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科学部の大魔法使いⅠ-強い絆でー  作者: ゴマ団子/Masari
第6章 科学部の魔法使い達
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第五十三話 過去編 俺の中の光

「そろそろ死んでよ。クソ兄貴」


そう言って桜花は、魔力の塊を俺に投げつけてくる。

幸い、『大根』とかいう馬鹿げたナイフをいつも避けていたので、その塊を避けるのは容易だった。

俺は、その正体を掴んだ。


「俺のビームと同じもの⁈」


魔法に関して、物質というものが存在するのかは分からないが、俺は桜花の放った魔力の塊が自分が放つビームと、全く同じものだった。

今の俺にはそれが分かった。

ただ違うのは、俺が筒状なのに対し、桜花が球体であることだ。

当たった時のダメージが多いのは俺だが、コントロールがしやすいのは桜花の方だと思う(例をあげると俺が消防車のホースから出る水で桜花が水風船)。

それに周りは住宅街。

俺が圧倒的に不利だ。

それに、いつ周りの人が出てきてもおかしくない。

…ここじゃ駄目だ!


「逃げんな!」


俺は崩れた俺の家から走り出す。

絆ももう、壊れているだろうし、魔法ウォッチも無い。

あとは…。

俺はポケットに入れた携帯を操作し、電話をかけた。


『ごめん!ほんと待って!俺今、人生で最高のう◯こが出そうなの!』


「知るかぁぁぁぁぁあああ!!!」


俺は岳信との通話をきった。

どうやら俺は自分の魔法の力だけで倒さなくてはならなくなった。

というか、電話などしている場合ではなかった。

妹の方が身体能力が高い。

あと三秒もすれば追いつかれるのではないかと思う距離だった。

しかし、俺もただ闇雲に逃げるほど馬鹿ではない。

俺は、近くにある公園の中に入った。


「よし!」


ここなら少しはマシだ。


「くらえ!」


公園の入り口から、桜花はビーム弾をいくつも投げてくる。

俺はそれを素早く避ける。

試しに…。


「っは!」


俺は空に手を構え、入学以来初めてのビームを雪の降りしきる空へと放った。

まばゆい光が雲を貫き、空から宇宙へと駆け抜ける。

勢いで雲が円状に広がり、太陽の光が差し込んで、降る雪は消えていった。


「やっぱ、そうか」


俺が、まともに魔法を使ったのは最初の科学部以来だ。

カルメ焼きを作った時に威力が強すぎるのが欠点だった。

ということは…。


「ふん!」


桜花の投げてきた弾を避ける。

どうやら俺は、助けを待つか、魔法なしで桜花を倒さなければならないらしい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


しかし、それは99.9%無理だった。

カッコいいアニメのように残りの0.1%で勝つなんてことはできない。

桜花は遠くからビームを撃ってくるだけだし、それを避けているので近づくことすらできない。

そして、応援もこない。

岳信のう◯こはどんだけ長いんだ!

なので、桜花に勝つには他の方法を考えなければならない。

せめて、絆さえあれば…。


「いい加減にしろよ!さっさと当たって死ねよ!」


「無理なこった!今日はサイクリングなんだよ!」


でも、そろそろ体力が尽きそうだ。

マズイ。

何か手は…。

アイツらを迎えに行ってもすれ違いになるかもしれないし(ワープで来るから尚更)、さらに被害を大きくしてしまう。


「なぁ、クソ兄貴」


言葉なしに弾を撃ち続けていた桜花が口を開いた。


「あ⁈なんだ」


「クソ兄貴は今の自分が好き?」


唐突な質問だった。


「そうだな…。好きではない」


俺は、何もできない自分が。

妹より劣った自分が。

一人じゃどうすることもできない自分が。

仲間に頼ることしかできない自分が。

山出谷 学が。

俺は‘‘嫌い’’だ。


「じゃあ、死んだらいいじゃん。生きてても楽しいことなんかないでしょ。新しい世界で楽しく過ごしたらいいじゃん」


確か、前に夢呂日が言ってたな。

『この日本で、平凡な中高生は異世界に転生したりして、ハーレムを作れるんだぜ!』って。


「確かに、魅力的だな」


俺は平凡に含まれるだろうか?

でも、魔法使えちゃうしな。

異世界でハーレムは…。


「やっぱ、無理だわ」


「あっそ」


それに…。


「⁈」


桜花は驚き、思わず手を止めてしまう。

俺は立ち止まった。

いや、俺は桜花が驚く前に立ち止まっていた。

なぜなら、桜花を驚かせたのは俺だからだ。

俺は立ち止まって、桜花のビーム弾を真正面から右手で殴った。

硬いのか柔らかいのかもわからない。

熱いのか冷たいのかもわからない。

ただ、重たいものがものすごい速さで当たったことだけがわかった。

光が弾け、粉砕する。

手の甲の皮膚がなくなり、血が流れ出す。

感覚神経が脳に痛みを伝え、肩が外れそうになる。


「っ!」


悲鳴をあげそうなのを堪え、俺は言う。


「桜花。さっきお前は俺に、生きてても楽しいことなんかないって言ったよな?」


俺は、兄が妹に何かを教えるように言った。

当たり前のように。


「今日はサイクリングに行く約束してるんだよ。…まぁ、全然来ないけど」


「それ、ほんとは嫌われてるんじゃないの?」


桜花が皮肉そうに言う。


「かも…しれないな。でも、俺が言いたいのはそういうことじゃない」


俺は痛む右腕を抑え、笑顔で言った。


「俺は今、楽しいんだよ」


あの、理科室の中で繰り広げられる、科学部の物語が。

まるで、漫画の最新巻を待つように。


「あの物語が終わるまで、俺は死ねない」


「ふん、じゃあ、最終巻である卒業したら死ぬのかよ」


「なんでだよ。この世に漫画は一冊しかないのか?」


「…」


「俺にはたくさん物語がある。小学生の物語だったり、赤ん坊の物語。面白くないかもしれないけど家族の物語もな」


俺はたくさんの物語の中を生きてきた。


「ひょっとすると、俺の恋愛物語が始まるかもしれないだろ?そんなもん読まずに死ねるかよ」


俺は笑いながら言う。


「俺は今の科学部が一番面白いとこなんだよ。俺はこの物語の登場人物にたくさんのことを教えてもらった」


魔法の事を、安田先生に。

受験の苦しさを、三年の先輩に。

今を楽しむ事を、二年の先輩に。

そして、あの三人。

あの、騒がしい奴ら。

夢呂日には仲間に頼ること。

…一人ではできないから。

陰影には仲間を信じること。

…信じなきゃ勝てないから。

岳信には大切な仲間がいることを。

…俺が気づかなかったから。

いいとこを横取りされたり、裏切った様に見せかけて戦ったり、校庭100周すると約束した。


「だから俺は…」


俺は当たり前のことを言う。


「生きる」


俺の体が輝き始める。

俺が主人公の物語の新たなる始まりだ。

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