づちを打っているがその笑顔はぎこちない。無理に作っているのが分かる。
そんなリリアに対して1時間ぐらい自慢話をしている。
2年ぶりの再会で積もる話もあるのだろうが、それが自慢話だけでは聞いている方も辛かろう。
話を聞いているうちにどんどん固くなってくリリアの笑顔、それに気づいていないのか、延々自慢話をするオルキス。
もしこれが2年前からそうだったのであれば会いたくないのも頷ける。女性相手にマシンガントークはいかんでしょ。
「なあ、リリア。やっぱり彼、外させないか?」
俺を邪魔そうに見てくるオルキス。第三者がいるとこで話せないことでもあるのだろうか。
「僕は君と二人きりになりたいんだよ」
「駄目よ。彼がいない間に何かあったら対処できないわ」
「何かってなんだよ。ここは城の中だから危険はないじゃないか」
「そうとも限らないわ。いつ、どこで、何が起こるかは誰も分からない。」
おそらくリリアはオルキスに無理矢理公爵家に連れていかれて、実験の協力をさせられるのを恐れているのだろうがそのことを彼は気づいていないようだ。
「こいつなら、何が起きても対処できると」
「ええ、彼ならば魔物の大群が来ようと、地鳴りが来ようと私を守ってくれるわ」
地鳴り、地震か。この国には地震があるのか。
「魔物の大群が直接城に来るなんてあり得ないし、地鳴りなんてここ100年くらい起きていないじゃないか」
100年間起きていない。地震大国日本に生まれた身としては信じられない。
「だからといって起きない理由にはならないわ」
オルキスが俺を物凄い形相で睨む。
「僕がこいつより強ければ外してもらえるか」
「いいわよ。まあ無理でしょうけど」
「やってみなければ分からない!」
「分かるわ。あなたは模擬戦を見ていないから知らないだろうけど彼は剣技ではグランツより、魔法ではマルファスより強いんだから」
「な!」
「それでもやるの?」
オルキスは少し考えて「やってやる」と言った。
俺が模倣剣を持ってくるとすぐに模擬戦をすることになった。オルキスはなぜか笑っている。
お互いに剣を構えて対峙する。
「騎士レイハルト。僕は公爵家だ。分かっているな」
ああ、そういうことか。こいつは知らないんだ。
「はじめ!」
リリアの合図とともにオルキスが切りかかってくる。
3合ほど打ち合ってすぐに決着はついた。俺がオルキスの剣を弾き飛ばしたのだ。武技もジャストガードの使わずに終わった。
「な!い、今のは油断しただけだ!」
剣を取りに行ってまた切りかかってくる。先ほどは本気ではなかったのか動きが少し良くなっていた。
だが、こちらはレベルMaxの星輝士、10合も打ち合わないうちにオルキスの剣が弾き飛ばされた。
「き、貴様!僕にこんなことをしてどうなるか分かってるのか!」
「どうなるんですか?」
ゆっくりと近づく。何回目だこのくだり。
「僕にかかればお前の家なんて」
「彼に家族はいないわ」
リリアの言葉に固まるオルキス。
「もう故郷もないそうよ。そもそも国外らしいし」
オルキスは青くなる。まさかこの脅しが効かないとは思っていなかったのだろう。
「彼にそう言った脅しは効かないわ」
リリアの言葉に震えだすオルキス。
「なら、僕は今から帰って父上にレイハルトに殺されそうになったという。そうすれば雇い主のリリアも罰を受けることになりかねないぞ」
俺への脅しは効かないと分かったオルキスはリリアを巻き込んできた。
「そうなったら、フィルリリア様を連れて国外でも行きましょうか。私ならばそれが城の兵士全員を相手取っても国外まで逃げられます」
そう断定する。
「私はレイハルト以外の全員の護衛を解任したわ。理由はレイハルトの邪魔になるから。レイハルト並みに戦えないなら邪魔になるだけ。実際彼は私が外にいた時一人で守ってくれたわ。あなたにそれが出来る?」
オルキスはうつむく。たった一人ですべてから守る。そんなこと普通の人に出来はしない。
「オルキス様。権力だけで何でも動かせると思わないことです。魔物に権力は効きません。今のあなたではフィルリリア様を守ることはおろか自分すら守れませんよ」
王宮を散歩しているときに少し兵士たちの訓練を見た。彼らの動きに比べたらオルキスの動きは子供の遊びだ。チャンバラごっこと以下のレベル。
オルキスはうつむいたままふらふらと歩いていった。




