2012年2月 寅蔵、近ごろにない危機
二月某日金曜日
昼ごはんのあと、寅蔵、何となく足が絡まって歩きにくい、と訴える。
午後、陽だまりに寝転ぼうとするが、以前調子が悪い時よくやっていたような、うつぶせの不自然な姿勢で寝ている。
冷えるから布団に入るよう、ヨシコは寅蔵を起こしてベッドに連れて行く。
夕方、寅蔵はトイレに起きようとしたが、なかなか起きられない。ヨシコが触ってみるとかなりの熱だ。
かかりつけ医に電話して、もしかしてインフルエンザかも、と伝え、とりあえず連れて行く事に。
そんなこんなの間に寅蔵、トイレで倒れて、動けなくなった。
下着だけちゃんと上げてやって、ヨシコは寅蔵をそのまま玄関まで引きずっていった。
玄関でどうにか立つことができたので、何とか車に乗せ、ふたりは病院に。
病院での検査の結果はインフルエンザ陰性だった。
しかし多分そうでしょう、ということで、特効薬のイナビルを処方してもらって帰る。
夜の熱は三十九度近かった。
かなりしんどい様子だが、意識はしっかりしている。
家に帰ってきても歩けないので、車椅子で移動する。
土曜日
熱は下がらず、そのまま寝ている。
手にも力が入らないので、着替えなどはヨシコが行った。
もうろうとした中、寅蔵はストマも外してしまってあたりを汚していたので、布団カバーやタオル、近くで被害にあった服などを半日かけて洗濯することになった。
ヨシコが大丈夫? と聞いても、大丈夫、としか答えない(のに全然動けない)のが困る。
昼過ぎ、ヨシコがふとみたらひとりでトイレに行っている。
あわてて駆けつけたヨシコに、熱が下がってきて歩けるようになったと言う。
お昼ご飯も普通に食べたので、ヨシコは安心してちょっと買い物に出る。
帰ってきたら、寅蔵、またトイレで倒れていた。
本人、意識はちゃんとあるものの、手足が利かないらしい。
とりあえず助け起こし、ベッドまで連れて行く。
日曜日
熱は下がったがほとんど寝ている。鼻づまりがひどく、喉も痛いと訴える。
バナナ一本、ゼリーの小さいのをひとつ食べる。
昼はだいたい普通に食べる。
月曜日
熱もなく、咳もおさまってきたが、寅蔵はまだ寝ている。
昼にようやく起きてきて、バナナ一本みかん二個食べる。果物大好きじいさんである。
夕方遅く起きてきて急に床を指さし
「ムカデがいる」
と慌てている。ヨシコが「床の汚れだよ」と拭きとったが、信じていない。
その後も
「今日は一日田んぼに行って疲れた」
と言うので「何をしに?」と聞いたら、「脱穀」だと。
まるで去年の冬の迷走状態そのまんまだなあ。と、悪夢再びな会話にヨシコぼうぜん。
しかしまだ動き回れないので実害はない、というのがポイント高いや、とすぐにヨシコは開き直ったのであった。
火曜日
朝、ヨシコが風呂場を見たら、蓋が半分桶に落ちており、蓋の上に乾かしておいたマットが二枚とも浴槽中に落ちてぷかぷかしていた。
寅蔵は、というとベッドに斜め横に寝て、足が端から落ち、しかも頭が鉄の柵に当たったまま寝ていたらしく、気分はどう? とヨシコが聞いたら
「腰が痛くて頭がガンガンする」
と言う。確かにその姿勢ならばそんな症状が出るでしょう、とついナレーター口調になりそうなヨシコだった。
体力がなくて、寅蔵は姿勢が自分で変えられないようだった。
すごく寒い、というのでヨシコが手足を触ると冷え切っている。
夜中に風呂に入ろうとして、蓋を落としてしまったらしい。
追いだきをして、朝風呂に入ってもらう。
ようやく体が温まったらしく、動きもスムースになってきた。
朝ご飯は味噌汁とさつま揚げ一枚のみ。
午前中、また半分もうろうとしてストマをとってしまう。
トイレまで行ってやろうとしたらしいが、歩けないとの事でベッドでやろうとして失敗した様子だった。
あちこち汚したので、ヨシコはトイレットペーパーと濡れタオルで拭いて着替えさせた。
お昼だから、と起こすと、ようやく居間に来る。
草もちを二個、子どもに買ったチョコをひとつ食べる。
なぜか目の前に差し出したものではなく、隠してあったものから先に食べるという、不思議なレーダー機能が搭載されている。
その後おむすびを一こ食べる(これは隠してあったのではなく、ヨシコが作って渡した)。
とりあえず言動はあまり変ではないが、細かい作業、例えばポットのお湯を急須に入れる、ということが上手くできていない。手がうまく利かないのか、やり方を忘れてしまったのかがいま一つ不明だった。
インフルエンザがきっかけで、また朦朧状態がぶり返した様子の寅蔵だった。
とにかく、寒いのと冷えるのが体調にもろ影響しそうなので、ヨシコは気をつけて見守ることにした。




