最悪の出会い
「はぁ…。」
やってしまった、と俺は溜息をついた。勢いに任せて、色々言ってしまった。学校が終わった後、俺はどの面下げて、家に帰ればいいんだ…。
あの時、心配し過ぎてくる二人に、かなりの苛立ちが溜まっていた。それを年甲斐もなく、吐き出してしまったんだ。山吹も、学校で顔を合わせることになる、そうなれば…。いや、あいつの事はいい、嫌われるには丁度いい。心配した奴にあんな態度をされたら、俺だったら絶対うざいって思うし、最低な奴だと思う。というか、俺、いつもは演技でやってる事を素でやっちまったのか…。すっかり、板についたな。
いや、もしかしたらこれが本当の俺なのかもしれない。俺は元々、最低最悪な屑だったのかもしれない。そもそも、屑じゃなかったら、嫌われるために誰かを傷つけるとか、発想に至れないだろう。
そういえば、あいつは何で家に来たんだ?俺を迎えに来たとかか?流石にそれはないか。だって、今日俺が来るとは限らなかった筈だ。じゃあ、一体何なんだ?婆ちゃんか爺ちゃんに用があったってことか…?ということは、知り合い?こんな朝から何があったんだ?しかも、学校のある日に…。
そんなことを考えながら歩いていると、前から来ていたらしい女性に、俺は思いっきりぶつかった。
「きゃっ!」
俺のぶつかった女性は、手に持っていた大量の紙を道路に撒き散らした。
「すいません!ぼーっとしてて…。紙拾います!本当にすいません!」
落ちた紙には、沢山の言葉、イラスト、そして顔写真があるものがあった。なんかの資料だろうか?
俺は、慌てて落ちた紙を拾い始めた。
「資料読んでる最中に、ぶつかってこないでよぉ。」
黒髪の黒いスーツに、黒いハイヒールの女性は、俺が拾い終わるのを待っているようだ。ちらっと上を見ると、もの凄い形相で見下していた。その形相がとてつもなくやばかったので、俺は慌てて下を向いた。
拾わないのかこの人…、確かにぶつかったのは俺だけどさ…この人もよそ見してたって言ってたじゃん…。別にいいけどさ…。なんか、この人綺麗だけど、女王様的雰囲気を醸し出してて怖いな。
速く紙を回収しようと、最後の紙を取った時だ。
その紙には見覚えのある人の写真があった。それは、御手洗先生だった。まるで履歴書の様に先生の情報が詳細に載っているようにも見える。何なんだ、これ…?
「ねぇ、まだ終わらないのぉ?殺すよぉ?」
「え゛!?あ、いや、すいません!あとは、纏めるだけなんで!」
怖い!この人怖すぎる!急いでるなら、俺と一緒に拾ってくれても良くないか?
それから、少しして、なんとか、纏め終わった紙を女性に差し出した。
「すいませんでした…。怪我とかないですよね…?」
俺の声はかなり震えていた。ちなみに、足もがくがくだ。
「あははっ!この程度で、この私が怪我ぁ?笑わせないでよぉ。そんな軟弱じゃないのよぉ。」
そう言うと女性は、俺から紙を奪い取るように受け取った。
良かったーまぁ…怪我なんかさせてたら、もう既に俺はこの世には居なかったなと思う。
「あ、あはは…、良かったです、はい…。」
嗚呼、これで開放される…そう思った時だ。女性が、俺の顔をじっと見ていることに気がついた。
何だ?何だ?俺の顔に何か気に食わない点でもあるのか?
暫くその状態が続き、俺はどうしたらいいのかわからず固まっていた。
そこに、遠くから、一台の黒い高級車が現れた。女性は、何故気付いたのかは不明だが、後ろを振り返り、その車を確認すると、物凄い笑顔で、こう言った。
「可哀想。」
俺が可哀想…?赤の他人になんで、そんなこと言われなきゃいけないんだ?
遠くから来た高級車は、気付けば俺達の隣に止まっていた。
女性が、その車に近付くと後部座席のドアが開き、そこへ入っていった。
そして、車の窓が、ゆっくりと開いた。
「あははっ…ほんとぉ…滑稽ねぇ。」
俺をゴミを見るような目で見ながら、俺を嘲笑った。
その後、車は物凄い勢いで、俺の歩いてきたくねくねとした道を難なく通っていった。
気付けば俺は、その車が消えるまで見送っていた
滑稽?可哀想?俺の…何を知ってんだよ!クソが!
俺は、またイラついて持っていた鞄を地面へ叩きつけた。