5.開いた先には、
「な、なんで……」
僕は思わず声に出していた。
慌てて送り状の日付を確認して、僕はさらに血の気が引く。
「き、昨日?」
あり得ない。
だって、春夏はもう死んでるのに。
僕は昨日のお通夜にも参列した。
その時、ちゃんとお棺に入っている春夏を見たんだ。
それなのに、その日に、これを僕に、送った?
いや、落ち着け。
春夏の名義ってだけで、誰かが生前、春夏に頼まれて送ったのかもしれない。
ん?
頼まれた?
いやいや、それもおかしい。
そうなると、その頼まれた人は春夏が亡くなることを知っていたことになる。
春夏が死んでしまうことを。
自ら死を選んでしまうことを承知で、春夏が亡くなったら、これを僕に送ってくれという依頼を受けた?
いったい誰が。
そんなことを許す人がいるのか?
ダメだ。
考えがまとまらない。
僕はそのことはいったん置いておいて、肝心の本を見てみることにした。
「diary、日記か……」
だいぶ分厚いその本は、表裏両面とも真っ白で、表面に黒字でdiaryとだけ書かれていた。
「……見てみよう」
僕はごくりと唾を飲み込んでから、その本の表紙をめくった。
表紙の裏や、その隣のページには何も書かれておらず、次のページをめくると、
「9月8日……」
1ヶ月ほど前の日付だ。
旅行から帰ってしばらくは頻繁に会ってたけど、このぐらいから、だんだん春夏と会えなくなって、連絡も取りづらくなってきたんだよな。
自分の記憶をたどってみると、この日は春夏と会っていないことに気が付く。
「僕といない時の、春夏の行動か」
僕は、他人の日記を覗くなんていけないことだと思いながらも、あふれてくる好奇心を抑えることが出来なかった。
それに、この日記を送ったのは、僕にこれを読ませるためなのだろうということも、僕の背中を後押しする要因になった。
『9月8日。晴れ』
僕は日記を読み始めた。
ああ。春夏の字だ。
まるで、春夏の声で日記が再生されるかのようだ。
『今日は秋冬と会えない。
残念だなぁ。
まあ、秋冬はバイトだし、しょうがないか』
なんだか読んでて気恥ずかしい。
でも、自分がいない所でも春夏が僕のことを考えてくれてるのは嬉しかった。
『それにしても、2人での旅行は楽しかったな。
美味しいものもいっぱい食べられたし。
また行きたいなぁ』
僕も、また行きたかったよ、春夏……
この日はこれで終わりだ。
なんてことはない。
普通の日記だ。
僕のことばかりで、なんだか嬉しい気持ちになった。
次のページをめくってみる。
『9月9日。曇り。
今日は大学の研究室に行った。
教授から資料を揃えるように頼まれたけど、どれも重くて大変だった。
「量子力学の社会的応用」
「非科学的見地から見る霊と人の在り様」
「未練がアストラルボディーに与える影響」
「3gに何が詰まっているのか」
ウチの教授は大学教授なのに非科学的要素が好きで困るわね。
そういえば、あそこの湖も、教授がとてもキレイだって言って勧めてきたんだった。
でも、行って良かった。
ホントにキレイだった。
秋冬と行けて、ホントにホントに嬉しかった』
そういえば、春夏は大学で量子力学を専攻してるんだったっけ。
なんだか難しそうな本ばかりだ。
それにしても、あの湖は大学の教授の紹介だったのか。
確かにキレイだった。
教授って、どんな人なんだろう。
次のページは、
『9月11日。雨』
あれ?1日飛んでる?
あ、そうか。
10日は僕と会ってたんだ。
あれ?
でもなんで、僕と会った日は日記をつけてないんだろう。
『昨日は楽しかった!
秋冬の家で2人でゲームして、ご飯食べて、ああ、こんな日が、ずっと続けばいいのにな!』
ホントだよ。
ホントだよ!
なんで…………
ダメだ。
また悲しくなってきた。
もう枯れ果てたと思っていた涙が溢れてくる。
ダメだよ、春夏。
僕はもう、ダメだ…………