エピソード1-10
村から村へ結構距離がある。そしてそこに草原があったらこんな奴らが出て来る。
「おや旅人かい?残念だったな。ここは俺らの縄張りなんだわ」
「通行料として有り金全部とそこの別嬪の嬢ちゃん置いていきな」
「今回のはなかなかの上玉じゃないか。なかなか楽しめそうだ。ひひひ」
「……」
盗賊である。それはもうイメージしていた通りの盗賊。その数ざっと20。
武器は短剣に鉈に金棒。ただの棒持っているやつもいるな。そいつらが自分たちを取り囲んでいる。
「はー」
俺はため息をついた。人間を相手にする時が来ようとは。殺しは、したくないな。
「レイハルト、何とかなりそう?」
リリアが聞いてくる。その目に不安の色はない。今までのことから負けるはずないと確信しているのだろう。
「何とかはなる。どちらかというとやりすぎないかが心配だ」
「別に殺してしまってもいいのよ?盗賊だし」
そういうものなのか。まあ現代日本でもこれなら正当防衛が成り立つかな。元の世界に魔法も魔技もないが。
「ひひひ、どうした?置いていく覚悟はできたか?それともここで俺らに殺されたいのか」
「そういや、最近誰も殺してねーな。ちょうどいいから1人殺すか」
「それがいい」
周りの盗賊も笑い始める。どうやら通行料とやらを払ったら通してくれる話はなくなったようだ。
まあもっとも、もともと払うつもりはないが。ていうかなんだ、この盗賊のテンプレは。
俺は弓を構える。
「なんだ、兄ちゃん。俺らと殺り合おうってのか?そんな変な弓一本で?俺ら全員と?」
周りの笑いがさらに大きくなる。この世界の住民からしたら変な弓だろう。
俺は矢を放つ。それを盗賊の一人が鉈でたたき落とす。ガキンと変な音が響いた。
「なかなか腕はいいようだがそれだけじゃあなあ」
盗賊が鉈を肩に当てようとして違和感に気づく。さっきまでより軽い。
「お、おい。お前、それ」
隣にいた盗賊がおびえたような声で盗賊に言う。盗賊は自分の鉈を見て目を見開いた。それはそうだろう。鉈が半分以上折れてなくなっていたのだから。
「な、ど、どういうことだ」
簡単なことだ、あんなお粗末な武器がこの最高レアリティの武器の攻撃に耐えられるわけがない。
矢だって自分でクラフトで作ったもの。最高品質ではないにしろそこらで売っている矢よりは数段良い。
「ちっ!」
盗賊は折られた鉈を放り投げて短剣を構える。
「おめぇら。ビビってんじゃねーぞ!相手は2人だ。袋叩きにしてやれ。」
リーダー格と思われるひときわ体格の大きな盗賊が声を張り上げる。
その声を聞くや否や盗賊どもが一気に襲い掛かってくる。
俺は風の中級魔技である「アル・ウィドウ」をレベル4で起動する。周りに風の渦が起こり、突っ込んできた盗賊たちを吹き飛ばす。
「な、なにが起こった!」
「分からん、いきなり吹き飛ばされて」
吹き飛ばされた盗賊たちは訳が分からないという風に慌てていた。
「ま、魔法を使ったんだ。あの男は魔導士だ」
「馬鹿か、魔法には詠唱が必要だろうが。あいつはそんなことしてなかったぞ!」
へえ、魔法を使うには詠唱がいるのか。
「じゃあなんだっていうんだ!」
「貴様ら落ち着け!」
あーだこーだ言い争っていた盗賊たち。しかし、リーダーの一声で静かになる。
「詠唱がないならおそらく魔道具だ。こんな旅人が持っているとは思えないがそれしか考えられん。そして魔道具は一回使ったら終わりだ」
それを聞いた盗賊どもがまた襲い掛かってくる。
もう魔道具はないと踏んだのだろう。まあ、リリアの話によると魔道具は高価なようだし。
そもそも、魔道具じゃないんだけどな。
向こうが突っ込んでくるのを見ると、リリアとオルガもそれぞれ反対方向に突っ込んでいく。
俺も片手剣に持ち替えて二人とは別の方向に飛び出す。
「なんだ、この犬、ぐあっ!」
「くそ!このアマ!」
オルガもリリアも次々と相手を無力化していく。二人とも何人か殺してるなありゃ。俺も腕や足を切り落とし、無力化していく。人を切るのって、結構精神に来るな。
俺が円の外側に出るとすかさず弓に切り替え、矢を空に放つ。「アローレーゲン」上空に打ち出した。矢が無数の矢の雨となり指定の範囲に降り注ぐ弓の武技である。
矢の雨の範囲にいた盗賊たちはそれをまともにくらい次々に倒れていく。
(やべっ!殺しちゃったかも)
いくら殺しても構わないと言われても俺はもともとただの高校生だ。人殺しには抵抗がないわけがない。
矢の雨を見た二人は自分のほうへ駆けてくる。
二人とも返り血でドロドロ、少し怪我もしているな。
俺は「ケアラ」を使い二人の怪我を直す。
盗賊の中で残っているのはリーダー合わせて3人。二人とも強いな。伊達にトレジャーハンター名乗ってないか。
「ば、馬鹿な、子供2人と一匹にここまで」
リーダーが驚きの声を上げる。歯ぎしりが聞こえそうなほど歯を食いしばっている。
「糞がー!」
リーダーがものすごい勢いで突っ込んでくる。俺は武器を再び片手剣に戻し、リーダーの金棒をジャストガード、やべ!
ジャストガードに成功した身体はそのまま勝手に反撃を叩き込む。
肩から大きく切られたリーダーは力なく倒れこむ。倒れた場所には血だまりができる。
「そんな、お頭が!」
残った盗賊が慌てふためいているようだが俺はそれどころではなかった。自分がこの手で人を殺してしまった。そのことが頭から離れなかった。
「さすがね、レイハルト。レイハルト?」
身体から熱が失われていくような感覚に襲われる。指先から感覚がなくなる。
(俺が殺した俺が殺した俺が殺した)
目の前の動かない死体。先ほど人を斬った感触。大きくなり続ける血だまり。そのすべてが自分で人を斬り殺したことを物語っていた。
(俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した俺が殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を殺した人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を人を、っ!)
「おえっ!」
俺は耐えきれなくなり後ろを向いて吐いた。
「ちょっとレイハルト!」
胃の中の物を出し切ると少しふらふらと歩き、倒れた。