51.じゃあな……
「……百合、大丈夫?」
「……え?」
「いや、なんか顔色悪かったから」
優香にそんな心配されるなんて、そんなに青白い顔をしてたんだろうか。
……秋冬には悪いことしたなと思ってる。
私が義也の誘いに乗ったりしたから、結果としてあいつは春夏を……。
これが全部終わったら、秋冬には全部話そうと思う。
私の気持ちも、全部……。
それで秋冬との関係が終わったとしても……。
でも、なんで義也は春夏を……。
でも、もしかして……もしかしたら義也は、義也も、秋冬を……。
そう考えると、いろいろと納得できることもある。
義也はきっと、許せなかったんだ。
何より、春夏を許せない自分を、赦せなかったんだと思う……。
「……そろそろ着きますよ」
「!」
秋冬、無事にいてよ!
じゃないと、許さないから!
「さて、そろそろかな」
「……?」
意識が朦朧としてきた。
血が止まってない気がする。
このままだったらヤバいような気がする。
「秋冬。
聞こえるか?」
「え?」
義也に言われて耳を澄ましてみる。
心臓の音がやけにうるさいが、それでも遠くからけたたましい音が近付いてきているのが分かった。
「サイレンの音だ。
おまえを助けようとしてる奴らが来てくれた音。
で、俺を捕まえようとする音だ」
「……」
そうか。
みんな、来てくれてるんだ。
「まあ、覚悟はしてたよ。
春夏を突き落とした時からな」
「……」
「でもな。
それは、この音の中で生きるつもりはないって覚悟だ」
「!」
義也は逃げるつもりなのか?
ここまで来て?
こんなことを、あんなことをしてまで?
「……もう、諦めなよ」
「あん?」
「ちゃんと、罪を、償うんだ」
「ふっ。
あはははははっ!
なにドラマみたいなこと言ってんだよ!」
義也は乾いた笑いを湖に響かせた。
まるで泣いているかのように感じる笑い声だった。
「……もう、とっくに諦めてんだよ……」
「……義也?」
からん……という音が聞こえた。
どうやら、義也がバットを地面に落とした音みたいだ。
「春夏のヤツよぉ。
俺のことに気付いてたのに、湖に行ったんだよな。
もしかしたら俺に何かされるんじゃないかって考えはあったはずなのに」
「……きっと、春夏は何とかして義也を、こっち側に戻そうと、したんだ」
「……ははっ。
ホントに、おまえらはホントにまったく……」
義也が僕から離れていくのが分かる。
一歩一歩、僕の姿を見ながら後退っていく。
「……じゃあな、秋冬」
「え?
義也?」
そっちは、そっちはダメだ。
「……何となく、こうなる気はしてたんだ。
そもそも、自分が何より大切に思ってたはずのヤツを傷付けちまったら、もう、ダメだろ」
「よし、や……待って」
待ってくれよ!
おまえまで、おまえまで僕の前から……。
ダメだ。
もう意識、が……。
「……あの世で春夏に土下座でもしてくるわ」
「……まっ」
そして、義也が湖に落ちる音とともに、僕の目の前は暗くなった。
「……春夏、いま行く。
好きにぶん殴ってくれ」
湖に落ちていく中、義也は崖の途中で光る何かを見た。
それは、あれだけ探し続けていた春夏の携帯だった。
「……ははっ。
んなとこにあったのかよ。
そりゃあ見つからねえわけだ」
とっくに充電が尽きているはずの春夏の携帯が光ったのは偶然だったのか。
それを確かめることはもう出来ない。
それを見た義也は、もう……。