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第四話 魔術

 

 現在、アラン・アルペンハイムは呆然としていた。

 恐らく相当アホな顔をしているだろう。

 それは自分でも自覚していた。

 理由はもちろんながらフレイヤの『魔術師』発言にある。



「魔術が使えるから携帯食料以外の、火をつける道具やら何やらがいらないんだ」



 え、ちょ、ちょっとまって。

 この人今、魔術師って言ったよな。

 しかもちょっとドヤ顔で。

 魔術ってのはあれか、いわゆる魔法てきなやつのことだよな。


 俺は考える。


 この世界で魔法と言ったら絵本や小説の中の話で、現実に魔法なんてものは認知されていないはずである。

 少なくとも自分は十一年間生きてきて魔法を使える人なんて見たこともないし、聞いたこともない。


 何回も考え直すが、もはや考えるまでもないのである。そこから自ずと導き出される答えは一つだった。


 この人、ちょっとやばい人だ……。


 数秒間フレイヤの顔を見つめるが、至って普通の顔をしている。

 ふざけている訳ではないらしい。

 もし予想通りなら、そんな変な人とは今すぐに関わり合いをやめた方が良いのかもしれない。

 しかし曲がりなりにも命の恩人である。

 だからそんな失礼な態度を取るつもりはない。

 が、魔法を本気で信じている人なんてのは正直自分の専門外であるので、そこらへんはスルーしてノータッチでいこうと決意する。


 そこでふと思い出す。

 そういえばあの時どうやって熊を倒したのだろうか。



「もしかして、魔術を知らないのか?」



 そんなことを考えていて挙動不審になってしまっていたらしい。

 フレイヤは不思議そうな顔をしてそんなことを聞いてきた。



「ま、魔術っていうか魔法のことですよね?よくおとぎ話や絵本で出てくる。だ、だからし、知らないこともないですよ」



 俺は少し動揺し、声が上擦ってしまう。

 フレイヤは一瞬だけ眉を顰めるが、すぐに得心したような表情へと変わる。



「そうか、なるほど。知らないのか。こんな田舎の村まではまだ情報が届いていないということか。それにしても遅すぎるような気もするが……」



 フレイヤは何やら勝手に納得して、勝手に疑問を抱いたようだった。



「いいか、アラン。よく聞け。これは今や王都では常識になっている話なんだが……」



 そう言ってフレイヤは語り始めた。

 その内容は驚きのものだった。



 約十年前、『魔石』と言う物とそれにまつわる幾つかの文献が、古代文明の遺跡から発見されたらしい。

 その魔石なる物が何なのかはまだ詳しくは分かっていない。



 ただ、魔石は特別な性質を持っているらしい。

 それはエネルギーを蓄え、変換することができるというものだ。

 変換するというのは、そのエネルギーを仕事として取り出せるという意味である。

 またその仕事によって分子を結合させたり、分裂させたりして、何もないところから水を出したり炎を発生させたりする光景がまるで魔法のように見えたため、それにならって名付けられた。


 魔法のような力、だが科学によって裏付けられた魔法ではない力。

 それが『魔術』。


 フレイヤは魔術が発見された当初から存在を知っていて、早い段階から独学で勉強していたようで、今ではそれなりに名の通った魔術師らしい。



「見ろ。これが魔石だ」



 フレイヤは左薬指の指輪を見せてくる。

 先端には血赤色の宝石のようなものが嵌っていた。

 それは彼女の髪、そして瞳の色と調和していて、とても美しく見えた。



「魔石には変換できるエネルギーの総量に限度があってな、その総量、エネルギーの変換効率によって名称が変わったりもするんだ。この指輪は上級魔石の一種、『賢人の魔石』が嵌っている指輪だ。これより上のランクは『聖人の魔石』、『君主の魔石』なんかがある。逆にこれより下は下級魔石で特に名前はない。そこから『ノーネーム』なんて言ったりもするんだけどな」


「なるほど。確かに魔石なるものの性質が本当だとして、それが存在したら、理論としては成り立っている……。にわかには信じ難いですけど」


「まあ私も最初は半信半疑だった。だからこう言うのは一度見せた方が早い。……燃え移ると困るから火魔術はやめた方がいいか。水が無難だな」



 そう言って左手の内側を宙空に向ける。

 すると手の上方の空間に拳大の水が発生する。

 それがみるみるうちに透明さを失っていく。

 パキパキと音を立てながら白い冷気を出し、最終的には先端の尖った氷となった。


 そして、フレイヤは軽く手をスライドさせるように動かす。

 するとその氷が急速に動き出し、近くにあった木へと突き刺さる。


 俺は唖然として、氷の刺さった木を見つめる。


 周囲にしばしの沈黙が流れる。

 氷からは水滴が落ち、それが木を伝って地面へと到達する。



「どうだ?これで信じられるだろう?」



 フレイヤがドヤ顔を浮かべてそう言う。

 さっきはヤバイ人と思ったこのドヤ顔も、今回は狡猾そうな、いやらしい笑みに見えた。


 驚きやら感動やらで声を全く出せなかったが、何度も何度も頷いた。


 この日、俺は初めて『魔術』という存在を知った。



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