03 そこそこ決めた
始まりの街が50ヵ所もあるという事実。
もう始まりの街じゃなくて普通に街の名前をつけたほうが親切だと思う。
でもエリアの広大さはよくわかったので、身バレの心配はそこまでしなくても良さそうだ。
「しばらくは1人でのんびり進めるつもり」
「そっちの方がいいよ! じゃあさっそくはるちゃんの分身をつくっちゃお~。女の子でいいんだよね?」
「あ、はい。えーと、どうやって?」
もしかしてこれは『ステータス オープン』的なセリフの登場か?
「どんな感じにしたいか僕に言って~」
「えっ」
……まさかの口頭での説明。
しかもこの球体AIはボクッ娘でなければ男性設定のようだ。
「えー、目はとりあえず今より大きく。ぱっちり系で」
「こんな感じ?」
「おお~」
ぱっと目の前に現れた鏡に映った、見慣れた私の目が大きくなった。
「良い感じ。あ、まつ毛増毛できる? ばさばさしたい」
「任せて!」
「鼻は気持ち高めで」
「高めね~」
「口元はアヒル口が似合いそうな――」
目の前に現れた鏡を見ながら、不自然にならない程度まで可愛さをアップさせていく。
ぱっと見10人中6人が可愛いと思うかもしれない顔、だったらいいなあ。
だが、髪の色を決める段階で、これまでノリノリだった球体AIにこちらが出した要望を却下された。
「白い髪はやめた方がいいかも!」
「……なんで?」
「ほら、はるちゃんはこのパッションピンクの方が似合うよ!」
この日本人顔に似合ってたまるか。
「パッションピンクはなし。じゃあ黒髪の編み込んだ感じの可愛さ重視の髪型で。あとツヤツヤにして欲しい」
「おっけ~」
こうして出来上がった【はる】はそこそこモテそうな良さげな感じに仕上がった。
後でめっちゃ自撮ろう。
そしていよいよ職業を選ぶ時がきた。
「はるちゃんの生体情報だと……はい、この中から選んで~!」
球体AIがそう言うと、目の前に職業一覧がだだだっと表示された。
「おお~。けっこう選べる」
オーソドックスなものは大体網羅されているようだ。選択肢があって良かった。
過去には選べる職業が1つしかない人もいたらしいし。
よっぽどの天職だったんだろう。
そんな中、私にピッタリのものを見つけた。
「テイマーだって! こんな職業あったんだ!」
「今回のアップデートから実装されたんだ~」
「もしかしてこれってレアな職業?」
特別感にワクワクする。
「もう10万人くらい選んでるよ~!」
「多い!」
全体数から考えると少ないのかもしれないけどすでに10万人って。
「んーでも職業はテイマーで」
「だと思った! じゃあ次は対人設定関係を決めるよ!」
「あれ? スキルとかは?」
「それは後のお楽しみ!」
「ふ~ん」
その後は環境設定的なものをいろいろ変更していった。
プレイヤーに攻撃できるされる要素はもちろんオフにした。怖いし痛さもそのまんまらしいし。
PKプレイをしたい人、それを返り討ちにしたい人はオンにしているが、設定の違いはその人に攻撃するまでわからない。
オフにしている人を攻撃すると、世界の神とやらの加護が働き攻撃した人は何かにはじかれたように吹っ飛ぶのだ。激痛を伴って。
しかも一定期間体が黒い靄に包まれるので何をしたのかは一目瞭然だ。
それでもPKプレイしている人は一定数いるらしいので、どこの世界にも猛者はいるんだなと思う。
そして流血表現もオフに。グロテスク反対。
敵に攻撃をあてた時はばーんとゲームっぽいエフェクトが出るようにした。
その他諸々の設定も球体AIに質問しながら設定。
ダメージを受けた際の痛みとかはもちろん最小限に。
ゲームの世界に没頭してもらいたいはずなのに、この辺の設定を変更できるのはさすが名前にラブ&ピースとつけるだけある。
「さ、最後に注意事項!」
「え? もう終わり?」
スキルとか選んでないんですけど。
眼鏡少年が言うには重要らしいんですけど。
あとアイテムボックスの中身とか装備とかステータスも確認してない。
「えー、この世界はいろーんな国のいろーんな考えの人達が生活しています。個人の常識が異なるのは当たり前です。それによって楽しい思いをする事も嫌な思いをする事もあるでしょう。また、世界は常に流動しているので、この世界の住民次第で国や土地がなくなったりつくられたりもするでしょう」
私の話聞いてないしその口調なに。
卒業式の校長先生みたい。
「それらも含めてこの世界、“エスクベル”を自由に楽しんで下さい。――はるちゃん、幸せな日々を」
「……はい」
球体AIから何かよくわからないが、愛情みたいなものが感じられた。
最初苦手なタイプだと思ってすまん。
「はい、これで僕のお仕事は終わり。でも変な奴がいたらばんばんGMコールしてね! セクハラなんかはばんばん垢BANしちゃうから! あ、ねえ、ばんばん垢BANだって! ばんばん! プーッ!」
うわ……。
「では始まりの街へいってらっしゃ~い!」
「え!? ちょ!? まだスキルも決めて…………!」
私の抗議にもかかわらず、球体AIの笑い声を聞きながらまた白い光に包まれた。
「あ、はるちゃんの場合は始まりの“島”だった! まいっか!」