エピソード1-17
俺たちは王城へ向かうため、オグゾルが乗ってきた馬車に乗っていた。ここの遺跡を調べてからにしたいと言ってみたが却下された。
一日でも早くリリアを城に戻したいようだ。いつでもここに来れるようにテレポーターは設置しておいたが。
馬車には俺、リリア、オグゾル、副官が乗っていた。
最初、俺が馬車に乗るのを嫌がっていた。なぜ下民をこの馬車に乗せなければならないのだと。
しかし、リリアが「彼は私の命の恩人です。彼を歩かせるなら私も歩きます」と言ったのでオグゾルも流石に王族を歩かせるわけにもいかず、俺が馬車に乗るのを渋々了承した。
「おい、下民。私の馬車を汚すんじゃないぞ!」
その下民ての止めてくれないか。せめて平民といって欲しい。
馬車では終始オグゾルに睨まれていた。それも仕方のないことで、リリアがずっと自分に話しかけていたのだ。
オグゾルが何か話しかけても、「ふーん、そう」と言った感じでそっけない態度を取り、すぐに俺との話に戻ってしまう。
「貴様!さっきから聞いていれば、姫様になれなれしい態度を取りおって」
「黙りなさい、クラーキス伯爵。これは私が彼に許可したことです。あなたがとやかく言うものではありません」
「ですが、姫」
リリアはそれ以上取り合わず、話に戻る。
オグゾルとしては貴族である自分よりも平民である俺を優先されているのが我慢できないのだろう。
リリアのほうはオグゾルのことが嫌いなのかなんなのか、話しているときの顔はものすごく嫌そうな顔をしていた。
「姫様のあそこまで楽しそうな顔は初めて見ました。やはり彼は」
「フィリップ!何を言っている!」
副官、フィリップが言ったように俺と話している顔は最高に楽しそうな顔をしている。演技かもしれないが
二人が恋人同士だと思っても仕方のないほどに。リリアがそんな顔をしているが俺はとある理由のお陰でリリアから顔をそらさずにすんでいた。
俺は、生まれて初めての馬車に興奮していた。この世界に来てからだけでなく、日本にいたころから含めて初めてだ。
だから気分が高揚していた俺はリリアの輝くような笑顔を受けとめられていた。
あの村から王都までは馬車でも2,3日かかるようで途中の宿場町で止まることになった。
そこで宿を取ったとき、リリアが兵士の護衛を断り、護衛は俺だけにしろと言ってまた、オグゾルと言い争った。オグゾル、よっぽど信用されてないんだな。
結局また、リリアが駆け落ちだなんだと言い出すのを恐れてリリアの提案を受け入れた。
翌朝の早朝には出発し、馬車の中では昨日と同じことが繰り返されていた。
リリアの話は王都の話が多く、リリアの話だけで王都の様子が大体わかってきた。その間、オグゾルは俺を睨み続け、フィリップは優しい顔を向けていた。あの、そういう関係ではないですよ、俺ら。
道中は、エネミーも盗賊も特に出てこなかった。比較的安全な街道を選んだのだろう。
特に何も起きずに王都まで来ることができた。王都の中に入ると皆道の端によって、頭を垂れていた。
(この光景、前にも見たな)
そんなことを考えながら窓の外を見ていると、リリアが顔を近づけて小声で話しかけてきた。
「ほら、あそこ。昨日言った珍しい肉を扱っている店」
「ほう、あれが」
「なかなか珍しいお酒も扱っているの。今度飲みに来ましょう」
「ああ、そうだな、ちょっと待て」
頷きそうになったが、聞こえた単語の一つに反応した。
「さ、酒?俺まだ17歳だぞ?」
「え?なら大丈夫じゃない」
リリアが何を言っているのというような口調で返してきた。酒は20歳になってからじゃ。
