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2011年4月 寅蔵、プチ遭難したり

 四月一日・プチ遭難


 さて、デイ初日。


 車は九時頃迎えに来ます、とのことでヨシコはデイ用の支度をして待つ。

 寅蔵は静かにテーブルの所に座っている。

 ちょっと席をたったので、見に行ってみるとトイレに入っていた。

 トイレから出た寅蔵、その後、庭に出る。

 やはりデイ初日なので張り切って外で待つのかな、と思ってヨシコ、ちょっと目を離したら……


 いなくなってしもた。


 それが八時四十五分。

 ヨシコはあわてて近所を捜しまくる。

 車でグルグル走り回り、心当たりの場所もいくつかみて周り、近所にも声をかけて探したが、不思議なくらい見当たらない。

 そのうち迎えの車が来てしまったので、事情を話し深く陳謝。見つかったらヨシコが施設まで送ることにして、いったん帰っていただく。


 ヨシコ、ふと思って、いつも寅蔵が車で行っていた山の畑方面へ行ってみる。

 山の農道にさしかかろうとした時、前方から寅蔵が歩いて降りてくるのに出会った。

 寅蔵、下り道で止まれず、ヨシコの目の前でそのまま道のわきに突っ込んで転ぶ。

 聞くと

「たけのこを掘りに行ったが、しんどくなって降りてきた。でも下りは怖いな~」

 と、案外けろりとした顔でそうのたまう。

 しかし見ると手や頭に切り傷やらひっかき傷が一杯でズボンにも血が点々とついている。

 どうもそこまでも何度も転んだらしい。

 寅蔵を家に連れ帰り、傷にばんそうこうを貼り、着替えをさせる。

 施設に電話を入れてから、ヨシコは寅蔵を車で送っていった。


 夕方帰ってきた時には、指にちゃんと包帯をしてもらい、寅蔵はややこざっぱりとしていた。

 それでもしみじみと

「山は怖いな~」

 と、夜になっても言っておりましたとさ。



 四月四日・厄日。


 午前は平穏だったが、午後になって寅蔵、うろうろし始める。

 今度は鉄の棒で車をアタックしようとしていたので(怒って壊そうとしていたのではなく、真面目に車のドアを開けようとしていたらしい)ヨシコは点字ボランティアに行っている老母の迎えにいく時、同行させる。


 ヨシコが普段乗っている軽自動車は、助手席に電動ウエルカムシートがついており、車椅子の母が比較的簡単に車の乗り降りができるようになっている。

 ちなみに、寅蔵がいつも鍵を開けようと壊しつつある車は、普段から寅蔵が乗っていた、普通の軽ハコのみ。ヨシコのや他の車には攻撃をしかけないのはありがたいことだった。


 さて、母が待つ、とある公共施設に到着した。

 車の電動ウエルカムシートを下げて、車椅子の母を乗せ、またシートを戻そうとしたが、シートが途中で止まってしまう。

 みると、なぜか寅蔵がヨシコの上着を床に敷いていたようで、その裾が電動シートのレールに挟まってしまっていた。

 ヨシコは仕方なく母に降りてもらい、寅蔵と共に施設内で待っていてもらうことにした。

 ヨシコは工具片手に挟まった服をとろうと四苦八苦する。

 そのうち、母が戻ってきて衝撃の発言を!

「おじいさんが、ストマの袋をトイレに流そうとしたらしくて、トイレ詰まっちゃった。水があふれてきてる」

 なんですと~!?

 ヨシコはあわてて建物内に飛び込んだ。

 トイレの、しかも女子側一番奥のブースから水が流れ出しているのが見える。

 ヨシコは意を決し、片手を便器に突っ込むと、案外簡単にストマの袋が取れた。

 施設の方に事情を説明し、モップを借りて水浸しの床を拭く。

 ついでにハサミも借りて、車に戻ってシートに挟まった服の端を切る。

 汚してすみません、と平謝りするも、施設の方は優しく、いえいえ、大変でしたね。とにっこり返してくださった。


 電動シートがとりあえず車内に収まってドアが閉められるようになったので、どうにか両親を車に乗せ、ヨシコは家に帰る。

 さて、ヨシコ家に帰り、シートをちゃんと直そうと更に工具でねじを回してみた。

 しかし、力の掛け方が悪かったのか、ポルトが根元でちぎれてしまう。

 ヨシコは泣く泣くモータースに電話して、車を持っていく。


 こういう時、こういうシートはモータースでは直しようがない、らしい。

 遠く他県の電動シートの会社まで、修理に持って行かれてしまうのだそうだ。

 助手席を丸ごと外してもらい、助手席に妙な空間のできた車を運転して帰る。


 ヨシコ、寅蔵に色々文句を言ってみるが、

「そうか、たいへんだな~」

 と涼しい顔をしている。


 本当は少しは悪いと思っているのか?

 思っていると思いたい。うーん、思いたいぞおぉぉ。


 ヨシコ、心の叫びであった。



 某日・ふだんの様子


 ちなみに今日の寅蔵。


 朝は6時半に起床。着替えに一時間近くかかるが、ヨシコはあえて手伝わず。


 沸かしたお茶をポットに移そうとするが、ポットの扱いが解らなくなり、あっちをひねったりこっちをもぎ取ってみたりしている。

 ヨシコが教えながらどうにか、お湯を移す。

 いつも開けてくれていた雨戸はもう何が何だか解らないため、半分だけ戸袋に入れ、もう半分は閉めたまま。しかも窓ガラスは反対に閉め、すきまから寒風が吹き込んでいる。


 ご飯は三食、言われるままに食べる。

 朝食後はずっと、テーブルにすわったままうたたね。


 昼近く、ベッドに移動するが、周りの服をひっくり返してたたむことを繰り返し、昼ごはんだよ、と呼ぶとそれには反応して、また食卓へ。


 昼ごはんのあとは、何となく座っている。


 そして夕飯も、呼びかけるとまた食卓へ。


 三食しっかり食べたが、それだけでかったるくなったらしく、お風呂には入らずにそのまま寝る。

(気がついたら上下ともパジャマに着替え終わっていた。いつの間に?)


 まあ、そんな日々。

 いつも案外機嫌はいいのと乱暴なところがないのがヨシコには助かっていたが。



 

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