エピソード1-16
少し脅しをかけてみる。何を想像したのかさらに顔が青くなる。
リリアがこちらに歩いてくるといきなり腕を絡めてきた。ん?
「クラーキス伯爵。私はこの男と駆け落ちするわ。公爵にもそう伝えて頂戴」
「はあ!」
「ひ、姫」
驚く俺とオグゾル。
「り、リリア、一体何を」
「お願いだから合わせて!」
小声でやり取りする二人、それをどう受け取ったのか激昂するオグゾル。
「な、なりません。あなたのようなお方がそのような下賎なものとなど」
まあ、そうなりますよな。
「私はもう決めました。この人こそがそうだと」
腕に力を込めるリリア。リリアの胸が腕に押し付けられる。
もしかして、リリアが城を抜けた理由って婚約とかそういった問題?
ものすごくありがちだ。ここはラノベか!なろう作品か!
ん?待てよ。今リリアは何て言った?公爵に伝えろ?国王である親ではなく?
そうなると婚約相手は公爵家の息子?
「なりません!そのようなことを認めるわけにはいきません」
リリアは多分本気で駆け落ちしようとしているわけではない。だが焦っているオグゾルはその可能性に気が付かない。
「ほら、レイハルトも何か言って!」
「そうは言われても」
俺は元の世界では彼女などいたことのない。こういう時に何を言えばいいのか分からなかった。
「き、貴様。姫様を拐かしただけでなく、姫様の心も弄びおって。許さん、許さんぞ!」
謎なことを言いながら激昂するオグゾル。しかし、こちらに向かってこようとはしない。
ていうかリリアさん。そろそろ腕放してもらえませんかね。心臓がドキドキしてやばいんですが。
そんな心の祈りは届かず、それどころかさらに力を込めてくるリリア、ちょいちょいちょい!
しかし、ここで駆け落ちしたとしても追ってはなくならないだろう。それどころかもっと強い奴が来る可能性もある。もしかしたら俺でも勝てないような人も。
追ってからお姫様と一緒に逃げる。それもいいかもしれない。まさしくラノベ展開。
そんな考えを頭を振って追い出す。それじゃあだめだ。下手すると国と敵対することになる。俺の仮説が正しければ、国は味方につけておいた方がいい。それに。
俺は遺跡に行くのではなくもう一つの方法を考えた。この仮説が正しいのかを検証するもう一つの方法。
(王城ならこの国や星の歴史書があるはず)
さらにもっと情報を集めるのだ。この世界が本当に惑星激録の未来の世界なのか。そしてオグゾルもリリアが城に戻るなら拒否はしないだろう。リリアは反対しそうだが。
「リリア、ごめん」
リリアに先に謝罪を入れる。このままでは氷が溶けて死人が出るかもしれない。リリアが不思議そうな顔をして見上げる。
「クラーキス伯爵」
オグゾルは恐る恐るといったふうに顔を向ける。
「俺を王城に連れていけ」
「ちょっ!レイハルト!?」
驚いた勢いで腕が外れる。開放されてうれしいような、残念なような。
「そ、それは、己の罪を認めるということだな!」
少し血の気が戻った顔でそういってくる。こいつ、まだいうか。
「俺をフィルリリア姫を助けた要人として城に招いてもらう」
「ちょっと、レイハルト。どういうつもり!?」
「あとで説明するから」
喰いかかってくるリリアを手で制してオグゾルのほうに向ける。
「き、貴様のような罪人を要人としてだと?」
オグゾルの顔がどんどん赤くなる。奴の中ではレイハルトは罪人確定らしい。
「出来ないのか?」
「あ、当たり前だ!貴様のような下民を王宮に招くなど」
「そうか」
どうやら王城には一般人は入れないようだ。謁見とかもないのか?王様は神にも等しいとかか?昔の天皇みたいだな。勝手に王様にあったら不敬罪で死刑。うん、ありそう。
俺は腕を上げ指を鳴らす格好をする。
「なら、ここにいる全員を殺すことにしよう」
オグゾルがビクッと身体を震わせる。
「ここにいる全員を始末すれば俺たちがどこに行ったのか分からなくなる。いわゆる口封じってやつだな」
オグゾルはさっきまで赤かった顔をまた真っ青に変えている。怯え、焦っているせいで俺の指が震えていることにも気が付かない。
「レイハルト……」
リリアは気付いたのだろう。心配そうな声をかけてくる。俺は大丈夫だと目で答える。
「あんたら貴族は自分さえよければ下々の者はどうだっていいのか。そんなんでよく民衆が付いてくるものだ。まあ、お前も殺すがな」
早く、連れていくって言ってくれ。俺を人殺しにしないでくれ。
オグゾルは歯噛みしながらうつむいている。なぜだ、どうせリリアも付いていくんだからいいじゃないか。それとも何か、リリアを攫われたことにしなければいけない理由があるのか。
「分かりました。あなたを王宮へご案内しましょう」
声のした方へ顔を向けると、いつの間にか気絶から覚めたのか、副官のような男が立っていた。
「な、貴様!なにを勝手に」
「オグゾル様。我々の任務は姫様を城へ連れて帰ることです。罪人を捕まえることではありません。ましてや、彼が姫を攫った犯人だと決まったわけではありません」
「しかし、そうすると私の手柄が」
おい、今こいつ手柄といったか。そんな理由のために渋っていたのか。
「ここで、運よく私たちが逃げ延びたとしても近衛兵を全て失って、なおかつ取り逃がしたとなっては罰は免れないでしょう。ここは彼の要求を飲みましょう」
これなら、何とか王城へ向かう方向へ行ってくれそうだな。副官が優秀でよかった。ていうか近衛兵?私兵じゃないのか。
「レイハルト」
リリアがコートの裾を引っ張りながら、小声で聞いてきた。
「どうして城に行くのよ。私はまだ」
戻れない理由があるのか。これは婚約云々ではなさそうかな。とりあえず理由説明。
「ここで、仮に全員殺して逃げたとしても次の追ってが必ず来る。こいつらよりももっと強い人たちが来るかもしれない。もしかしたら、俺が勝てない相手がいるかもしれない。そうなれば俺たちは終わりだ。そうなるよりは一度リリアを王城に行かせた方がいいのではないかと思ったんだ」
まあ、それだけが理由じゃないが、大体はこんなところだろう。
「確かにそうかもしれないけど」
「何か理由があるのは分かる。でも、このままだとこの国を敵に回しかねない」
そういうと渋々ながらも納得してくれた。
そんな話をしているうちに向こうもまとまったようで、俺たちは王城へ行くことになった。それが決まると凍った残りの兵士をもとに戻した。幸い、死者はいなかった。