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2012年3月 寅蔵、行きつ戻りつ

 2012年2月末


 寅蔵、うつぶせにベッドに寝たまま、動きがとれず。

 仰向けになってごらん、起きてごらん、とヨシコが色々指示してみたが、寅蔵にはどうにもならない様子だった。

 ようやく立ち上がれたもののすぐに転んでしまうため、ヨシコはやむなくいつもの病院に電話した。

 連れてこられればおいで下さい、と言ってくれたので、寅蔵をどうにかこうにか起こして車椅子に乗せ、車まで連れていって助手席に移す。

 車椅子生活者のばあちゃんのために、助手席が回転して外に出てくるシートになっていたが、しみじみとこれのありがたみを感じるヨシコであった。

 子どもらとばあちゃんのみ残し、何時になるか判らないので夕ご飯を食べていてね、とヨシコは寅蔵を連れて病院に出かける。


 病院に着くと、院長の○○先生が腕組みしたまま、しかしどことなくいつものようににこやかに

「どうする~? 今夜は泊るか?」

 と寅蔵に訊ねた。

 ヨシコには、軽い脱水症状では、と説明し、点滴をしながら様子をみてみましょう、と言って下さった。


 ヨシコは帰ってからひとり、遅い夕ご飯。夜中に病院から連絡があるといけないと思い、久々にお酒をやめて、ケータイを枕の下に敷いて寝る。


 翌朝は看護師の手薄になる七時くらいに来て下さいと言われていた。


 翌日


 ヨシコ、あわてて起きだして、朝食など支度して子どもらを起こす。

 こんな時に限ってばあちゃんが起きてこない。測ってみると、熱がある。

 しかたなく、子どもらが学校へ行くのも見届けずヨシコはあわてて寅蔵のいる病院へ向う。

 いったん寅蔵の世話をしてから家に戻り、ばあちゃんの様子を確認して枕元に水やら薬やら用意してから今度は次男・ととを起こし、したくをさせて学校へ車で連れていく。

 それから病院、家、ととの学校などをぐるぐるする。

 午後になってから○○先生

「うーん……もう一泊してみる?」

 とおっしゃった。脱水状態は少しずつよいようだが、寅蔵は眠っていることが多かった。



 そしてまた翌日


 朝はひとりでも大丈夫のようだから、と看護師さんに言っていただき、ヨシコはやや遅く病院へ行く。

 ヨシコのていしゅも半休がとれたので、ととの送迎など細かいことを頼む。

 この日もヨシコは病院、学校、放課後デイ、スーパーなどぐるぐるする。


 夕方遅く、退院してよし、と○○先生から言われる。

 ヨシコが迎えに行くと、寅蔵はすでに自分で着替えていた。

 しかし、上半身はパジャマのまま、下半身はズボンの下にパジャマ、頭に毛糸の帽子、という格好だった。

 しかも、そのナイスないでたちのまま、布団にもぐって熟睡中だった。

 荷物はやみくもに袋に詰めてあったし。

 寅蔵を起こしてヨシコは荷物を抱え、病院に挨拶して帰る。


 家についてからヨシコ気づく。

 寅蔵は、スリッパのままでした。

 明日は病院に靴を取りに行かねば。



 三月某日


 今日はほとんど寝ている寅蔵、それでも言動については今のところあまりおかしな感じはない。

 このまま春になってくれるといいけど……冬将軍から逃げ切ることしか考えていないヨシコである。



 三月某日真夜中


 枕元のケータイが鳴り、寝ぼけ眼で出る。

 階下のばあちゃんから

「おじいさんが、起き出して台所で何かしてる」

 の連絡あり。

 ヨシコがあわてて降りていくと、キッチンの灯りの下、寅蔵は何かを作っていた。

 何やってんの? と聞くと、いや~と照れ笑いしながらこう答えた。

「おにぎりを作らなきゃ、とずっと気になってたんで、今作ってるんだが……」

 何でも、翌朝の仕事に要るから、とのこと。


 完全にキてますなあ。


 夜の二時だし、今まで風邪をひいて寝てたんだし、病院にも行ったでしょ? と言い聞かせ(あまり詰問口調にならないように気をつけて。オトナなヨシコ)、どうにか、寅蔵にまた寝てもらう。


 夜中に起き出して……というのは初めてのパターンかも知れなかった。


 そして夜が明けてから、朝はトイレで起きたついでの寅蔵に、お風呂に入るようヨシコは声をかける。

 会話の感じはふつうだった。しかも

「歩いてもふらつかなくなった」

 と言ってるし、ゆうべおにぎりを作ったのも覚えていて

「何でそんなことしたのかな~」

 と言ってるし、反応もきわめてまともだった。


 一筋縄にはいかないなあ、認知症め!


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