4.届け物
コンコン。
部屋をノックする音が聞こえる。
春夏以外に、この部屋に来る人なんていない。
どうせセールスか何かだろう。
コンコン。
しつこいな。
宗教の勧誘か?
おまえら、春夏を生き返らしてくれるのかよ。
無理だろ?
ならいらないよ。
コンコン。
…………
コンコン。
ほんとにしつこい。
なんなんだ。
「おい!
秋冬!
いるんだろ!
さっさと開けろよ!」
この声は、
「義也か」
声の主は義也。
僕と春夏をくっつけるためにひと芝居うった立役者だ。
僕ははぁと溜め息を吐いてから、のろのろと腰を上げる。
ようやく玄関までたどり着いて、ドアを開ける。
「よお……なんつー顔してんだ、ったく」
僕の顔を見た義也は呆れた顔をしてた。
義也に言われて、玄関横の鏡を見る。
この鏡も、春夏に言われてつけたものだ。
出掛ける前の身だしなみチェックが大事!だそうだ。
「ははっ。ほんとだ」
本当にひどい顔をしてる。
頬はやつれて、隈もひどい。
骸骨に皮をかぶせたって感じだ。
「ほれっ。
お前、コンビニおでん好きだろ。
買ってきたから一緒に食おうぜ」
義也が手にぶら下げたコンビニ袋を見せながら勝手に上がってくる。
「……食欲ない」
そう言う僕のことなんて意に介さず、
「俺の分もあんだよ。
んで、俺腹へってんの。
食わねーなら、お前の目の前で食ってやっから、場所だけ貸せよ」
義也はそんなことを言って、布団のないこたつが置かれた床に腰をおろした。
「ほら。
お前からしなしだろ?
ちゃんと箸も2膳もらってきたんだぜ?」
そう言って勝手におでんを食べ始めた義也に負けて、僕も席につく。
久しぶりに食べたおでんは、確かに少しだけ美味しいような気がした。
義也は高校から付き合っていた百合と別れたと告げてきた。
価値観の違いとか、よく分からないことを言っていた。
そのあとも、大学の学食のカレーが美味しくなくなったとか、教授の鼻毛が気になって授業が頭に入ってこないとか、本当にどうでもいいことを話して帰っていった。
「何しに来たんだ、あいつ」
僕は呆れつつも、変になぐさめたりしてこない所に義也らしさを感じて、その軽さが逆に嬉しく感じたりもした。
久しぶりにちゃんとしたご飯を食べて、僕はほんとに久しぶりにちゃんと寝れた気がした。
春夏の夢を見た。
あの湖でキラキラ輝いた瞳で僕を見る春夏。
でも、どこか悲しそうな顔をした春夏。
何か言ってる。
口を懸命に動かしてるけど、なんて言ってるのか聞き取れない。
何かの音が邪魔をしている。
うるさい。
春夏が僕に話してくれてるのに、何で聞き取れないんだ。
なんなんだ、この音。
もう。
「うるさいなっ!」
僕はハアハアと呼吸を荒くしながら目を覚ました。
ピンポーン!
「すいませーん!
宅急便でーす!」
玄関から声が聞こえる。
先ほどから何回もチャイムを鳴らしてたのか?
この音のせいで春夏の声が聞けなかったのかと恨めしい気持ちになりながら、寝ぼけ眼をこすりながら玄関のドアを開ける。
伝票にサインをして荷物を受け取る。
「何か頼んだ覚えないんだけど……」
まだ眠気を帯びた頭をぼりぼりとかきながらテーブルに荷物を置く。
届いた荷物は、A4ぐらいの大きさで、10cmぐらいの厚みのある箱だった。
丁寧に包み紙にくるまれている。
「なんだろう」
僕は不審に思いながらも、その箱を開けることにした。
ガサガサと包み紙をはがす音が部屋に響く。
出てきた段ボールをあける。
「……本?」
出てきたのは1冊の本だった。
「あ、そうだ」
僕はそう言えばと、包み紙に貼られた宛名伝票に目を移した。
「……え?」
そこに書かれていたのは、差出人『橘春夏』の文字だった。