エピソード1-14
村についた俺たちは遺跡についての情報収集を始めた。といってもここは農村らしく酒場とかはない。
だから村の人から話を聞くしかない。農村の人は朝から畑で仕事をしているため人はすぐに見つかった。
「遺跡?この近くにはねーな、この先の村のほうならあるらしいが」
すでに持っている情報と一緒だった。誰に聞いても、返ってくるのは同じ返事だった。
「やっぱこの先行くしかないみたいだな」
「ここに遺跡があっても先にも行く予定だったわよ」
さいですか。
「若いのに遺跡に興味あるたーね。歴史にでも興味あるのかい?」
「いえ、トレジャーハンターやってるんです」
「トレジャーハンターか、まあ、気をつけなされ」
この村には宿泊できる場所がないらしいので情報収集をしたのち村を出ることにした。
村からさらに数日。町を出発して1ヶ月経つか経たないかくらいが過ぎたころ、目的の村にたどり着いた。
「遺跡?ああ、あそこか。村からさらに西に行ったところにあるよ」
情報通り。
「でも、あそこは魔物の巣窟だ。今やだれも近づこうとはせんな」
ここでも遺跡は魔物だらけらしい。元の世界では遺跡は観光名所のところもあったから変な感じだ。
「この村で泊まれるところはありますか?」
村についたのが夕方近くだったので遺跡には明日から行くことにした。それに数日滞在するかもしれないし宿泊できる場所があるならそれに越したことはない。
「泊まれるところ、か。ちょっと村長に聞いてくるわ」
村の男性が村長に話してくれたおかげで、一番家が大きい村長の家に泊まることになった。
「遺跡を見に来たんだって?行くなとは言わんがあそこは危険じゃぞ」
村長老夫婦(イメージ通り)と夕食を共に食べているとそう言われた。
まあ、若い男女が二人。狼がいるとはいえ付いてるとはいえ魔物の大群に対応できるようには見えないよな。
「お気遣い感謝します。ですが、私たちはすでにいくつかの遺跡を回ってきているので大丈夫です」
「それはそれは頼もしいのう」
久しぶりの大人数(4人と1匹)での食事はなかなかに楽しかった。
俺の祖父母は生まれる前に死んでしまったらしいのでおじいちゃんやおばあちゃんってこんな感じなのかなと思った。
俺たちは遺跡に来ていた。遺跡は前に行った町の近くの遺跡とほとんど同じだった。違いがあるとすれば四角い箱の壊れ方ぐらいだろうか。
(ここも、やーっぱり見覚えがあるんだよな)
前の遺跡と同じことを感じる。何かないかと探し回るリリア。お姫様が城を抜け出してどのくらい経つのか知らないけど、もう板についてるな。
「ここも何もないわね、薬草くらいかしら」
残念そうなリリア。一通り見終わると、地下へと続く階段の方へ行く。地下の作りも前の遺跡とほとんど同じだった。それ故に、俺は考えてしまう。どこかで見たことあると。
何事もなく行き止まりまで着いてしまった。収穫は特になしだ。リリアは少ししょんぼりしながら帰路につく。
「この国、いや、この星はな、昔はもっとずっとすごかったんじゃ」
村に戻るとおばあさんが村の子供たちに昔話をしている。
「この星のすべてに人間は行っておった。火山が多い場所や、砂ばっかりの場所。そこへ一瞬で行ってしまったんじゃ」
(え?)
