第五十八話 闇の大魔法使い
俺たちが聞いていた植田の情報は確かこうだった。
青髪。
老け顔。
安田先生と同等の力を持つ。
前科学部顧問。
…ジャージとパンツしか着用していない。
そう聞いていた。
俺たちが扉の先に進んで見たものは…。
いかにも悪役みたいな服を着た植田と部屋の隅の方にある通信販売の『アマズン』の段ボールだった
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「遂にここまで来たか…」
ラスボスの様な雰囲気を醸し出して、植田は低い声で言う。
いや待て。
「なぁ、あそこにある『アマズン』の段ボールが邪魔じゃね?」
岳信はこそこそと俺に言ってきた。
仕方ない。
あれのせいで雰囲気最悪である。
「多分、雰囲気に酔ってるんだろ。こんな機会、普通の人じゃ経験できないしな」
岳信は納得したようで、植田の方を見る。
「久しいな、ひろと。あの戦い以来か」
安田先生の名前って、ひろとだったんだ…。
知らなかった…。
「黙れ。お前なんて二度と会いたくなかったよ」
いつもの安田先生の優しい口調は消え、今まで見たこともない先生の顔を見る。
鋭くなった目。
まるで、親の仇でも見るような目だ。
「何を言っている!僕がどれほどこの時を待ちわびたことか!」
そう言って、植田は力説する。
「長年、ずっと待っていたよ。君とやり合うのを。君と出会ってもう二十年は超えているか。今まで以上に君に会うのを心待ちにしていたね。多分、人生で一番待ち遠しかったよ。あの時、僕が『災厄の書』から手に入れた力をまだ君に試せていない。あの戦いはノーカンだよ。君と一対一じゃなかったからね。僕はまだ自分の力で君を超えていることを証明できていない。そうだよ。一度も僕ら二人は戦ったことはないんだよ。僕は『災厄の書』を手に入れて大きな力を得てから君と本気で戦えていないんだ。ほんと残念だよね。初めてこの力を手に入れた時はこう思ったよ。勝てるってね。君にも、その後ろにいる生徒にもどんな邪悪なる存在も、…大魔法使いにも。『災厄の書』を手に入れた時、僕の心は喜びで満ち溢れていた。嬉しくてかなり嬉しくてとても嬉しくて物凄く嬉しくて一番嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしいうれしい…。嬉しかった!」
…うわー、気色悪。
長いよ。
嬉しいの一言で終わらせろよ。
「あいつ、かなりキモい。オエッ」
夢呂日の気分が悪くなっていた。
かなりの狂人だなぁ。
力を求め過ぎた馬鹿って感じか。
「ほれ」
ふと、陰影が何かを投げる。
コン、コンとと少し跳ねて転がっていく。
それは植田でもなく部屋の端にあった『アマズン』のダンボールへと転がっていく。
…転がっていたのは陰影の魔道具、『リア充』だった。
「「「あ」」」
その場にいた陰影以外の科学部員全員が唖然とした。
「ちょ、待っ…」
ドカン!と、『リア充』が爆発する。
爆発した後からは黒い消し炭となったダンボールの残骸やたくさんの雑誌残骸が出てきた。
「お前…何してんの?」
思わず、大阪弁で突っ込んでしまった。
陰影は如何にも当然といった感じでこう言った。
「だって、こんなシリアスなのに、あれあったらカッコよくないじゃん」
「「「まぁ、そうだけど」」」
科学部員一年は同じ事を考えていたらしい。
「ああああ!僕の大事なお宝がぁぁあああ!数々の小学生から特選した超美少女写真集だったのにぃぃぃ!ああっ!ハルカちゃあああん!ミクルちゃあああん!」
植田はその残骸を見つめて大泣きしだした。
おい、まさか。
「どうやら、奴はロリコンらしいな」
夢呂日が悟ったように言う。
………。
「…お前と一緒だな」
陰影が俺が言おうか迷っていた事をきっぱりと言った。
「何言ってんだよ⁈俺はロリコンじゃねえ!」
「でも、あの中身見たかったんじゃないの?」
「っ…、そんな事はない」
「ローリコン!ローリコン!」
「うっせえ!岳信!」
岳信と陰影が夢呂日を挑発する。
目の前に敵がいるのに自由すぎるだろ。
「貴様、陰影!僕の仲間になったと思ったら、裏切って、さらには僕の大切な少女達を殺すなんて(涙)!絶対殺す!」
「「「「ウェーイ!ローリコン!ローリコン!よっ!」」」」
夢呂日の次に植田を挑発する。
ついでに言うとこの挑発は科学部員全員で行なっている。
俺も混じって、挑発している。
「ぶっ殺してやる‼︎」
植田が魔法を唱えようとしている時、俺達は全力で逃げる。
まずは我らが大魔法使い。
安田先生の出番だ。
「いきますよ!まさし!」
植田の名前はまさしだったのか。
まぁ、とりあえずこの長いボス戦直前の会話が終わり…。
大魔法使い同士の戦いが始まった!




