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44.春夏からのSOS

 秋冬(あきと)


 ありがと。


 大好き』




「……」


「……」


 春夏(はるか)の日記を皆で読み終えた。


「……うっ。

ぐす……」


「……はるかぁ」


 お手伝いさんと春夏のお母さんが泣いてる。

 私もホントは泣きたい。

 でも、今じゃない。

 今はまだ、涙をこらえて考えなきゃ。

 事件はまだ、解決してないんだから。


「……秋冬は昨日、私にこれを渡しました。

自分じゃタイミングをつかめないから、私がここだって思うタイミングで出してほしいって言って……」


 でも、まさかそのタイミングに秋冬本人がいないとは思わなかった。

 あのバカは、いったいどこで何をしてんだか。


「……そうだったのか」


 春夏のお父さんがそっと日記をなぞる。

 まるで、春夏の頬を優しく撫でるように。


 皆が黙ってる。

 感傷に浸ってるんだと思う。

 私もその流れに乗りたくなるけど、まだダメだ。

 もう少しだけ頑張らなきゃ。

 私が話を止めちゃったんだから、私が戻さないと。


「おじさん。

それで、犯人っていうのは……」


「……ん?

ああ、そうだったな」


 私に言われて、春夏のお父さんは思い出したように話を再開する。


「犯人は……」




「えっ?」


「ん?」


 お手伝いさんが何かに気付いて、またしても話が中断する。

 今度はなんなんだろう。


 お手伝いさんの視線の先を見ると、春夏の日記のページが揺れていた。


 もちろん誰も手を触れていない。

 窓は閉まってるし、なんならぶ厚い遮光カーテンまである。


 それなのに、春夏の日記は誰かがめくるように、ペラリとページがめくられた。


「……え?え?

なに?」


「……なんだ?」


 みんな困惑してる。

 当然だ。

 私だって、今の状況を把握できてない。




 そして……、




「きゃっ!」


「ひっ!」


 新しくめくられたページに、文字が書き込まれていった。

 それは乱暴に、まるで急いで何かを伝えようとするかのように、カリカリと白いページを文字で埋めていく。


「ど、どうなってるの?」


「……は、春夏の字だ」


「……え?」


 春夏のお父さんの呟きに、皆がその文字に注目する。

 急いで書いているから乱雑だけど、言われてみると、たしかに春夏の字に見えた。

 丸くて、かわいらしい、でも読みやすくてキレイな字。


「は、春夏?

そこにいるの?」


 春夏のお母さんがどことも知れない場所をキョロキョロと見回す。

 当然のように、そこには誰もいなければ答える者もいない。


 やがて、文字が書き終わり、リビングを静寂が染める。


「おい!

これ!」


「えっ?」


 兼次さんがその文字を読んで声をあげる。

 それにつられるように、皆が日記を覗き込む。

 そこにはこう書かれていた。



『秋冬が危ない!


急いで!


助けて!


早く!


あの湖に!』



「ど、どういうこと?」


 これは、春夏からのメッセージ?

 秋冬に、何か危険が迫ってるの?



 そして、その時、リビングにインターフォンの音が鳴り響いた。











「ついたぜ~」


「ありがと」


 無事に湖の近くの駐車場に着き、義也が車を止める。

 春夏が降りたのと同じ駐車場。

 ここから歩いて少ししたところに、あの湖はある。

 湖の畔まで車で行くことも出来るけど、夕方にはそこの駐車場が閉まってしまうので、この時間だとこの駐車場から歩くことになる。


「……言っとくけど、俺も行くからな。

止めても無駄だぞ」


「……うん。

ありがとう。

お願いするよ」


「お、おう……」


 僕が素直に頼むと、義也は意外そうな顔をした。

 こういう時、僕はだいたい遠慮するからだろう。



 そうして、僕と義也は歩き出した。


 春夏の最期を看取ったであろう湖に向けて……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 春夏が書き込んでいたのか! ファンタジーミステリーみたいな感じなのかな? ああ、結末が気になる!
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