そこまで考えてからここが中世ヨーロッパのような世界だということを思い出す。もしかしたら酒を飲める年齢が低いのかもしれない、成人も16歳とか。
「なあ、リリア。この国では何歳から酒が飲めるんだ?」
「年は決まってないわよ。まあ、大体12歳の成人の儀で初めて飲むことが多いかしらね」
12歳!?早すぎでしょ!と思ったが、日本の元服もそれぐらいだったと思いだす。
「あなたの国では決まっていたの?」
「ああ、俺の国では酒は20歳になってからだったから」
「20歳、そうなの」
リリアは驚いた様子だった。まあ、12歳で成人の世界だからな。無理はないか。
「じゃあ、お酒はやめておく?」
「うーん、少し考えさせてくれ」
「分かったわ」
酒に関してはさすがに抵抗が、いくらこの国では大丈夫だと言っても。
オグゾルはくっついて話している二人を、特に俺をものすごい形相で睨んでいた。
王城。それはもうファンタジーでは定番の建造物だ。この世界にももちろん存在する。
目の前にそびえたつのは大きな城壁。王都のそれよりもさらに頑丈な作りなのがうかがえる。
その中には大きな城。もちろん日本の城ではない。中世ヨーロッパのような城だ。
城門の中に入るとまずは大きな庭が広がる。色とりどりの花が咲き誇り、ところどころには木も生えている。花畑とでも言えるような場所だ。
そんな花畑に唯一引かれた道を馬車は進んでいく。花畑も道もよく整備されている。
城門から馬車で3分ぐらいで城の入り口につく。それだけでこの城の大きさも分かるというもの。
先にオグゾルたちが下りる。俺も下りようとして足を止める。
そこにはメイド服を着た女性が道を作るように並んでいた。その光景に圧倒されながらも馬車を下りる。そして最後にリリアが下りてくる。
「フィルリリア様。おかえりなさいませ」
周りのメイドよりは少しばかり年上であろうメイドが出て来る。
「ええ、ただいま、セリナ」
リリアはセリナというメイドの手を借りながら少しずつ降りていく。
「やっと、帰ってきてくださったんですね。お怪我はありませんか?」
「心配をかけたわね。大丈夫よ」
リリアがセリナに微笑みかける。その笑顔を見てほっとした様子のセリナ。その後視線が俺に向く。
「フィルリリア様、こちらの方は」
「彼は私の命の恩人よ」
「命の、それは」
セリナが俺の方へ歩いてくる。
「フィルリリア様をお救い下さりありがとうございます」
「いえ、こちらも成り行きみたいなものでしたので」
(それに最初は姫だって知らなかったしな)
「いえ、それでもです。して、あなたのお名前は」
「俺の名前はレイハルトといいます」
「レイハルト様。私は王宮のメイド長を務めているセリナと申します」
初めての様付けに少し驚きながらも挨拶を交わす。その後、リリアはメイドたちに連れられて行き、俺は王宮の一室で待つことになった。
「レイハルト様、お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
10分ぐらいたったころメイドの一人が呼びに来た。案内されたのは荘厳な装飾が施されえた大きな扉のある部屋だった。
(ここってもしかして)
「こちらで、国王陛下とフィルリリア姫がお待ちです」
(やっぱり謁見の間か!)
メイドが扉を開ける。そこには国王陛下と思われるがっしりとした男性とその隣に佇むリリア、そして壁際にはこの国の重臣と思われるおじさんたち。俺が部屋の中に入ると扉が閉められる。
俺はカーペットの上を歩きながら中世ヨーロッパの作法を思い出そうとした。
(こういう時はどうするんだっけ?ファンタジーアニメではどうしてた?確か王様の前で立膝だったか?)
