2011年6月 寅蔵、なぜか徐々に……
ここ一、二週間くらい、少しずつではあるが寅蔵の様子が変わってきた。
まず
・昼間ダラダラ寝なくなった。
・逆に、夜いつも九時には寝ているのに、十時過ぎまで起きていることもある。そして、何か話したそうにヨシコら家族の周りにいる。
・デイに行かない!と言ったりやはり待ってみたり、デイの存在が一体何ぞや? と考え始めたようだった。
・少し、つじつまの合う会話になってきた。
・夜、拒否しがちなお風呂に進んで入る。
・草取りや自分の寝室のそうじなどをある程度、手順をふんでやっていることが。
つまり、やや、認知症の状態が軽くなってきたような……。
要因は何だろう? ヨシコにはよく判らなかったが
・陽気が暑すぎもせず、寒すぎもせず過ごしやすいので動くのが楽になった。
・飲み薬が半分に減って、尿量のコントロールをしていた薬をやめてみることになった。今飲んでいるのが、血圧の薬とアリセプトのみ。それで、アリセプトの効きがよくなったのか?
しかしこれは、認知症の進行を抑えるだけで、認知症そのものをよくするとは聞いてないし、他の薬との因果関係も解らないので何とも言えない。
・デイサービスで、たくさんの人と関わって軽い運動もしているのが効果をあげてきたのか?
他の家族は、今まであまりにもトンチンカンな言動に振り回されてきたため、寅蔵がやや普通に戻ってきたことにあまり気づかず、日常と同じように接しているのだが、あまりトラブルもみられず、表面的には少し落ち着きを取り戻したような感じがしていた。
少しでもよくなってくるとよいのだが、とヨシコは横目で寅蔵を見ながら思う。
でも車運転する! とかまた言いださなければいいけどなあ、とも思ったり。
それでも、洗濯済みの寅蔵のズボンを干していたら、ポケットから子どものハンカチが三枚ほど出てきたので何だかやっぱりな~って、逆に安心してしまったヨシコだった。
認知症、ありがちだけど日々いろいろ考えさせられること多し。
六月某日
デイがない日。
一日家にいるのでどうかな~とヨシコが思っていたら、朝は五時半頃から起き出し、外で何やらやっている。
朝ご飯の後、所在なげにうろうろしているので
「庭と畑境の草を刈って」
と頼んでみると、鎌がないからなあ、という。
鎌を捜さねば、というのでヨシコ、久々に寅蔵の車もカギを開けてみた。
寅蔵は、片づけながら丁寧に中を捜している。
車内から鎌が見つかったので寅蔵は草刈りを開始。
……と思ったら、もっと強力な武器・草刈り機を使っているでは。
油も自分でさし、エンジンもかけたら動いたと言って、喜んで働いていた。
家の周りもすっきりして、午後はもう休むのか? と思っていたら、今度は山の畑に行きたいと言う。
剪定鋏を捜しに行きたいが、というのでヨシコは寅蔵を車で山まで連れていく。
調子がよければ歩いて帰る、というので、さすがにヨシコは心配になる。
高低差がけっこう激しいし、それに実は前回、ひとりで山に置いた時、
「農道脇に死んだ犬が捨ててある!」と大騒ぎして、慌てて降りてこようとしたことがあった。
「誰かが猟に連れてきて、ケガしたから殺して置いてったに違いない!」
と、非常に憤慨していたのだが、ヨシコが見に行ったら、犬かと思ったらしい茶色の塊は、捨ててあった米の袋だった。
そんなこともあったので、心配だから畑で待っててとヨシコはさんざん言ったのだが、
「いや、こないだは頭がどうかしてたが今日は大丈夫」
と自信たっぷりに言うので、とりあえず二時間程ほったらかしにしてヨシコは買い物に出かけた。
ヨシコが自宅に帰ってくると、寅蔵、歩いて山から降りてきたようで先に家についていた。
さすがに足がタイヘンだったらしく、ちょっと様子がヘンだったが、それでも夕方には回復する。
その夕方から、今度は鎌で家の前に残った草を刈ってる。
半年ぶりくらいに、一日中つじつまが合っていた、気がした。
本当に、不思議なものである。