第三十七話 やっと終わった
「ふぅ」
なんとか、ペットボトルロケットが美術部に激突するのを防げました。
このままではクレームがきて、大変なことになっていたでしょうしね。
「安田先生」
屋上で体育大会の様子を見ていると、小橋先生が声をかけてきました。
彼は最近準備室にこもって、魔道具を作っていました。
「なんでしょう?」
「ずっと気になっていたんです。あなたがどうして科学部を拠点とし、科学部員の力を借りようとするのか」
「植田が以前科学部を拠点にしていたからですかね」
それぐらいしか思い浮かびませんね。
「あなたほどの大魔法使いなら、科学部員の記憶を消して、他の才能のある人達に力を借りるべきでしょう」
なるほど。
確かに、陸上部などと言った運動部に任せれば戦力になる能力を手に入れた生徒に出会えたのかもしれませんね。
ただ…
「ひょっとすると、私は植田に憧れていたのかもしれませんね」
「なるほど、そういうのは映画にもありましたしね」
ちょっと違和感が残りますが、伝わったようです。
なんで、科学部なのでしょうか…
「そうだ、安田先生。新しい魔道具が完成しましたよ」
「本当ですか?いったいどんな物を作ったのですか?」
「それはですね…」
きっと、『親友』の教え子だったからでしょうか。
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「何が起きた⁈」
ペットボトルロケットが美術部に激突しそうになった。
あれは確実に当たる…はずだった。
「ありえない。普通に考えれば、いくら強い風でも必ず美術部の誰かに当たっているはずだ」
夢呂日もかなり驚いていた。
「俺、ロケットが地面にぶつかるとこ見れなかったぞ」
岳信も目をこすりながら言った。
誰かが能力を使ったのか?
『皆さん!』
この心に語りかけてくるのは…安田先生か⁈
『今は動揺せず、行進を続けて下さい!』
あれ?
周りの人は気づいてないのか?
普通に盛り上がっている。
「次は書道部です」
書道部が来た。
早く退場しないと。
俺たち三人は先輩達の列に戻り退場していった。
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「なぁ、ペットボトルロケットさ、おかしい動きしたよな」
退場門を過ぎた後、目立つのを嫌がって、列に並んでいた陰影が聞いてきた。
「ああ、お前か先輩が阻止したのか?」
「いいや、俺と先輩も何もしてない」
陰影はきっぱりと否定した。
だとしたら…やはり、新しい使者が能力を使ったのか?
だとしたら、なんで美術部を守ったんだ?
「皆さん!」
向こう側から手を振りながら安田先生がやって来た。
「先生。なんかペットボトルロケットが美術部に当たらなかったんですけど」
岳信、お前その言い方だと美術部を狙ったみたいになってるぞ。
真の黒幕はお前か。
「あ、その点は大丈夫です。ペットボトルロケットを止めたの私ですから」
マジかよ。
「最初のクラブの時と同じ事をしたんですよ」
最初のクラブの時って何したっけ…
あ、言わない方がいいな。
「なんだよ、久しぶりにバトルできると思ったのに」
そういや最近魔法を使う場面減ったな。
敵が出てきてくれないのはいい事なのだが。
「そんなことより後輩ら、成功したな!」
岡本先輩が言った。
安田先生がいなければ成功どころではなかっただろうが、まぁいいか。
「後輩達には本当に迷惑をかけたな。あれだ、今度打ち上げやって、その時奢ってやるよ」
と太っ腹な事を言ってくれた張先輩。
「やった。散財させようぜ」
「やめてやれ」
酷い事を言う陰影に突っ込む夢呂日。
でも、奢りか…
正直言ってすごく嬉しいが、控えめにしておくのが社会の基本。
「先輩、ありがとうございます!」
こいつらにもしっかり言っとかないとな。
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その後も体育大会は続いた。
だが、俺が語ってもそう面白くない。
やはり体育大会はリア充の為にあるのであって、科学部には日常が似合っている事がわかった。
そうして、体育大会は幕を閉じた…。
やっと終わった。
行事なんて糞食らえだ。
その夜。
先輩達はなんと食べ放題の焼肉屋へ連れて行ってくれた。
さらに奢りである。
というか、先輩達金持ちなんですね。
そして、悲しい話。
俺は科学部に入ってよかったと今までで一番思ってしまった。




