エピソード1-20
俺はリリアと中庭を歩いている。
この城を案内したいそうだ。
宴の後のリリアの行動は早かった。俺を専属騎士にし、それ以外の護衛の騎士や近衛兵全ての任を解いた。
もちろんそれに反発する者もいたが、俺の戦闘の邪魔になるだけだからと返した。
俺が戦っている間に姫を逃がすには人手が必要だという意見には、リリアにはオルガがいるし、俺のそばが一番安全だと言った。
そもそも俺が苦戦する相手であったらこの城の兵士ではおそらく対処できない。
他にも反対意見があったが自分の護衛になりたかったらレイハルト並に強くなれと言って皆を黙らせた。
正直これはありがたかった。これから公爵を相手取る以上リリアの周りにはあまり人がいない方がいい。どこから話が漏れるか分からないからだ。
しかし、これはとある噂も立ててしまった。「フィルリリア姫はレイハルトと恋仲である」というものだ。
オグゾルには駆け落ち云々の話をしたし、リリアが俺以外を寄せ付けないようにしているからそう疑われるのも仕方がない。
そのせいで若い貴族から物凄い鋭い視線を浴びせられることになり、疲れることこの上ない。
一方リリアはあまり気にしていない様子だ。まんざらでもないのか、それとも気にしている余裕がないのか。
どちらにせよ平然としている。その態度がさらに貴族を煽ることになっているのだが。
「どお、ここきれいでしょう」
リリアに案内された場所は一面に花が咲き誇っている場所だ。色とりどりの花が咲き、花の絨毯が出来上がっている。
「ここ、昔から好きだったの。城から出られない時はよくここに来てた」
花畑でうれしそうな顔をしているリリア。その姿を見ると普通の女の子のように見える。
(言ったら絶対怒られるから言わないけど)
その後も城のいろいろな場所を回った。正直めちゃくちゃ広くて覚えられる気がしない。そして、リリアの部屋へ。
ここは広い。俺が使っている部屋の3倍はありそうだ。部屋には天蓋付きのベッド、クローゼットのようなもの、机に化粧品棚だと思われるもの、本棚、そしてオルガの寝床があった。
「さて、行きましょう!」
「行くって何処に?」
目を輝かせるリリアに対して首をかしげる。
「何処にって遺跡よ。調査したいんでしょ」
そういえばそんなこと言っていたな。環境が一気に変わったせいで忘れてた。
「遺跡に行くってここから出たらばれるぞ。絶対」
「あなたの魔道具を使えばいいじゃない」
「行っている間に誰か呼びに来たらばれるだろ結局」
リリアは顔を膨らませる。
「その前に少しやっておきたいことがあるんだ」
「やっておきたいこと?」
首を傾げるリリアにオグゾルと対峙したときに考えていたことを話す。
「この国の、いやこの星の歴史や伝承が載ってる本てここにないか?」
「ここの書庫なら多分、そんなもの見てどうするの。もしかして本当にあの伝承を信じているの?」
リリアには信じられないのだろう。昔の方が今よりずっと発達していたなどとは。
だが自分の仮説を立証するには読んでおく必要がある。もしかしたら違うかもしれないから。
「まあ、そこまで言うなら、一緒に行きましょうか」
書庫に行くと決まったところで部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
入ってきたのは一人のメイドだった。
「フィルリリア様、レイハルト様もご一緒でしたか。レイザス様がお呼びです」
「レイザス兄様が?」
「はい。内密な話があるそうで二人だけで来て欲しいとのことです」
二人は顔を見合わせた。あの暴君が内密に話。嫌な予感がする。とはいえ王子からのお呼び出しだ、行かないわけにもいかない。
「分かりました。すぐに向かうと伝えてください」
メイドは分かりましたと一礼して部屋を後にした。
「レイザス兄様が話?何かしら」
「さあ、ただいい話じゃないと思うがな」
「同感ね」
嫌な予感を感じながらレイザスの部屋へと向かった。
「レイザス様、フィルリリア様とレイハルト様をお連れしました」
「入れ」
二人はメイドに促されてレイザスの部屋に入る。
「やあ、待っていたよ」
レイザスが不敵な笑みをたたえて座っていた。
