02 いろいろ決める
「いらっしゃ~い!」
突然そんな声が聞こえてきた。
そしてその声をきっかけに、白い光がだんだん収縮していき、うっすら光っている半透明の正方形の箱の中に自分が立っているのがわかった
「おお~。すごい、リアル。よくわかんないけどリアル」
目をぱちぱちしながら光に慣らし、半透明の壁にそっと手を当てる。
今私は家のベッドに横になっているはずだ。
でもきちんと体は動くし声も出る。
やっぱりすごいなこのゲーム。
「なんだろこの壁の感触……」
「お~い、こっちこっち~!」
壁をぺたぺた触っていると、先程と同じ声がまた聞こえてきた。
「こっち~?」
きょろきょろしていると、目の前にぽんっとテニスボールくらいの光る球体が現れた。
「うわっ」
「驚いた? 驚いた? サプラ~イズ!」
「はあ……」
どうしよう。
苦手なタイプきた。
「LOVE&PEACE ONLINEへようこそ! ここからは僕がお助けしてあれこれ決めていくよ~。いろいろ聞いてね!」
これはゲーム内のAIというものだろうか。
どういう経緯でこういう性格になるのか気になるところだが、本当に人間っぽい話し方をするのには驚かされる。
「……よろしくお願いします」
「良い返事! じゃあまずははるちゃんの名前から――もう【はる】でいっか!」
「え? ちょっとあの」
このAIいきなり何言ってんだ。
「カタカナで【ハル】の方が良い?」
「いやいやいや、そういう事じゃない。なんで現実と同じ名前――というかなんで私の名前?」
「はるちゃんてばおばかさん! 本名を登録したでしょ~?」
「あ、そうだった」
「じゃあ名前はひらがなカタカナどっちにする?」
だからなんでその2択。
「ゲームのキャラに本名はちょっと……」
「今なら『はる枠』空いてるよ! それに“はる”って可愛い名前だよね~」
「……じゃあひらがなの【はる】で」
他に良い名前も思いつかないしさ。せっかくの提案だしさ。空いてるしさ。
「けって~い。じゃあ次は外見いっちゃおう!」
「あのプラチナブロンドとか良いなって思ってて目も大きくして瞳の色は紫とか赤とか考えててあと胸はもう少し大きくして程よい筋肉つけて引き締まった体にして背も少し高くして髪は思い切ってショートでもいいかなってやっぱあえての黒髪でも――」
「はるちゃん積極的!」
2時間くらいかけて作成したい。
今の現実の姿から変更する事になるからありとあらゆる願望を詰め込みたい。
「はるちゃんの希望はわかったけど、この世界を思いっきり楽しみたいなら完璧な容姿に近付けない方が楽しめるよ! まあ人にもよるけどね」
「ん? どういうこと?」
「顔なんかは素人が比率も考えずに手を加えるとどうしても不自然な感じになっちゃうし、そんな容姿をしてるのなんてプレイヤーくらいってこと!」
「……なるほど」
このLOVE&PEACE ONLINEでは、プレイヤーとNPCを見分ける表示が存在しない。
より世界に没頭してもらうためだそうだ。
NPCだけじゃなく、敵も体力ゲージのようなものも含めて表示されない。表示するにはそれに見合ったスキルが必要になってくる。
現実の話を出せばすぐプレイヤーだとはわかるが、そうする人は結構少ないらしい。
ロールプレイというやつだなと勝手に解釈している。
真偽は不明だが、NPC役として生活をしているプレイヤーもいるらしい。
どこかの資産家が王様役をやらせてほしいと大金を積んだとかなんとか。
NPCもプレイヤーと同じいわゆる『ステータスウィンドウ的なもの』を操作できる仕組みになっているので、より区別がつかなくなっている。
インターフェースがどうのという上司の話は話半分に聞いていた為わからない。
NPCをフレンドに登録できるが、ログイン状況なんかも全員表示されないらしいので、ほんとただのアドレス帳代わりなんだろうなとは思う。
「あーじゃあ残念だけど、髪の色と目を大きくして可愛くする程度にとどめておこうかな? あと口と鼻少しいじって。体型は装備でごまかせると思うし。あ、名前と私の姿で個人を特定されない?」
どうしてもうっすら私の名残があると思うし。
「大丈夫だよ! 世界中の人がやってるしエリアも広大だからリアルの知り合いに会う確率はとっても低いよ~。今回のアップデートで始まりの街も50ヵ所に増やしたし。あ、一緒にプレイするお友達がいるなら近くの始まりの街に設定し直すから安心していいよ!」
まじか。
始まりの街多過ぎ。