40.春夏の言葉
『秋冬へ……。
なんて、改めて書こうと思うと言葉が出てこないね。
うんとね。
私は、ホントに、ホントに幸せだったよ。
秋冬と付き合えて、ううん、秋冬と出会えて、ホントに良かった。
秋冬は人を疑うことを知らなくて、ぜんぜん知らない人にもすぐついていっちゃう感じで、昔っから目を離せなかったね。
私がこっそり秋冬のことを監視してあげてたの知らなかったでしょ。
監視じゃ言い方悪いか。
見守ってあげてた、にしようかな、ね?
でもね、そしたら、いつの間にかね。
秋冬がそばにいないと嫌になってたの。
落ち着かなかったの。
ホントは最初、百合に紹介するのも嫌だったんだよ。
百合は明るくて元気で、もしも秋冬のことを好きになっちゃったらどうしようなんて思ってた。
それどころか、もし秋冬が……って思ったら、もやもやして、苦しくて、ああ、私、秋冬のことが好きなんだなって思ったんだ。
でもね、ホントはこの気持ちは言わないつもりだったんだ。
もしそれで、今までの私たちの関係が変わっちゃったらどうしよう。
もしも、終わっちゃったら……そんな風に考えると、なんにも出来なかった。
なんにもしたくなかったの。
でもね、百合と義也が付き合い始めたって聞いて、思いきって百合に全部相談してみたんだ。
そしたら、なんかいつの間にか義也にも伝わってて、それでいつの間にか卒業旅行の時にあんなことになって。
それで……。
ふふ。
秋冬、真っ赤な顔してたね。
まあ、人のこと言えないけど。
でもね、皆がいる手前、あんまり顔には出さないようにしてたけど、ホントにホントに嬉しかったよ。
夢みたいって思った。
ホントに夢なんじゃないかと思った。
それからはずっと幸せの連続だったな。
いろんなとこに行ったね。
毎日のようにご飯一緒に食べてた気がするよ。
映画は、2人とも寝ちゃってたね笑
カラオケは、秋冬が意外とうまくてびっくりしちゃったよ。
……旅行も、ホントに楽しかったね。
湖、キレイだった。
キラキラ光る湖をキラキラした顔で見てる秋冬、かわいかった。
ううん、カッコ良かった……。
秋冬は私にとって、ホントに大切な人。
だから……、だから、危ないことはしてほしくない。
私は、秋冬を守りたい。
だから、私は行くよ。
何が起きるかなんて分からないけど、このままだったら、絶対秋冬にとって良いことにならない。
だから、私は行く。
決着を着けなきゃ。
じゃなきゃ、きっと後悔する。
安心して。
大丈夫。
秋冬は私が守るから。
でも、もし……。
もしも私に何かあったら、秋冬は私のことは忘れていいよ。
間違っても、私のことを調べようとしないで。
私はそれでいいから。
秋冬に幸せになってほしいから。
秋冬が幸せになってくれれば、それでいいから……。
きっと、これも秋冬が見ることはないと思う。
でも、書いておきたかった。
私が頑張った証を。
これぐらい許してね。
私の、最初で最後のワガママ。
秋冬。
ありがと。
大好き』
「……」
声が出ない。
涙が溢れてくる。
もう、とっくに枯れ果てたと思ってたのに。
春夏……。
「ここに春夏がいなきゃ、意味がないのに……」
春夏のいない世界で、幸せになんてなれるわけないのに……。
冬の訪れた昼間は、太陽の力も弱い。
熱いのは僕の目頭だけで。
部屋も僕も、世界も、色を失ったすべてが……ただ寒かった。
「……春夏。
ごめん。
僕は、やるよ」