「レイザス兄様、なんの御用でしょうか」
メイドが立ち去るのを待ってリリアが口を開く。
「なに、少し話をしようと思っただけだ」
レイザスは足を組む。
「昨日の模擬戦、見事であった。まさかグランツもマルファスも負けるとは」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。この男、何を狙っている。
「特に君の魔法は興味深い。昨日の火の魔法。あんなことはエレナでも出来ないだろう。見たことない魔法もあったしな」
二人は黙っている。レイザスは尚も話し続ける。
「君の剣技もなかなかのものだ。君と同じことができる人間が果たして何人いるか」
あれは武技であり、マイクロチップのアシストがあって出来ることなので多分同じことができる人間はこの世界にはいない。
「どうやら騎士の中にも君に教えを乞いたいと思っているものが何人もいるとの話が」
「お兄様、早く本題に入ってください」
長々と話しているレイザスをリリアが途中で遮る。
「ちっ、愚妹が。まあいい、本題だ」
気を引き締める。
「リリア、その男を俺に寄越せ」
「お断りします」
即答だった。当然と言えば当然か。俺はリリアの計画の核。失うわけにはいかない。
レイザスもその回答を予測していたのか笑みを崩さない。
「そうだと思ったよ。なら、レイハルト」
レイザスは真剣な顔をしてこちらを見る。
「王子として命ずる。リリアのもとを離れ私のもとに付け」
そう来たか。通常、王族の命令は絶対。それが王位継承権持ちとなると国王に次ぐ権力を有する。リリアが驚いて俺の方を見る。
「国に仕える騎士ならば、私の命令には逆らえまい。私の騎士となれ」
「お断りします」
その言葉にレイザスが目を見開く。
「なに!貴様!国に仕える騎士が俺の命令に背くのか!」
先ほどまでの余裕のある態度は消え、立ち上がり叫ぶ。
「そんなことをしてどうなるか分かっているのか」
「私は国に仕えているわけではありません」
「何!」
俺は静かに続ける。
「私が使えているのはフィルリリア様個人であり国ではありません」
「戯言を、リリアに仕えている時点で国に仕えていると同義」
「国に仕えることは国王陛下の前で辞退させていただきました」
昨日のことを思い出す。
確かに俺は謁見の間で国王の騎士として国に仕えることを断った。そして強引にリリアが自分の専属騎士にしたのだ。
「貴様、家族や親族がどうなっても。っと貴様には親族はいないのだったな」
レイザスは舌打ちをする。そのことを忘れ、権力で脅せばどうにかなると思っていたようだ。
「だが、いいのか。俺に逆らえばこの城で暮らせなく出来るぞ」
「私ならばフィルリリア様を守りつつこの城の兵すべてと対峙して、逃げ切れる自信があります。なんならばこの城を破壊することも」
俺の言葉にレイザスはさらに食って掛かろうとするが、権力が効かない、実力も最強となると打つ手がないのか腰を下ろす。
「ちっ、よっぽどその女に入れ込んでいるようだな。まあいい、この話は無しだ。帰っていいぞ」
二人がドアを出る直前にレイザスの言葉が届く。
「後悔しても知らんぞ」
レイザスの部屋を後にした二人はその足で書庫に向かうことにした。
「しかし、さっきのあなたかっこよかったわ」
「そうか?」
「なるほど、私個人に仕えているか。そういう解釈もあるのね」
「もともとそのつもりじゃなかったのか?」
「あの時はあなたを引きとめるので精一杯だったから。そこまで考えてなかったわ」
おいおい。
「でも、そうね。そういうことにしておいた方がいいわね」
リリアが立ち止まり、こちらの方を向く。
「改めて、レイハルト。私の剣として、盾としてその身を捧げなさい」
「はい、フィルリリア様」
俺は見よう見まねで騎士の礼のようなポーズをとる。
「それで、フィルリリア様」
「……、誰もいない時はリリアと呼びなさい」
少し照れたように言うリリア。
「リリア、レイザス様が俺を引き入れようとした理由て分かるか」
リリアは少し考え込んでから顔を上げる。
「確証はないけど予測は立つわ」
「それでもかまわない」
「多分だけど……」




