アハンとうふんおねーさま♡
この作品は「N0465GX」の二次創作です。作者より許可を頂いています。
私、アハン役を拝命しました。
あたしことアハンは、うふんおねーさまには決して言えない秘密があります。
家族愛ではない、姉妹愛ではない、『ソレ』。『ソレ』と言う感情に、『ソレ』を表す名を付けることは未だにしていません。
『ソレ』を名付け、はっきりと自覚してしまったら、あたしは……アハンはもう、止まれなくなるから。
あたしが道を外れた者として後ろ指をさされるのは構わない。ただ、あたしのせいでうふんおねーさまがそうなってしまうのは、許容できない事ですわ。
だから心の奥底に蓋をし鍵をかけてしまいこんで置きましょう。近い未来、おねーさまが素敵な殿方に嫁いで行くその日まで。…………グスッ。
とはいえ、敬愛する美の化身足るおねーさまから離れたり拒絶する事も到底出来るはずもないわけで。今日も『おねーさまのようなレディになりたい』とレッスンをつけてくれるよう頼みます。
慈愛溢れるおねーさまはイヤな顔ひとつせず、毎回「教えて差し上げますわ」と豊かで神気宿る様な美しい金髪を優雅にかき上げるのです。
コレ! この仕草を見たいだけなのですわ! ふさぁ、っと首元にかかっていた髪を後ろへ払うようにかき上げる仕草。その一瞬に見える白いうなじ! アハンキュンキュンします! 胸に刺さってます、疼きが止まりませんわぁ。
今日も『1ふさぁ』ありがとうごさいますわ!
そもそもにおねーさまの金髪、言葉にしてしまえばあたしも金髪なのですが訳がちがいますわ。
おねーさまの髪は1本1本が内側から発光しているに違い有りませんわ!
言語学者におねーさまの髪だけを表現する単語を作らせるべきですわね! 神髪とか、でしょうか……?
そしてその髪をかき上げる、ほっそりとした白く麗しい手……。白魚のような指……何だか生臭い気がしますわ。これも言語学者案件ですわ!
そして毎日欠かせないのはティータイム。美味しい紅茶を飲んだ後、おねーさまは満足げに小さくため息をつきます。
この吐かれた甘い吐息を、肺いっぱいに吸い込めば『うふニウム』の補充完了ですわ! 一晩中だって闘えますわ!
今だけ、今だけはおねーさまの微笑み、美貌、一挙手一投足にいたるまで、吐息ひとつでさえもアハンだけのもの! ……今だけは。
今日はぽかぽかとした小春日和、こんな日は必ずと言って良いくらい庭の一望できるガーデンテラスでティータイムですわ。
美しい春の花をうっとりと眺めるおねーさま。そのお姿ををうっとり眺めるあたし、眼福ですわ。
ずっと眺めていたい気もしますが、おねーさまの透き通るようなお声が聞きたくなりましたわ。
「うふんおねーさまぁ。レディとして、一番大切なことって、なんですの?」
「アハンちゃん。良い質問ですわね。それはね、いつも花でいることです。このカトレアのように美しく、笑顔でいることですわ」
はあぁぁ、鼓膜を打つおねーさまの美声。鈴の鳴るような……全然、おねーさまのお声が表現されていませんわ! 何百何千といた言語学者は今まで何をしていたんですのっ!
さすがはおねーさま、含蓄のあるお言葉ですわ! カトレアの花もおねーさまに名を呼ばれて喜んでいますわ! どのカトレアの花言葉はおねーさまを讃えていますわね。おねーさまにぴったりのお花。……アハンはアンスリウムですわ、悪い方の……。
しかし、この美しい声もいずれはどこかの殿方に愛を囁くために使われるのでしょうね。胸がちくちく痛みますわぁ。
いっそアハンにも素敵なお人が現れれば、『ソレ』を塗り潰して下さいますかね?
「おねーさまぁ。アハンもいつも笑っていられたら、アハンだけの王子様が現れるのでしょうか?」
あぇ? お、おねーさまぁ? そんな怖い顔、初めて見ましてよ!? ど、どうしたんですの?
アハン、何かまずいこと言いましたかぁっ!?
「アハンちゃん。あなたには、まだ恋は早くてよ。恋がしたいのなら、まずはレッスンをしてからでないと。大切なアハンちゃんを、おかしな男性に取られてはたまりませんもの」
……どゆこと? 『レッスン』? 恋の??
っ! おねーさまが恋のレッスンをつけてくださいますの!? え? もしかして、手取り足取り……あんなことま…………ムフン。
はわわわわ、どうしましょうどうしましょう!
はわわ、わっ、頬にひんやりとした感触、びっくりしましたわ。あぇ? おねーさまのやわらかい手があたしの頬を撫でてるっ?
何が起きてますのっ? 怖いおねーさまとはまた違う表情ですわ。……哀しい? いや、せつないですかね……?
おねーさま、何か小声で囁いていますわ。
「アハンちゃん.....わたくしの、アハンちゃん......」
はっきり聞き取ったとたんに、頬の熱を奪うはずの冷たいおねーさまの手に撫でられる度に、どんどん熱が上がって行きますわ!
頬から顔、耳の先まで熱が伝わり真っ赤になっているのが鏡など見ずとも分かりますとも。あっあぁ、熱いですわぁ。
ふと見ればまたも初めて見る表情のおねーさま。何だか瞳がどろりと濁っているみたいな……。
えぁ? おねーさまのお顔が近付いて来ていませんかっ!? どうしたのです!?
「うふんおね〜さまぁ〜......」
あれっいつもと違う甘い声が出てしまっ、ちょ、あぁああおねーさまちかいちかいちかいちかいっ! あついあついあつい!
アハンの、心臓、ばくばく、キコエチャ…………。
意識が浮上して、はっとおねーさまを見やるとシャンと姿勢正しくティーカップに口を付けておられる。先程までの情念宿す瞳をしたおねーさまはどこにもおらず、春のやわらかな陽射しにいつも通りのお姿。神々しい。
きっとぽかぽかとした陽光に、いつの間にか微睡んだあたしの妄想が見せた夢幻だったのでしょう。がっかりしょぼん、残念ですわ。
少しの間がっくりとうなだれていましたが、視線を感じて顔を上げれば、普段通りの美しい微笑みであたしを見つめるおねーさま。
ほんの刹那、ぺろり、と小さく、紅い舌が見えた気がしました……。