俺はその話に聞き耳を立てた。
「どうやって?どうやっていったの?」
「それはのう、何と言ったか、カガクとかいう今はもうないものを使っていたという」
(科学)
「そのカガクを使って、各地を調査していたそうじゃ」
頭がズキリと痛んだ。
「じゃが、この世界には凶悪な魔物が住んでおった。その魔物に人々は滅ぼされてしまった」
「じゃ、じゃあ今いる私たちは?」
「人が全員死んでしまったわけじゃあない。その魔物を何とか撃退したが、家とかは皆壊されてしまった。それでも生き残った人間たちは何とか生き抜こうとした」
ズキ、ズキ。頭が痛む。何か忘れていたことを思い出せとでも言っているように。
「レイハルト、どうしたの?」
「なあ、あの話って」
おばあさんの話をリリアに訊ねる。
「ああ、あれね。あれはこの国に昔から伝わるおとぎ話よ。昔は今よりすごかったなんて誰も信じてないわ」
科学の力、調査隊、強力な魔物。
俺の中で何かが繋がろうとしていた。しかし、何かが足りない。もしかしたら、でも確証がない。
子供たちに話を終えたおばあさんに近づいた。
「なんだい、兄ちゃん」
「昔話の本ってありますか?」
俺たちはおばあさんの家に来ていた。どうやら、昔話をまとめた本を持っているらしい。
「確かおぬしらは遺跡を見に来たんじゃったな。恋人同士で歴史好きとはのう」
「こ、こここここここ恋人!?」
俺が驚いてうろたえる。
「何じゃ?違うのか?」
「俺たちはそういう関係じゃないですよ。旅仲間です」
俺は慌てて否定する。
「恋人、夫婦、結婚」
リリアが何やらすごく険しい顔をしている。恋人同士に見られたのがそんなに嫌だったのか?
少し落ち込んでいるとおばあさんが一冊の本を持ってくる。厚みがあり紙は変色して年代物であることがうかがえる。
「ほれ、これじゃ」
「ありがとうございます。少しお借りしますね」
「いや、おぬしらに譲ろう」
「え?でも」
「わしは子供がおらんからの。墓場にもっていくよりも若い者の役に立った方が良いじゃろ」
少し迷ったが、結局貰うことにした。
それから俺は昔話の本を熟読していった。多くは誰々が魔物を倒したとか、魔王みたいなのを倒したとか英雄譚ばかりだった。
「どうしたのよ、いきなり昔話の本なんか読みだして。もしかしてあの話を信じてるの?確かに遺跡にはよく分からないものも多いけど」
リリアが何か言っているが俺の耳には入ってこなかった。マイクロチップの翻訳機能のお陰でサクサク読むことができる。
読み進めていると興味深い話があった。曰く、
調査隊の幹部の一人が秘密裏に研究を行っていた。その研究を成功させるため調査隊員を利用しようとした。しかし、それは非人道的な行いであった。そのため、調査隊は総力を挙げて彼を止めようとした。それに対して彼は強行策で研究を実行しようとした。それが調査隊を崩壊させる可能性があると知りながら。だか、彼の研究はとある一人の調査隊員によって阻止された。
(惑星激録の3章「オルファル事件」そのままだ)
ゲームとの共通点がいくつか上がっていく。
(1章の「原生生物の反乱」、5章の「外から来た者たち」)
そしてとある単語を発見する。
(ラグナレク)
その単語を見た瞬間また頭痛が走った。そして、目の前に映るのは元の世界のゲーム画面。惑星激録のラスボス、ダークネスラグナレクとの決戦の場面。
「っつ!」
頭痛が少しずつ引いてくる。
(俺は、ラグナレクと戦って、勝ったのか?負けたのか?)
そこはまだ思い出せない。だがこの世界がゲームの未来だとすると負けたのだろう。
(俺が、負けた?おそらくチームメンバーで挑んだはず。それでも負けたのか?)
俺がリーダーを務めていたチームはゲーム内でも上位に入る強チームだ。その俺たちが負けたとなると、一体どれほどの難易度だったんだろう。
ゲームとの共通点、共通の敵の名前。
「確かめないと」
「ん?レイハルト、何か言った?」
「リリア、明日もう一回遺跡に行くぞ」
「え?まあいいけど。結局何も無かったじゃない」
「確かめたいことがあるんだ」
(俺の仮説が正しければ、あそこにはあれがあるはず)
あの遺跡はあそこで終わりじゃない。まだ奥があるはずだ。それにもしかしたら、何かしら生きているシステムがあるかもしれない。
もちろん、仮説が間違っている可能性はいくらでもある。たまたま、本当に偶然、同じことがあっただけかもしれない。
だからこそ、確かめに行かなければ。もしそうなら、俺が呼ばれた理由も分かるかもしれない。
いつになく真剣な顔をしている俺をリリアは少し不思議そうな顔で見ていた。