04 チュートリアル?
「お? おお~」
ふわっと風を感じたと思ったら、鬱蒼とした森の中に立っていた。
「ファンタジーデビュー!」
すごいすごい。
土とか木とか空とか。
ちゃんと自然の香りもするし。たぶん。これ自然のにおいだと思う。たぶん。
いつの間にか動きやすそうなパンツスタイルになってるし。これが初期装備なんだろうか。
が、ひとしきりきょろきょろしたところではっと思い出した。
「ステータス見てないしスキルもとってない。というかここ始まりの街? 想像してた始まりの街とはちょっと違うけど……」
チュートリアルもないんだろうか。
ひとまず、視界の隅に点滅しているマークに視線を合わせると、目の前に半透明の板が現れた。
「でたでた! ウィンドウ!」
いや~まだなんもしてないけど楽しいわ。
「ステータスは……これか。えーYES、開きます」
視線を合わせるだけで選択できるって便利。
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名前:はる
種族:人間
職業:テイマー(転職不可)
Lv:1
HP:10
MP:20
攻撃力:7
防御力:7
知力:7
精神力:7
素早さ:7
器用さ:7
スキル:《テイムLv:1》《神の言葉》《》《》《》
称号:《創造神の加護》
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「おお、ラッキーセブン……ちがう、そこじゃない」
そういう事じゃない。
「んん~?」
私、弱すぎじゃない?
「最初ってこんなもん? HP10ってやばくない?」
転んだだけで天に召されそうなんですけど。
「転職不可っていうのも気になるし……まだ条件を満たせてないって事? でもそうなると種族のところも進化不可ってなってないとおかしいような……?」
このラブピは誰しもが最初は人間からはじまり、条件を満たせば『進化』という形で種族を変える事ができる、というのは知っている。
しかしすべてのプレイヤーが同じ条件で進化できるというわけでもない。
というかこのラブピでは攻略情報が他のゲームほどあてにならない。
どのエリアにどのモンスターがいる程度なら参考になるが、クエストの出現条件や、新しいスキルや魔法を覚える条件も様々だ。
同じレベルに職業、スキルを習得していても、ずっと低レベルモンスターを作業のように倒してレベルを上げた人、自分より強いモンスターに挑んだ人、バランスよく倒した人ではやはり色んな部分で差が出てくる。
なのでそういった要素は“神の気まぐれ”とこの世界では呼ばれているらしい。
効率良くレベルを上げたい人や、努力が自分の思った通りに報われないと嫌な人には向いていないと思うが、結果的に“神の気まぐれ”があって良かったと思う人が大半なのでこのゲームをやめる人は少ない。
ってテレビで言ってた。
「まあ転職とか今すぐどうこうできる訳じゃないしいっか。それよりこの《神の言葉》ってなんだろ? 《テイム》はテイムだよね」
じっとそのスキルに視線を合わせるとスキルの説明が表示された。
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《神の言葉》
すべての言語を理解できる
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私の中の思春期がとてつもなく刺激されるスキル。
かっこいい。
これはたぶん共通言語的なスキルかな? 最初からあるし。
違う国に行った時に言葉が通じなかったらさすがに困るよね。
いくらリアルさを追求しているからと言ってもそこまではしないんだろう。
「じゃあ称号は……説明見れないんだ」
称号に視線を合わせても説明文はでない。
加護ってついてるから、おそらくこれは対人対戦をオフにしている人がもらえる称号なんだと思う。
攻撃してきた人を加護で吹っ飛ばすらしいし。これからばんばん守ってもらおう。
わくわくしながら次はスキルを選ぼうとした時、がさっと音がした。
「……え?」
動きをぴたりと止めて息をひそめる。
なに今の音? 風で木の葉が音を立てた?
しかしまた音が――
今度は大きめだ。
(なになに……!?)
確実になんかいる。
なるべく顔を動かさないように、慌てて音の出所を探す。
いた。
少し離れた木の枝にいた。
あれ鳥かな……?
角のようなものが1本生えていて、頭の部分が透明感のある黄色、胴体や羽の部分は透明感のある青。
クリアイエローとかクリアブルーと呼ばれる色に近い。
カラスより大きいな。
(敵……モンスターだよね?)
そのカラフル鳥を見つめながら動くに動けない。
武器になりそうなものは持ってないし、攻撃呪文もない。しかもアイテムボックスも未確認だ。
これはまずい。
始まりの街だと思って油断してた。
これはもしかしてチュートリアルか?
「ぴちゅ!」
「えっうわ!?」
あれこれ考えていたらその鳥がこっちに向かって飛んできた。
無意識にその場から逃げていた。そして全速力で走る。
だって本物っぽいしまじで怖い。ゲームとは思えないリアルさ。
「ひえぇ……!」
悲鳴を漏らしながら鳥から必死で距離を取る。ここ走りにくい……!
が、その鳥は進行方向を塞ぐように回り込んでくる。
完全になめられてる! おい! 鳥!
「ちょっとちょっと……! チュートリアルの最初の敵が飛行型ってあり……!?」
めそめそしながら走っていると、急に景色が開け巨大な木が見えた。
そしてその木に穴――大きな洞があるのも。
あの中にもモンスターがいるかもと一瞬思ったが、もう疲れて走れないしどこかに逃げ込みたかった。
あの場所なら鳥も思うように私に攻撃出来ないだろうし。
最悪素手でやってやるわ。鳥め。
いろいろ覚悟を決め、木の洞に飛び込んだ。