そこまで考えている間に大分前に来たので片足を立膝にし、頭を下げた。
「面を上げよ」
威厳のある声が前から放たれた。俺は言葉に従い顔を上げた。そこにはがっしりとした体形を金や銀の装飾の施された服に身を包ませた男性がいた。
「私はこの国の王、ルドイスだ」
俺は名乗っていいのか分からず、黙っている。
「其方がわが娘、フィルリリアを助けてくれたそうだな」
「は、はい」
「名は何という」
「レイハルトと申します」
緊張で声がうわずりそうなのを必死でこらえていた。
「レイハルトか。私からもお礼を言わせてもらいたい。娘を助けてくれてありがとう」
「い、いえ。当然のことをしたまでです」
俺は変なことを言って国王の不興を買いでもしたらと思うと気が気じゃなかった。
「それに、ジャイアントスネークを一人で倒せる実力があるとか」
国王のその言葉に周りの重臣たちがざわめく。
「それほどの実力があるのだ。どうだろう。我が国の騎士になってみないか」
返答に困った。手に職があるのはいいことだが、騎士として働くことになると自由に動くことができない。
そうなると遺跡の調査に行くことができず仮説が正しいかを確かめることができない。しかし、国王からの願いを断ると不敬罪になりかねない。
「恐れながら陛下、私は旅人であり、とある目的のために旅をしています。その目的を果たすまでは騎士として国に仕えることは出来ません」
だが、この世界について知るまでは自由を奪われるわけにはいかない。
「貴様!卑しい下民の分際で陛下のご好意を無下にしようというのか」
「まあ良い。して、その目的とは」
言っても信じてもらえないよな。
「一身上の理由です」
そう答えることにする。
「レイハルト」
リリアが俺に声をかける。
俺はリリアの方に顔を向ける。そしてその姿に目を奪われた。
リリアは今までの庶民風の恰好ではなく、薄青色に金の刺繍が施されたドレスを着ている。その姿は銀髪と相まって輝いているように見えた。
「どうかしら。私の専属騎士になるというのは。もちろんあなたの目的への支援もするわ」
その言葉でリリアに見惚れていたところから目が覚める。いや、覚まされた。
リリアは輝くような笑顔を浮かべている。周りの重臣たちはリリアの笑顔に見惚れている者ばかりだ。
しかし俺はリリアの笑顔の後ろから黒いオーラが出ているのに気が付いた。まるで、「私をおいて自分だけ旅に戻ろうとしたってそうは行かないわよ」と言っているようだ。
(何で皆気が付かないんだ?)
思い込みかと思った時国王の顔が引きつっていることに気が付いた。どうやらあのオーラに気が付いたのは自分だけではないらしい。
「お待ちください。姫」
俺が答えようと口を開いたとき後ろから声がした。
声のした方へ顔を向けると、全身を鎧に身を包んだ男がこちらに歩いてきた。
「何でしょか、グランツ将軍」
「この者を専属の騎士、護衛にするとなると我々騎士や近衛兵はどうなるのでしょう」
グランツ将軍はゆっくりと、声だけで相手を威圧できそうな声で話す。
「彼の実力は陛下から聞いております。しかし、実際に彼の戦いを見たものは姫様のみです。それでは他の者を説得できないでしょう」
確かに、俺がリリアの専属になるということは今までリリアの護衛をしてきた者の何人かはその任を解かれることになるかもしれない。それに、いきなりただの平民が姫の専属騎士になることに不満が出ないとも限らない。
「つまり、彼の実力を示してほしいと?」
「はい」
「それでは何を討伐させましょうか?人では危険ですから」
「危険?ですか。私でもジャイアントスネークを討伐することができますが」
グランツ将軍が怪訝そうな顔をした。おそらく自分が相手になろうと思っていたのだろう。
「危険です。彼はフォレスレオンを単独撃破できる実力者です」
「馬鹿な!ありえない!」「フォレスレオンを、だと」「そんな人間存在するはずが」
重臣たちは口々に否定する。普通はありえないことなのだろう。グランツ将軍も口を大きく開けている。
「嘘ではありません。私がこの目で実際に見たのですから」
「姫様はきっと騙されているのです。この者はおかしな術を使いますので」
オグゾルが食って掛かる。てかお前もここにいたのか。
「おかしな術とは?」
国王の質問にクラーキスが答える。
「この者は詠唱せずに魔法を使っていました。しかし、それはありえません。何かしらの術を使ったに違いありません」
「詠唱なし、だと」「それはまだ研究中のはずでは」
「静まれ!」
国王の一言で全員が静かになる。
「グランツよ。この者の実力が分かればよいのだな」
「はっ!」
「ではこれよりレイハルトとグランツの模擬戦を執り行う」
「お父様!それは危険だと」
「力が制御できないものをおくのはさらに危険だ。実力とはそういうものだ」
なるほど。自分で制御できてこその力か。
「これより、訓練場に移動する」
どうやら模擬戦は確定事項のようで。俺の意思は無視ですか。