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43.開かれる日記

「もう日も沈みかけていますね。

まあ皆さんも学校があるでしょうし、私も昼間は仕事だったから仕方ないでしょう」


 春夏(はるか)のお父さんがそんな前口上を述べてから話し始める。

 私がこの家に着いた時にはもうほとんど夕日も沈んでいたから、窓の外はけっこう暗い。

 お手伝いさんが遮光カーテンを閉め始める。


「そもそも、ここまで事件の捜査が難航してしまったのは、肝心な証拠がなかったからです」


 それが終わってから、春夏のお父さんが事件について話し始めた。

 私は携帯を握りしめながら話を聞く。

 ふと横に視線を移せば、仏壇の春夏がかわいらしい笑顔を見せている。

 なんとなく、春夏も話を聞いているような気分になる。


 ……なんてね。


「さらには、我々と高梨教授。

お互いが自分たちで犯人を確保しようと躍起になり、互いのことを疑い、互いに調べ合うようなことをして無用な疑いをかけてしまい、その結果、疑うべき対象を増やしてしまった。

それが事件を余計に複雑なものとしてしまったのです」


「……こちらが、初めから手札を晒しておけば良かったのです」


「……いえ、それはこちらも同じ。

そちらの目を誤魔化すような真似をして、結果として解決を長引かせてしまった」


 春夏のお父さんと教授が互いに申し訳なさそうにしている。

 なんのことを言っているのか分からないけど、2人はもう互いのカードを出し合っているみたいだった。

 私たちがここに着く前に話していたのだろうか。


「ねえ、証拠がないって言うってことは、犯人の目星はついてるってこと?」


 私がそう言うと、教授も春夏のお父さんもこくりと頷く。


「……本来は、きちんと立件できる材料がない状態で勝手な憶測を口にするものではないのですが」


 教授が不服そうな顔をしてる。

 もしかしたら、教授の中ではとっくに1人に絞っていたのかもしれない。



「……ん?」



「どうしました?」


「あ、いえ」


 なんだ。

 なんか、鞄の中で、何かが動いたような。


 気のせいかな、と思いながらも、私はそれがどうしても気になった。

 なんだか、いま見ないといけない気がして。


「……あ」


 そこに入れていたのは春夏の日記だ。

 たぶん、きっと勝手に動いたりなんかはしてない。

 私の皆に見せなきゃっていう思いが、私にそう錯覚させたんだと思う。


 でも、なんでいま?


「……なんだ?

何かあるのか?」


 隣に座る兼次さんが憮然とした顔で鞄を覗き込んでくる。

 これから教授たちが犯人が誰なのかを言おうという場面で話を遮ったのだから当然だろう。


 でも、もしかしたら、そんな場面だからこそ、今この日記を出そうと思ったのかもしれない。


「……これ」


 私はそっと、テーブルの上に春夏の日記を置く。


「……それは?」


 春夏のお母さんが不思議そうに首をかしげる。

 どうやら、春夏の両親もこの日記の存在は知らないみたいだ。

 前に見たことがある教授と兼次さんも、なぜ再びそれを出すのかという顔をしてる。


「……春夏の、日記です」


「えっ?」


「なにっ!?」


 春夏の両親が驚いた顔をする。


「……教授。

前に見せたページから、また更新されたそうです」


「……えっ?」


 私がそう告げると、今度は教授たちも驚きを露にする。


「とりあえず、皆で最初から読んでみましょう」


 私はそうして、日記の1ページ目をめくった。











「……暗くなっちまったな」


「そうだね」


 義也の車に乗って数十分。

 まだ明るかった空がいつの間にか黒に染まっていた。

 本当に日が短くなった。

 ついこの前までは、この時間はまだ明るかったのに。

 それでも、すぐにこの日照時間にも慣れてしまう。

 そして、ずっとこんな感じが続くのかと思うと、またいつの間にか日が長くなる。


 夜はあまり好きじゃない。

 なんとなく、世界に自分1人だけのような気がするから。

 明るいのは自分が見えている所だけで、他の世界中の全ては真っ暗で、暗闇から恐ろしい巨大な何かがじっとこちらを見つめているような気分になるから。


 だからなのか、夜明けが好きだ。

 あの世界に明かりが差す瞬間。

 その瞬間が、とてもホッとする。


 そういえば、春夏といる時は夜も嫌じゃなかった。

 むしろ、このまま夜が明けなきゃいいのになんて思ったりもした気がする。

 でも、一緒に朝日を見られた時は、これ以上の幸せはないとも思ったから、結局、僕は都合が良いだけなのかもしれない。


「……なに笑ってんだ?」


「えっ?

……ううん、なんでもない」


 気付いたら、僕はクスッと笑っていたみたいだ。

 現実から逃れようとしているのだろうか。

 これから起こるであろう、悲しい現実から。



「……ごめん、義也」


「ん?

なにがだ?」


 義也が前を向きながら首を軽くかしげる。


「危ないからって僕のことを止めてくれてたのに、結局こうなっちゃって」


「ああ」


 義也はそのことかと頷いた。


「ま、仕方ねーよ。

なんとなく、こうなる気はしてた。

だからこそ、俺はそれに抗ってみたかっただけなんだと思うぜ」


「……そっか。

ありがとう。

どうしても、これだけは僕の手で幕引きしたかったんだ」


「……」


 義也はしばらく黙ったまま車を走らせ、


「……そうか」


 ずいぶん経ってから、それだけをポツリと呟いた。





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